新編・伊勢物語 第二十七段 遮光器土偶 星原二郎第二十七段 遮光器土偶 むかし、男ありけり。今も男ありけり。 その男、ある日豊田市は稲武の 日帰り温泉へと行きけり。 露天風呂に寛ぎ、徒然なるままに夏の雲を見てをり。 しかして、その雲のひとつ、いと面白き形にて 眺めゐるほどに 姿整ひたれば歌を 縄文の 遮光器土偶の 形して 三河稲武の 空に浮く雲 と詠みて、石川啄木先輩の不評にして 全く売れなかった小説「雲は天才である」を雲だけに、 湯の中にゐるせいもあり 思ひ 浮かびけり。