BOJAN ZULFIKARPASIC / XENOPHONIA | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

BOJAN ZULFIKARPASIC(1968年、セルビアのベオグラード生まれ)を初めて聴いたのは、フランス人サックス奏者SYLVAIN BEUFのリーダー作、IMPRO PRIMO(RDC Records)だったのですが、最初は、けったいな名前やけどなんて読むんやろ?ぐらいにしか思っていませんでした。が、その後BOJAN Zのリーダー作、TRANSPACIFIC(Label Bleu)や、SOLOBSESSION(Label Bleu)を聴いてそのユニークさと卓越した演奏能力に感心して以来、要チェックピアニストの仲間入り。私はバルカン音楽というものをちゃんと聴いたことがないのでよく分からないのですが、BOJAN Zの音楽性はバルカン音楽とジャズの融合が特徴だといわれているそうで、あの独特のフレーズはそういう音楽性から生まれてくるのだなと今では納得しています。

お待ちかねの新作は、お気に入りで個人的にも注目しているベーシストのREMI VIGNOLO(1972年、フランスのトゥーロン生まれ)と、JEAN-MICHEL PILCの来日公演でその凄すぎるドラミングを生で観てブッ飛んで以来、こいつぁー只者じゃないと注目しているARI HOENIG(1973年、フィラデルフィア生まれ)という辣腕の2人が参加するトリオということで、前々からめっちゃ期待していました。

LABEL BLEUから出ているBOJAN ZULFIKARPASICの6作目にあたる本作は2006年リリース。入手してみるともう一人BEN PEROWSKY(ニューヨーク生まれ)というドラマーとKRASSEN LUTZKANOVというカヴァル(バルカン半島や小アジアを中心に分布する木管の縦笛)奏者も参加。BEN PEROWSKYとKRASSEN LUTZKANOV参加のほうは2004年録音、ARI HOENIG参加によるトリオは2005年録音で、それぞれが5曲ずつの全10曲、うちBOJAN Zらによるオリジナルが8曲となっていて、変わったところではDAVID BOWIEのASHES TO ASHESなんていうヒット曲を取り上げています。
BOJAN Zは本作でXENOPHONEという聞いたことのない名前の楽器を使っているのですが、それがどんな楽器なのか、どの音がそれなのか、いまひとつよく分かりませんでした。
以下、お気に入りの曲を中心に簡単に書きます。
1曲目のULAZは少々ダークでミステリアスなフィルムミュージックのような雰囲気。BOJAN Zがピアノの特殊奏法を駆使して面白い音を出しています。ピアノの乾いたライン、宙を漂うかのようなカヴァルのフルートあるいは尺八のようにも聞こえる不思議な音色、ウッドベースのスラップ奏法が印象的で、全体に漂う緊張感がいいです。
2曲目のZEVENは7拍子。BOJAN Z、VIGNOLO、HOENIGのトリオによる躍動感と一体感のある演奏は予想通りの素晴らしさ。これはひょっとすると最近聴いたなかでは最強のトリオかもしれません。ARI HOENIGのスネアを多用した溌剌としたドラミングには実に小気味良いものがあり、スネアでザッザッザーッという素早い連続音を出す技(ANDRE CECCARELLIもやってましたがあれは何ていう技でしょう?)も面白い。BOJAN Zのピアノソロも冴え渡っていますが、REMI VIGNOLOのベースラインも追っていると面白くて聴き応えがあります。
4曲目のBIGGUS Dは、まるでプログレを聴いているよう。中間部ではフリーインプロ的になったりもしてむっちゃ刺激的。それでいて演奏には無駄な音が一音も無くて研ぎ澄まされていると感じます。それにしてもARI HOENIGの縦横無尽、緩急自在なドラミングにはついつい注目してしまう。時にリズムをわざとずらしているような一筋縄ではいかない複雑なドラミング。しかもその少々手数が多くて凝ったドラミングでもって演奏をぐんぐん引っ張ってゆくところが凄くて、もう目が点になっちゃいました。BOJAN Zのピアノとフェンダーローズを巧みに弾き分けながら繰り広げる無調感漂うソロがかっこええのなんのってアナタ。この曲でREMI VIGNOLOはかなり自由奔放なベースですが、ビート感があって素晴らしい。
7曲目のXENOS BLUESはまるっきりのブルース。よく分かりませんが、BOJAN Zがここで演奏しているのがXENOPHONEという楽器なのでしょうか?この曲で面白いのは、REMI VIGNOLOがブルースギターさながらにウッドベースでソロを弾きまくるところ。う~む、かっこええわぁと感心するやら、あんな太い弦でようこんな演奏出来るわと呆れるやら。こんなん聞かされたら、ブルースギタリストも裸足で逃げ出してしまうかもしれません(^▽^;)
本作の白眉は8曲目、HORACE SILVER作曲のTHE MOHICAN AND THE GREAT SPIRITS。美しすぎる主旋律と副旋律が大変に印象的な9拍子の曲。REMI VIGNOLOのベースが主旋律を弾いて始まりますが、彼のウッドベースはメロディ、ベースラインともに、ピッチといい、音圧といい、実に素晴らしいです。
また、この曲でぜひ注目したいのがARI HOENIGによる特殊奏法。彼は、ドラムスで主旋律を叩くという独自の得意技を披露しています。といっても、様々な音程にチューニングした数々のタムを叩いてメロディを演奏する訳ではありません。ARI HOENIGが使用しているのはごく基本的なドラムセットだと思います。左の肘またはスティックを持った左手の中指と薬指の2本でヘッドを押さえて(おそらく肘と指でそれぞれ別々のヘッドを同時に押さえることもしていると思う)ピッチを変え、右手で片手ロールをすることによりメロディを叩くことが出来るんですね。しかもそのピッチは驚くほど正確で、ピアノと美しくユニゾンまでやってのけるという!もちろんその間もずっとハイハットによる正確なリズムをキープしていて、ここまでくるともう職人技としかいいようがありません。さらにはヘッドを手で叩き、ミュート奏法でボンゴみたいな音まで出しています。

4ビートが主体ではありませんし、楽曲は少々シリアスで重たいかもしれませんが、前作にも増してBOJAN Zのユニークな音楽性がよく分かる素晴らしい作品だと思います。ジャズの最もオーソドックスで基本的な部分を尊重しながらも、個性を強力に打ち出す作品が今後もさらに注目されるのではと思いますし、私もそういうジャズをもっとたくさん聴いてゆきたいと思っています。そういったジャズの先端を走っているグループの一人がBOJAN ZULFIKARPASICなのかもしれませんね。

御用とお急ぎでないかたはBOJAN ZULFIKARPASICの↓HPをご覧ください。
                  http://www.bojanz.com/
ドラマーのARI HOENIGのHPは↓こちらです。
                  http://www.arihoenig.com/
BEN PEROWSKYのHPもありました。
                  http://www.perowsky.com/

■BOJAN ZULFIKARPASIC / XENOPHONIA (Label bleu LBLC 6684)
BOJAN ZULFIKARPASIC (p, Fender Rhodes , xenophone)
REMI VIGNOLO (b)
ARI HOENIG (ds) (2, 3, 4, 8, 10)
BEN PEROWSKY (ds) (1, 5, 6, 7, 9)
KRASSEN LUTZKANOV (kaval) (1, 9)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)