第十二段 言霊の幸はふ国
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、平成の或る日、市原豊太氏の著書
「言霊の幸はふ国」なる書物を読みて
いたく感動を覚えけり。
そが中に、フランスの詩人にして日本大使のポール・クローデル氏の昭和十八年の発言の引用ありけり。
彼、曰く「私がその滅亡するのをどうしても欲しない一つの民族がある。それは日本人だ。これほど興味のある太古からの文明は滅ぼしてはならない。最近の日本の大発展も私には少しも不思議ではない。彼らは貧乏だが、しかし彼らは高貴だ」に触発されて
歌を
「貧しいが高貴である」と フランスの
大使言ひたる 日の本の民
と詠みけり。
ゆめゆめ吾等、日の本の民は「豊かであるが
卑しく」なってはならぬとの思ひを強く抱きけり。