SLAWEK JASKULKE 3YO / SUGARFREE | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

本作は2003年10月の録音(リリースは2004年?)なので最新作ではないと思いますが、せっかく出会えたポーランドジャズの秀作(と思う)ですし、聴いて面白かったので書いてみることにしました。CDに外付けされていたガッツプロダクションのライナーノーツによると、ライヴ録音盤だった1作目に続いての本作はSLAWEK JASKULKE(1979年生まれ)の2作目ということです。
7曲全てSLAWEK JASKULKEによる作曲とアレンジで、プロデュースも担当しており、彼は、卓越したピアノの使い手であることはもちろんのこと、多方面において大変才能のある人なのではないかと感じました。3人が使用するのはもちろんアコースティック楽器で、ほんの一部にシンセサイザー(あるいはエレクトロニクス?)も用いているようですが、出てくるのはダイナミクス感のある斬新な音で、ありきたりなジャズでは飽き足らないという人には気に入ってもらえそうです。

SLAWEK JASKULKEがいかに独創性に溢れた有能なミュージシャンであるのかは、乾いたメロディーを持つ1曲目のDON'T EVEN SWINGを聴くだけでも十分に理解できるような気がします。ドラムの8ビートに乗らない7拍子のピアノとベースのテーマ部分。4ビートのシンバルレガートに乗らないピアノとベースのアドリブの部分。ドラムの8ビートに一応乗っているピアノとベースのアドリブ。4ビートのシンバルレガートに乗らないベースソロ。こういったもので構成される曲を違和感なく、これほどまでに面白くかっこ良く聴かせてしまうのですからたいしたものじゃありませんか。KRZYSZTOF DZIEDZICのドラムスが打ち出すのはロックビートで、ジャズのそれではありません。オカズを入れず、判で押したような極端に単調なパターンを繰り返すだけのグルーヴ感のないドラミングをすることで、虚無感のようなものを醸し出すのに成功していると思います。
その後に続く、重低音を強調した硬派で先端を行く楽曲郡は、いずれも良く練られた納得の出来で、ときに炸裂するドラムンベースふうだったり、レゲエのリズムが出てきたり(!)と予断を許さない展開も面白く、大変に聴きごたえがあります。こういった刺激的でエキサイティングな演奏とは別に、ヨーロッパのジャズらしく陰影に富んだピアノやダイナミックにバリバリ弾いているピアノも聴かせてくれますし、ミステリアスで少々不気味な雰囲気をも漂わせていたりもするといった具合で、SLAWEK JASKULKEのアイディア、トリオの卓越した演奏能力と豊かな表現力には驚かされました。
KRZYSZTOF DZIEDZICのドラムスがときに繰り出す無機的なリズムは現代感覚に溢れていますが、ちゃんとジャズの手法も踏まえたうえでのドラミングなのですね。それにしてもKRZYSZTOF DZIEDZICの人力ドラムンベースにはお口あんぐり状態で、正直な話、凄すぎてぶっ飛びそうになりました。いや、おそらくライヴでこんな演奏を目の当たりにすれば、きっと3メートルは軽くぶっ飛ぶでしょうな(笑)しかし、彼の本質はジャズのドラマーであり、何よりもその意味で素晴らしい演奏をしていると思います。
7曲目のCHILI SPIRITなどは、ゆったりと静かなピアノとベースに、バスドラを多用した極端に単調で小刻みなビートというミスマッチ。「ここはブラシでしょ、普通。」という無粋なツッコミに「へへ~んだ!」とアッカンベーをしているSLAWEK JASKULKEたちの顔を想像してしまいました。

なんとなくですが、本作を聴く限り、SLAWEK JASKULKEには反骨精神のようなものを感じます。この反骨精神というのは私の気のせいかもしれないので、忘れてもいいのですが、一流のジャズピアニストとして、またジャズの作曲家としての彼の将来性は気のせいなんかじゃありません。そのうち次の作品で、またまた私たちをあっと驚かせてくれるかもしれないので、彼には注目していようと思っていたら、オラシオ さんのAmebaスクラップブック「旧共産圏音楽万歳!」「ポーランドジャズ新作情報」 の記事で↓こんなの発見!
■SLAWEK JASKULKE / FILL THE HARMONY PHILHARMONICS (BCD RECORDS BCD CDN4)
う~む、しかもあのSLAWOMIR KURKIEWICZ(b)と本作のKRZYSZTOF DZIEDZIC(ds)のトリオで弦楽オケとの共演。果たしてどんな音なんでしょう。気になるーっ!

■SLAWEK JASKULKE 3YO / SUGARFREE (BCD Records BCD CDN 3)
SLAWEK JASKULKE (p)
KRZYSZTOF PACAN (b)
KRZYSZTOF DZIEDZIC (ds)
入手先:HMV(通販)