新編・伊勢物語 第四十五段 水槽の金魚 星原二郎第四十五段 水槽の金魚 むかし、男ありけり。今も男ありけり。 その男、三河の国の豊川市に生を享けたる者なり。 しかして、この三河の地に死ぬことを望みけり。 かかる時、たまたま目にしたる金魚に その思ひを託し、歌に 水槽に 金魚は一生(ひとよ)を 終へてをり 吾は三河に 生(あ)れて死にたし と詠み、その覚悟、森鴎外の遺言の 「余ハ石見人 森林太郎トシテ死セントス 墓ハ森林太郎ノ墓ノ外一字モホル可ラズ」 に倣ひ揺るぎなきものと思ひけり。