第五十一段 丈山苑の大石
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、ある日 安城は和泉の里の
丈山苑へと行きけり。
そこは京都の詩仙堂の主である
石川丈山の生誕の地なり。
かの徳川家康公に仕へしが
大坂冬の陣にて先駆けを咎められ
あっさりと武士を捨てし人なり。
そこにある大石に腰を下ろし、歌を
戦国の 世に武士捨てて 雅のまこと
もとめしひと思ふ 石に座りて
と詠み、武士にては名を残さず、雅の道にて名を残すも
囲碁の世界にていふところの「これもまた一局」に準へしかば「これまた見事の一代」と思ひけり。