第十一段 祖谷にて
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
平成二十七年の秋のある日
その男、四国は祖谷へと
平家落人の歴史と伝説を訪ね行きけり。
山高く、谷深き地にて、田の無き事に驚きにけり。
さぞや、平家の公達 米を食べたかりきを我慢の
隠れ暮らしの日日であったことと推察しにけり。
耐へ難きを耐へ、いつの日か平家再興を願ひ
幾世代に亘り守り続けた平家の御旗を拝し涙流しけり。
かかる時、たまたま夕刻なれば沈む夕日に
歌を
祖谷にして 平家の旗の くれなゐの
色思はせて 落ちゆく夕日
と詠みて、かづら橋を渡り去けり。
ちなみにその男、平家一門の出とも
熊谷次郎直実の末裔とも
聞き及びしかど定かならざるなり。