第四十段 漫画家の水木しげる先生の逸話
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、漫画家の水木しげる先生の逝去に際し
ある逸話を思ひ出しけり。
そは若き日、美術専門学校に受験の折
定員四十名のところ受験者は四十一名。
つまり落伍は一名なれば、高を括り受験せしが
その一名の不合格者に彼はなりたり。
今風に申せば「落ちこぼれ」なり。
されどこの事がその後の彼の不屈の
人生の起点とも思ひけり。
かかる事を思ひつつ歌を
先生は 妖怪なれば これの世と
あの世自在に 往き来するらむ
と詠みけり。
この逸話、漫画雑誌「ガロ」の名編集長の
長井勝一氏より聞きし話なり。