第三十六段 今日は亡母と初孫の誕生日
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男の母親、昭和元年十一月二十七日生まれにして
平成四年二月十八日に死去してをり。
しかれども、今日は生あらば九十歳の祝ひと覚えければ
歌を
幽明は 異にしすれど たらちねの
卒寿祝ひて 旨酒捧ぐ
と詠みけり。その男にとり、あの世とこの世の隔たりは
何の障壁にもならずと思ひけり。
更に今日はその男の初孫の十歳の誕生日なれば
偶然ならず、生まれ替りとかたく信じけり。