第三十三段 ナウマン象
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、ある日の新聞記事にて長野県北部の野尻湖畔の
遺跡調査をいと興味深く読みけり。
読みてその記事に想を得て歌を
ナウマン象の 血の痕残る 矢尻出づ
野尻湖ほとり 豊けき野山
と詠み、縄文以前の旧石器時代を思ひけり。
日本列島を我が物顔にのしのしと群れをなし歩く
ナウマン象は迫力あらむと思ひけり。してその群れを
粗末なる石の槍にて獲らまえむと追ふ旧人達の必死の
格闘の様子を思ひ描きけり。
その後、ナウマン象を獲り食べ尽くしたのか、姿を消しけり。げに恐ろしきは、太古より変らぬ人の食欲なりと思ひ至りけり。