『THE INTERROGATION(ヒトラー最後の代理人)』(2016) | 時は止まる君は美しい

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巡りあった美しい人達の記憶を重ねます・・・
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自分自身が「目をつぶる」戦争という仕事

 

エレズ・ペリー監督作品、イスラエル、84分

 

 

ロマナス・フアマン様、マチェイ・マルチェフスキ様、シラ・ドタン様

アウシュビッツ所長を、最も長く務めたルドフル・ヘス

その取り調べで、大量虐殺の事実を語るまでを、

舞台劇のように、抑えた演出で描いた作品。

 

 

 

作品冒頭、取り調べが始る時、捜査官兼判事が、

紙とペンを渡して、毎日、これに何もかもを書いていけ、と言う。

この場面が、『ラスト・エンペラー』を想い出させて。

思想が間違っていると断罪される人間をに、圧力をかけるには、

まず、過去を丹念に想い出させ、それを否定していくことが、

ある種の洗脳?手段になるのか、と感じました。

 

 

書くという行為は、自らの内面をさらけ出す行為でもあるから、

大変効果的な手段なのかもしれない。

 

 

最近、ことに集中して語られることが多くなった、

アイヒマンの名前も出てきます。査察に来た大物の一人として。

皆がユダヤ人虐殺必要な事と言い、

効率の良い毒ガスを使用したヘスを褒めたたえたが、

実際の現場を見て、声を失い、その仕事をうらやむ者はいない。

 

 

 

「何故、これに耐えて、見ていられるのか?」と聞く。

ヘスは「ヒトラーの命令は確実に慎重に、

人としての感情を持たず、実行するものだから」

と、聞かれる度に答えたと語る。

自分が命じて、虐殺の実行をした者たちにも、同じにするように命じたと。

葛藤がなかったのではない。

 

 

愛する家族幸福な風景を見ても、この幸せはいつまで続くのかと思い、

虐殺を見届ける時、家族の光景が頭に浮かぶことも。

それは担当者たちも同じだったようだ。

 

 

「虐殺が始まってから、幸せではなかった。」

動物大好きで、共に暮らすことを夢見、ポニーを愛した少年。

家族大切に想ったひとりの男。

 

 

彼から告白を聞き出し、処刑を見届け、

遺体安置所遺体との対面する男の表情もまた、

ヘスのそれと同じく、感情を殺して実行する者の表情のようだ。

戦争の悲劇も、それが終わり、敗残者が裁かれる時も、

どこに幸福があるというのだろう。

 

 

「悪の凡庸」で通すしかない現実

それでも尚、人は「正義」「大義」の為の戦いをやめない。

「戦後」も遠くなった日本。理屈での善悪を説く人物も現れ、

純粋で、真面目な人たちが、彼らの声に傾いている。

そんな状態が、新たな「後悔」の元にしかならない、

戦争へと結びついていく日が来ませんように。

こういう記事を書くだけで、精神的にきついです。

でも、直視しないといけない問題だと思います。

 

 

その日が来たら、自分も彼らのように感情を殺さないと生きていけないでしょう。

始まってしまったら、それを正しいこととしなくては、許されない

当たり前の日常だと、大切な人たちが死地に赴くのも、としなければならない。

今日、長崎で、一瞬にして「日常がなくなった日」に、

想うだけで息苦しくなるけれど、考えなくてはならない想いを捧げて