NILS WOGRAM'S ROOT 70 / GETTING ROOTED | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

ううむ、この人は凄いっ!!と、最初に言っておこう。
NILS WOGRAMは、FLORIAN ROSS(p)のSEASONS & PLACES (Naxos)とLILACS AND LAUGHTER (Naxos)に参加していたトロンボーン奏者。この人、トロンボーン上手いんちゃうん?ということでちょっと気になってリーダー作を2枚入手してみたのですが、彼の演奏技巧ときたら超絶そのものじゃありませんか!いやー、聴いてみるもんですなぁ。上手いとは思っていましたが、これほどとは...。あまりの凄さに思わず唸ってしまいました。

これまでの私は、トロンボーンに対しては、特に速いパッセージのときなど、もどかしさがつのるばかりでちっともエキサイティング出来ず、いまひとつ面白くない楽器だなあと感じることが多かったというのが正直なところです。ところが、NILS WOGRAMの演奏を聴いてびっくり。目から鱗が4枚は確実に落ちました(二重だったのよん)。もちろん私は、本作でトロンボーンに対する認識を改めましたとも。そう、トロンボーンって面白い!ってね♪

本作は2003年2月録音、同年リリース。全10曲のうち8曲がNILS WOGRAM作曲、残りはHAYDEN CHISHOLM作曲。リーダーがNILS WOGRAMで、ドイツ出身とニュージーランド出身が2人ずつですが、全員が1970年代に生まれているということでROOT 70というバンド名になったとか。本作のドラマーJOCHEN RUCKERTもFLORIAN ROSS(p)のSEASONS & PLACES (Naxos)に参加していてかなりハイレベルな演奏を聴かせていた人です。ベースはMATT PENMAN。アルトサックスとバスクラを担当するHAYDEN CHISHOLMは知らない人です。
甘口のメロディーや分かりやすいフレーズなどは皆無ですが、4人の鉄壁アンサンブルによるシリアスでコンテンポラリーなジャズはエキサイティングそのもの。特にNILS WOGRAMとHAYDEN CHISHOLMによる高速フレーズのコンビネーションには目を見張るものがあり、息の合ったところを見せ付けてくれます。ゆったりしたテンポの曲もいくつかありますが、そういう場面においてもこの二人の演奏に軟弱さや不安定さは微塵もありません。

いや~、もう、のっけから驚かせてくれるじゃありませんか。何がって、アータ...
1曲目のTHE YELLOW HAIR MANで「うわっ、今の何!?」と思ったら、NILS WOGRAMはトロンボーンで重音を出しています。おそらく歌いながら吹いているのではないかと思いますが、なんて器用な(笑)まあ、私、若葉マークがはずれたばかり(すずっくさん公認)のジャズファンですので、こういうことで驚くのは別に珍しくありません。以前にもJONAS KULLHAMMARがテナーサックスの吹きまくり爆裂ソロで1オクターブのなめらか~なポルタメントをやっているのを聴いてぶっ飛んだことがありましたから(^_^;) トロンボーンのアドリブソロは、テンポを上げた4ビートで吹きまくりでございますよぉー。
2曲目のCONCRETE VIEWは、始終ハイテンションでスピード感みなぎるダイナミックな演奏が素晴らしい。そして、ここでもやっています、トロンボーンの変な音(笑)それにしてもトロンボーンでこれだけ変かっこいいエキサイティングなソロが出来るNILS WOGRAMは本当に素晴らしい。MATT PENMANのベースソロも◎。そして、そして、JOCHEN RUCKERTの叩きまくるドラムも!
4曲目のQUALITY TIMEは、あっ、また変な重音出してるっ?!と思ったら、たんにトロンボーンをメロディカに持ち替えていただけでした(;^_^A

と、このように1曲目からビックリしたかと思うと、トロンボーンの多彩な超絶技巧のオンパレードに大喜びのアーティチョークだったのですが、実は、本作の「ビックリ!」はこれで終わりではなく、とっておきが残されていました。

5曲目のCHANGING DIRECTIONで、いきなり聴こえてくるのは...まさか、まさか、ホーミー?(笑)
間違いありません、ホーミーですよ、皆さん!あ~、びっくりした。ジャズでホーミーやなんて、いったい誰が予想できますか、ほんまに(^▽^;) 右チャンネル寄りからはホーミー。左チャンネル寄りからはロングトーンを奏でるトロンボーンで、そのトロンボーンをいったん吹き終え、ぐっと息を溜めてからホーミーを発している様子がはっきりと聴き取れます。ということは、ホーミーをやっているのはおそらくNILS WOGRAMに違いありません(つまり、この部分のみ多重録音だと思われます)。しかし、器用さもここまでくると言葉というものを失ってしまいます(笑)って、6行も書いてしもたけど(^_^;)

7曲目のDRAGON PEARL MASSAGE MUSICは、高速な4ビートを叩き出すJOCHEN RUCKERTのブラシワークが◎。それをスティックに持ち替えるとさらに凄いのですが、もっと凄いのがNILS WOGRAMのトロンボーンソロ。これなどはまさに超絶そのものですね!トロンボーンという楽器で、これほど多くの音数を、こんなに速く、しかもこれほど恐ろしく正確な音程と美しい音色で吹ける人を私は知りませんっ!
などと言っていたら、
8曲目のWILD 13の、トロンボーンも面白すぎる。トロンボーンでこれだけ多彩な演奏が出来るNILS WOGRAMというひとは、一体...???トロンボーンという楽器の可能性を極限まで追求しているばかりか、その演奏がまた恐ろしいほどに正確無比ときては、私、目が点状態です。バンドの集中力とテンションも素晴らしいのひとことで、終盤、徐々にテンポをつけて盛り上がっていくところなど「うひゃあ~っ♪」という感じです(笑)
10曲目のMY MODEM'S WORLDは、かなり変態で、面白いっ!ド迫力です。

私は、確信いたしました。NILS WOGRAMは間違いなく只者ではなく、若手では最高のトロンボーン奏者です。彼の超絶技巧に付き合うほうも大変そうですが、他の面子だってけっして負けちゃあいません。特にNILS WOGRAMとの絶妙なアンサンブルを聴かせてくれるHAYDEN CHISHOLMと、叩きまくりのJOCHEN RUCKERTには注目してしまいました。

もう一つのリーダー作
■NILS WOGRAM & ROOT 70 / FAHRVERGNUGEN (Intuition INT 3397 2)(2006年リリース)
のほうは一体どんなことになっているのでしょうか。傾向の違う他の新譜を聴いてちょっと気分を変えてから(笑)上記新譜を聴いてみることにいたします。

御用とお急ぎでないかたはNILS WOGRAMのHPへどうぞ。
http://www.nilswogram.com/
上記HPの[projects]をクリックし、さらに[root 70]をクリックすると、本作の試聴が一部可能です。ライヴ映像もありまっせ~。

■NILS WOGRAM'S ROOT 70 / GETTING ROOTED (Enja Records Horst Weber ENJ 9149 2)
NILS WOGRAM (tb, merodica) (1972年11月7日、ドイツ生まれ)
HAYDEN CHISHOLM (as, bcl) (1975年ニュージーランド生まれ)
MATT PENMAN (b) (1973年、ニュージーランド生まれ)
JOCHEN RUCKERT (ds) (1972年、ドイツ生まれ)
入手先:HMV(通販)