新編・伊勢物語 第五十六段 紫香楽宮の瓦 星原二郎第五十六段 紫香楽宮の瓦 むかし、男ありけり。今も男ありけり。 その男、平成二十七年の初冬、信楽の里へと行きけり。 信楽の里は奈良時代の一時期、聖武天皇の都が 置かれしところにて、元来は東大寺の造営予定地 瓦などの出土品、あまたあり。 その男、その一つを手に取りて、歌を 天平の 甍の瓦 重たかり 紫香楽の宮より 出土せしとふ と詠み、千三百年前の様子を眼を閉ぢ づしりと重き瓦の欠片に持ち 遠き奈良の世に思ひを馳せけり。