第十段 鬼が恐れるものは
むかし、男ありけり。 今も男ありけり。
その男、芥川龍之介の小説「藪の中」を映像化し
ベルリン映画祭にて金獅子賞を獲得せし
黒澤明監督の映画「羅生門」を久しぶりに鑑賞し
左卜全の台詞、耳に残りけり。
そは羅生門に棲む鬼が、人間の
余りの恐ろしさを覗き見て逃げ出しぬ
といふものなれば歌を
人間の 恐るる鬼が 人間を
恐れて山へ 逃げ隠れにき
と詠み、芥川龍之介氏も黒澤明監督も
共に具眼の士なれば
人間の本質について、鼎談出来ればと願ひけり。