医学部大学等事件5、医師国家試験合格率100%の是非〜教育効果向上か、卒業制限によるものか? | 医療事故や医学部・大学等の事件の分析から、事故の無い医療と適正な研究教育の実現を!金沢大学准教授・小川和宏のブログ

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医療事故死は年間2万-4万人と推計されており(厚労省資料)交通事故死の約4-8倍です。医療問題やその他の事件が頻発している金沢大学の小川が、医療事故防止と事故調査の適正化や医学部・大学等の諸問題と改善を考えます。メール igakubuziken@yahoo.co.jp(なりすまし注意)

医学部大学等事件5、医師国家試験合格率100%の是非~教育効果向上か、卒業制限によるものか?

今朝の金沢は青空が広がっていましたが、明日から明後日(木曜から金曜)頃は荒れ模様になるという予報です。
皆様のところはいかがでしょうか?

 前回は、医学部学生による授業の評価アンケートで高評価だった私の授業が、不正経理通報後に激減され、患者死亡通報直後に皆無にされた件でした。

 今回は、今年春の金沢大学新卒生の医師国家試験合格率が100%になり(合格者の皆さん、おめでとうございます)、これ自体は喜ばしいことですが、それが達成できた理由は何かという話題です。


1、合格率上昇の一般的な理由と、金沢大学の合格率、入学・卒業者数などの推移

 入学時の平均的学力や国家試験の全国合格率に大きな変化がない状況で、ある大学の新卒者の国家試験合格率が100%に上昇する主な理由として、一般的に次の2つが考えられます。

(1)医師国家試験に危なげなく合格するレベルに学生全員が至ったという、教育効果の向上。

(2)国家試験に不合格になるかもしれない学生が卒業や進級できないように、大学内でのハードルを上げての、卒業の制限(確実に合格するレベルの学生しか卒業させない)。


 まずは、次の、金沢大学医学部・医学類新卒者の医師国家試験の合格率と、国家試験の標準年限前(通常は6年で、編入学生はそれより短い)の入学者数の推移です。
 なお、金沢大学医学部は組織名等の変更があったため、2007年入学生までは「医学部」、2008年以降の入学生は「医学類」の学生という名称です。


国家試験年  入学定員   受験者数  合格者数  合格率
      (標準年限前の)(新卒)  (新卒)  (新卒)

2007     100      96      92    95.8 %
(名称は2007年入学まで「医学部」、2008年入学から「医学類」)
2008     100     101      97    96.0 %

2009     100      98      88    89.8 %

2010     100      99      91    91.9 %

2011     100     103     101    98.1 %

2012     100     101     93    92.1 %

2013     100      94      92    97.9 %

2014     100     101      96    95.0 %

2015     110      95      95    100.0 %

 このように、昨年(2014年)の卒業生までは、標準年限前の入学者定員は100名で、多少の振れはあるものの、医師国家試験受験者数(新卒)も概ね100名前後で推移してきました。

 しかし、合格率が近年で初めて100%になった今年は、標準年限前の入学者数が110名と、昨年までと比べて10名増えていたにもかかわらず、新卒の医師国家試験受験者数は95名にとどまり、近年の100名前後より減りました。


2、標準年限前の入学者110名中、19名以上は標準年限の今年卒業承認されず

 今年春は96名が卒業を承認され、その中の95名が医師国家試験を受験して全員合格したのですが、その卒業を承認された96名の内訳は、7年前以降の「医学類」入学生91名、それより前の「医学部」入学生5名でした。

 すなわち、「医学類」学生として、標準年限前に入学した110名と、標準年限プラス1年前に入学した100名のうち、今年卒業を承認されたのは91名です。

 これは、標準年限前に入学した110名のうちの19名以上が、今年卒業を承認されなかった計算になります。


3、教育効果の向上か、卒業・進級ハードルを上げて卒業者を制限した結果か?その是非は?

 一般的に、医学部でも医学部以外でも、国内外への留学やその他の得難い経験をするためといった、積極的な理由で留年や休学を選択する学生もいますが、大多数がそうした積極的な理由というわけではありません。

 金沢大学医学部・医学類では、標準年限前の入学者数と国家試験受験者数が概ね均衡していた昨年までと変わって、標準年限前の入学者数と比べて国家試験受験者数が大きく減少(15名のマイナス)した今年、合格率が100%になりました。

 医学部の卒業のハードルの高さをどう設定するかについては、例えば次のような意見があります。

(1)医師の基本的レベルである医師国家試験くらい余裕で合格できる水準でないと、卒業を認めるべきではない。

(2)医師国家試験にある程度の確率で合格しそうなら卒業のハードルはそれで良く、国家試験によって判定し、合格する者は早く医療現場で就業するほうが好ましく、またその機会を医学生から奪うべきではない。

(3)医学部卒業生が全員臨床医になるわけではなく、基礎医学研究者や行政その他の領域で活躍する卒業生もいるので、医学部卒業のハードルを医師国家試験と結びつけて考えるべきではない。


 これらのどの意見も一理あると考えられます(ちなみに私は卒業時の国家試験で薬剤師、医師とも合格しました)。

 教育効果の向上か、卒業のハードルを上げて卒業を制限した結果か、皆様は合格率100%の理由をどう解釈なさり、そして上記のような意見の是非についてどうお考えになりますか?


医師国家試験合格率等の情報
2015年(第109回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi15(i).pdf
2014年(第108回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi14(i).pdf
2013年(第107回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi13(i).pdf
2012年(第106回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi12(i).pdf
2011年(第105回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi11(i).pdf
2010年(第104回)
http://www.melurix.co.jp/pdf/HPkokushi10(i).pdf
2009年(第103回)
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02829_01
2008年(第102回)
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02780_01
2007年(第101回)
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02731_01