GABRIEL ZUFFEREY / APRES L'ORAGE | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

実は、初めて本作を聴いたときはDANIEL HUMAIRのドラミングがモタっているのが気になって仕方がありませんでした(HUMAIRファンの皆様、ゴメンなさい<(_ _)>)。ただ単に彼のタイム感がいちいち私の気に入らないだけということなのかもしれませんが、演奏をぐいぐい引っ張ってゆく感覚に乏しいDANIEL HUMAIRのようなドラミングはどうも苦手なのです。(以前に聴いたDANIEL HUMAIR / LIBERTE SURVEILLEE(Sketch)でも、HUMAIRのドラムスには感銘を受けませんでした。)そのような訳で、最初は本作をあまり好きになれず、特に後半は集中力がそがれるせいか聴きながら寝てしまい気が付くと終わってたということが一度ならずありました(;^_^A が、何度も繰り返し聴いているうちにピアニストのGABRIEL ZUFFEREYの才能と本作の良さが分かるようになりました。

DANIEL HUMAIRが1998年のMARTIAL SOLAL COMPETITION(詳しくは最後の「*オマケ」をご覧ください)でGABRIEL ZUFFEREY(1984年4月、スイス生まれ)の演奏を初めて聴いたとき、ZUFFEREYはたったの14歳(!)だったそうで、彼はこのコンペでBEST NEW-COMER AWARD FROM SACEMを受賞しているそうです。
本作は、GABRIEL ZUFFEREYが大御所ドラマーのDANIEL HUMAIR(1938年、スイス生まれ)とベーシストのSEBASTIEN BOISSEAU(生年不詳、フランス)を迎えてフランスの振興レーベルBEE JAZZからリリースした初リーダー作で、全13曲のうちGABRIEL ZUFFEREYのオリジナルが8曲。3人の共作が3曲。スタンダードのHERE'S THAT RAINY DAYと、JOHN LEWIS(って、MJQの?)作曲のSKATING IN CENTRAL PARKが入っています。オリジナル曲はよく書けていて、シリアスでどことなく現代音楽的なところもあったり、美しく屈折したメロディを生かしたところなどが気に入りました。フリーインプロ的な演奏もありますが、私はあまり気に入っていません。3人がスタジオ入りしたのが2003年10月のことで収録はリハなしのぶっつけ本番だったとライナーノーツにありますが、本作の出来と録音当時GABRIEL ZUFFEREYはまだ19歳だったということを考えますと、ちょっと俄かには信じられないような話です。

お気に入りの曲について少し書きましょう。
本作を聴いて最初にハッとしたのは2曲目のSMILING、イントロで右手の隙間を縫うように左手が単音で鍵盤をあちこち飛び回るところです。けっこうアグレッシヴなピアノでこの曲が一番好きかもしれない。こういうのを聴きますと、GABRIEL ZUFFEREYというピアニストには素晴らしい才能がありそうです。
6曲目、HURRY UP ! は、少々とんがったテーマで、スピード感と緊張感があって良いのですが、2:36で終わってしまうのが物足りないような。
7曲目、LA TSUは3人の共作。ドラムスは原始的で力強いリズム。ピアノは相変わらず無調っぽいけれどいい感じ。ウッドベースが自由奔放なスラップ奏法やらスライド奏法みたいなの(って、ウッドベースにもあるのか?)を多用して面白い効果を出しており、只ならぬ雰囲気が漂う土俗的な趣の曲。
これもお気に入りの8曲目、ENTRE DEUX, ENTRE TEMPS ET A TROIS TEMPSは、センスの良い綺麗なフレーズを綴ってゆくピアノが魅力的な、ちょっぴり内省的なムードの曲。
11曲目のSTRANGEや12曲目のLA BAL - HELENEの深く沈静した表情を持つ曲などにおけるGABRIEL ZUFFEREYの演奏を聴いていると、彼の、既に成熟した美意識のようなものを見せ付けられたような気がして、この人はやはり只者じゃないのかもしれないなどと思ったりもします。

GABRIEL ZUFFEREYの作曲と演奏のスキルはなかなか素晴らしいんじゃないでしょうか。磨けばもっといい玉になりそうで先が楽しみなピアニストなので、次回は違うプレイヤーと組んだ演奏もぜひ聴いてみたいと思います。
余談ですが、DANIEL HUMAIRは長年に渡りドラマーとしてだけでなく、画家としても活躍しているのですね。知りませんでした。以前に記事を書いたHERVE MESCHINET / NIGHT IN TOKYO (Cristal Records)にはTABLEAUX DE DANIEL HUMAIRという曲が収録されていますが、「HUMAIRの肖像画」ではなく「HUMAIRの描いた作品」という意味のタイトルだったのですね。

*オマケ
MARTIAL SOLAL JAZZ-PIANO COMPETITIONについて補足しますと、第1回は1989年に行われており、以後は1998年と2002年です。GABRIEL ZUFFEREYが受賞した1998年度のグランプリはANTONIO FARAO(イタリア)、2位はFRANCK AVITABILE(フランス)、3位はPETER BEETS(オランダ)。ちなみに2002年度のグランプリがBAPTISTE TROTIGNON(フランス)ということでもお分かりのように、国内外から強豪が集まるコンテストのようです。
詳しくはMARTIAL SOLAL PIANO-JAZZ COMPETITIONのページ↓をご覧ください。
              http://www.civp.com/solal/solalgb/asolalgb.html
受賞者をご覧になるのは↓こちらで。
              http://www.civp.com/solal/solalgb/palmares.htm

■GABRIEL ZUFFEREY / APRES L'ORAGE (Bee Jazz BEE 006)
GABRIEL ZUFFEREY (p)
SEBASTIEN BOISSEAU (b)
DANIEL HUMAIR (ds)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)