SERGIO GRUZ TRIO / ENSEMBLE | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

SERGIO GRUZのことは全く知らなかったのですが、アルゼンチン出身のジャズピアニストというもの珍しさと、ドラマーのANTOINE BANVILLEが参加ということで入手してみました。SERGIO GRUZ(生年不詳、アルゼンチン生まれ)は、ブエノスアイレスの大学でジャズとクラシックを学び、1993~95年にはフランスに滞在して作曲とジャズピアノを教えていたこともあるそうです。ANTOINE BANVILLEは、JEAN-PHILIPPE VIRET TRIO他で活躍しているフランス人ドラマー。ベーシストのJUAN SEBASTIEN JIMENEZ(生年不詳、ベネズエラ生まれ)は、全く知らない人です。
スペイン語表記なのでよく分かりませんが本作はおそらく2004年録音で、MDR Recordsというアルゼンチンのレーベルから2005年にリリースされています。全11曲のうち9曲がSERGIO GRUZのオリジナル(ピアノソロの小曲を含む)で、1曲だけベーシストのJUAN SEBASTIEN JIMENEZ作曲、あとはVIOLETA PARRAYという人が書いた曲です。
届いてから分かったのですが、こんなえげつないジャケットは見たことありませんよぉ(笑)もしこれがLPの大きさなら、あまりの酷さに「ギョッ...」となってのけぞっていたことでしょう(^_^;)
ところが中身は全然違って、ロマンティシズムの横溢する叙情的な“静”と、エネルギッシュで硬質な“動”が巧みに交錯する洗練された上質な欧州ピアノトリオ作品といった趣。緩急とメリハリのついた三者一体の演奏には、上品さや清々しさを感じることもしばしばで、エレガントと表現してもいいほどなのです。いったい何なんでしょうね、このジャケは?(笑)

1曲目のENSEMBLEは、清々しいメロディを奏でる躍動的なピアノにまず心惹かれます。力強いベースソロもよし。
2曲目、VIOLETA PARRAY作曲のGRACIAS A LA VIDAは、古い歌曲やトラッドを思わせる哀愁漂う美しいメロディです。
一番のお気に入りは3曲目、ベーシストのJUAN SEBASTIEN JIMENEZ作曲のL'ILE TUDY。これ、めっちゃいいです~♪イントロの素晴らしいベースソロは音圧も豊かで生々しい音質。優雅なピアノがしだいに情熱的に。ブラシ、マレット、スティックを使い分けるANTOINE BANVILLE のドラムもいいですね。ゆったりしたテンポと変則リズムによるタンゴで、そこはかとなく漂う哀愁と官能の美がステキ!思わずうっとりと聴き惚れてしまうのです。中間部は少々アブストラクトぎみなインタープレイも。
4曲目のREQUIEMは、タイトルらしからぬ硬質さです。4分という曲の中で、序盤は間を取りながら音数少なく歌うピアノが、徐々に盛り上がり十分エキサイトしたのち、ごく自然に元の調子で終わっているというのが素晴らしいではありませんか。ピアノとドラムのインタープレイにエキサイト。
5曲目のPA'DELANTEは、9拍子でエネルギッシュに駆け抜けます。ANTOINE BANVILLEのドラミングが素晴らしいですー♪
6曲目のZAMBAは、しっとりとした雰囲気。ANTOINE BANVILLEの素手のドラミングに聴き惚れてたのに、フェイドアウトやなんてひどすぎるー!
8曲目のNO EXITは、ねじれたメロディのテーマが面白い。
10曲目のTIMEは、ドラマティックで清々しさも感じます。SERGIO GRUZのピアノの素晴らしさが一番よく分かる曲でしょうか。
ラストは、素朴で優しいメロディが印象的な牧歌的雰囲気。心が落ち着きます。

本作の1曲目にグッときたら、ラストまでの時間は短いと感じるほどの濃い内容の作品です。聴けば聴くほどその良さが分かるような気がして、何度聴いても飽きませんでした。ほとんどの曲が奇数拍子で出来ており、どの曲もひねりが効いています。空間を生かした思索的なパフォーマンスとエネルギッシュに突進する豪快なパフォーマンスが程よく織り成されており、上品で洗練されたラテンフィーリングを持つピアノは、全編に渡って聴き応え満点です。リーダーの音楽性をよく理解したベースとドラムスの二人にも光るものがあり、ピアノトリオ作品としても一級ですので、ジャケットデザインがああでなければ、もっともっと多くのジャズファンに手にとってもらえそうです。
*どうでもいいオマケ
中身とはなあ~んの関係もない外国人女性ヌードのジャケで殿方をフラフラと吸い寄せようと企むジャズがあるかと思えば(←吸い寄せられて買ってしまう殿方が大勢おるんでしょうなぁ。私は絶対に買いませんがね)、中身は素晴らしいのに、えげつな~いジャケで損してる本盤のようなジャズもある。ジャケットデザインと中身の組み合わせの不可解さは永遠の謎ですが(笑)タンゴ発祥の地アルゼンチンという遠い遠い国のジャズに出会うことが出来て良かったな~と思います。

「こんなえげつないジャケ、持ってるだけで気色悪い」という御仁は別にして、「えげつないジャケでも平気だもんね」というかたや、私のように「えげつないジャケと美しいジャズの組み合わせには特に惹かれます~♪」と仰る物好きなかた(笑)は、こちらで2曲だけ試聴が出来ます。
      http://www.mdrrecords.com.ar/cdgruz.htm
アルゼンチンにもこんなにいいジャズレーベルがあるんですね。レーベル設立は2003年だそうです。

JUAN SEBASTIEN JIMENEZのHPがありました。
      http://sebjimenez.free.fr/

■SERGIO GRUZ TRIO / ENSEMBLE (MDR Records MDR 1435)
SERGIO GRUZ (p)
JUAN SEBASTIEN JIMENEZ (b)
ANTOINE BANVILLE (ds)
入手先:VENTO AZUL RECORDS(通販)