第四十六段 諏訪湖を望む小坂観音院
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成二十七年十一月のつごもり
諏訪湖を望む小坂観音院へと行きけり。
諏訪氏は諏訪地方の名家にして諏訪大社の
社家を代々務めし家柄なり。
されど、甲斐の武田信玄公の
諏訪進出により家系断絶。
ひとり残されし御寮人
後の武田勝頼公の生母が短き生涯を終へし所なり。
諏訪湖を望む松林の中の小坂観音院の境内に立ちて
歌を
何を思ひ 何を願ひて かの姫は
諏訪湖見下ろし 一生終へしや
と詠み、井上靖氏の小説「風林火山」にては
「由布姫」の名前にて登場せし姫の
二十五歳の短き生涯を偲びけり。