第二十四段 美山の子守唄
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、京都の美山地方の子守唄を聞きて歌を
京都の 美山地方の 子守唄
「泣く子は切って刻んで 油で揚げて」と
子守唄 なれど恐ろしき 唄なりと
けしう心に 残りけるかな
空腹に 泣き止まぬ子を 背負ひては
ただあやしつつ 歩きゐるのみ
労働の 辛さに耐へて 切々と
唄にうたひて 継がれきにけむ
引用の「泣く子は切って刻んで油で揚げて」の前の歌詞は
「面の醜い子は まな板に載せて 青菜切るよに ざくざくと」。後の歌詞は「道の四辻に灯しおく 人が通れば なみあみだぶつ 親が通れば血のなみだ(以下略)
(五木寛之氏著「みみずくの夜メール」より)
その残酷性の高い歌詞が生れた背景は過酷なる労働条件ゆゑと思ひ至りて哀れ深しと思ひけり。