新編・伊勢物語 第五十七段 まひまひ 星原二郎第五十七段 まひまひ むかし、男ありけり。今も男ありけり。 その男、ある日の午後 自宅近くの交差点にて 信号の変るを待ちゐれば、今し渡らむとする まひまひつぶりを見つけけり。その速度いと遅く 自動車に轢かれむかと心配し 保護の後、目的の安全の 地に移しやりて歌を まひまひが 横断歩道を 渡らむと 這ひゐる見れば 見捨てて行けぬ と詠み、先を急ぎしかば まひまひつぶりのお礼の声を聞きのがし お礼に会釈の角(つの)を下げしかも定かならざるなり。