第五十四段 片目の魚
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、知立神社の近くに住みけり。折々、散策を
兼ね参拝を慣ひとしたり。
ある日、その神池の高札を読みけり。
高札に曰く。
東海道名所図会に「知立神社に御手洗池あり。片目の魚、棲みけり。片目の魚は村娘の目の病気を身代はりとなり、救ひしとの言ひ伝へありけり」と。
読みて、歌を
この池に 片目の魚の 棲むといふ
謂れ読みては 水面を見詰む
と詠み、鯉と石亀は見ゆれど、片目の魚は
水底に潜みてゐしか、見つけること叶はざれば諦めけり。