第二十六段 根岸の子規庵
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成の或る年の秋
東京へと新幹線にて行きけり。
東京は根岸の里の子規庵へと念願叶ひ行きけり。
正岡子規先生はその男の尊敬する一人なり。
庭に正岡子規先生の辞世の俳句
「痰一斗 糸瓜の水もまにあはず」に因り、
糸瓜棚ありて、程よき糸瓜ぶら下がりゐれば
歌を
子規庵 の終焉の間に われもまた
臥して糸瓜を 仰ぎ飽かずも
と詠み、涙流るるに任せ、時の過ぎ行くを忘れ
特別誂への愛用の机を横に
正岡子規先生の有名なる
写真のポーズを取り眺め続けり。