TRIO SYLVAIN BEUF / ANOTHER BUILDING | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

このCDも注文して1年たってから届いたのですが、なかなか良い作品なので書くことにしました。
リーダーのSYLVAIN BEUF(1964年4月6日、パリ生まれ)の演奏は、大好きなフランス人ジャズドラマーANDRE CECCARELLIのリーダー作FROM THE HEART (Verve 529 851-2)で聴いたのが最初です。卓越した演奏能力と良くコントロールされた美しい音色はもちろんのこと、なんてかっこいいフレーズを吹くんだろうと感心し、いっぺんで好きになってしまいました。日本での知名度はいまひとつなのかもしれませんが、1994年に初リーダー作のIMPRO PRIMOでDJANGO D'OR(ジャンゴ賞)を、2000年にはVICTOIRES DE LA MUSIQUEのNOUVOEAU TALENT JAZZ賞を獲得するなど、実力は折り紙つきのプレイヤーです。

本作は2004年にリリースされたSYLVAIN BEUFの通算7枚目のリーダー作で、フリーインプロ的な要素の強い曲も多く、全体に硬派な楽曲が揃っています。親しみやすいメロディや分かりやすいフレーズなどはほとんどありませんのでとっつきにくいかもしれません。がしかし、この3人の演奏能力と息の合ったアンサンブルは素晴らしく、現代的で洗練されていてクールな印象。録音も良好で、腰を据えてじっくり聴いていると聴きごたえがあります。
全14曲のうちSYLVAIN BEUF作曲が8曲、SYLVAIN BEUFとFRANCK AGULHONの共作が1曲。あとの5曲は3人の共作でフリーインプロヴィゼイションの要素が強いです。この顔合わせのトリオは本作で2度目とあって、息の合ったインタープレイも聴きどころ。
1曲目SYLVAIN BEUF作曲の267という曲は気楽な感じで始まる8ビートですが、途中4ビートになってめちゃかっこええハードバップになったりもします。本作のなかでは聴きやすい1曲かもしれません。
3曲目SYLVAIN BEUF作曲のTIBOUDIENNEは、ベースが重音で奏でる中近東っぽいイントロが面白い。明るく軽快な5拍子の曲で、飄々としたソプラノサックスが良い。
一番のお気に入りは6曲目、SYLVAIN BEUF作曲のMACADAM BLUES。トリオの息の合ったコンビネイションが素晴らしく、手数の多いドラミング、縦横無尽のベースライン、クールに攻めるテナーが16ビートに乗ってめちゃかっこええんだな、これが。痺れまっせー。
次に気に入ったのが9曲目SYLVAIN BEUF作曲のANGELA。変拍子だらけでテンポも曲の表情もさまざまに変わり、ちょっと聴いただけではとらえどころがないような感じですが、じっくり聴くと面白い。曲名が女性の名前になっているのは、もしかして「女心と秋の空」っていうことなのかな?
12曲目SYLVAIN BEUF作曲のDEAR ZUZANNAは、8ビート主体で途中4ビートになったりもする躍動感に溢れた曲。渋かっこ良くて、わかりやすくないところが良い。エキサイティング。ほほぉー、このZUZANNAっていうのも女性の名前(ポーランドの?)ですねえ。SYLVAINさんも隅に置けませんな~(曲の雰囲気からして親戚のおばちゃんの名前などではないと思う)。
14曲目SYLVAIN BEUF作曲のSONG FOR IVANは本作中最もメロディアスで親しみやすい雰囲気の曲。硬派な内容のアルバムの最後に、こういう牧歌的でのんびりしたムードの曲を聴くのはいいもんです。絵本でいうなら「おやすみなさいの絵本」(幼児を寝かしつける前のひとときに読む絵本の類)のような感じの曲ですね。

御用とお急ぎでないかたは↓SYLVAIN BEUFのHPへどうぞ。
         http://www.sylvainbeuf.com/
FRANCK AGULHONの↓HPもありました。
         http://www.franckagulhon.com/
*どうでもいいオマケ
突然ですが、演歌はお好きですか?私、この世の音楽で、演歌とJ-POP(和製ヒップホップを含む)だけは、どうしても身体が受け付けなくて。なんでこんな話をするかといいますと、ジャズを聴く上で、この演歌というものが日本人にとって一種のトラウマとなっているような気がしないでもないからなのです。たとえばこんな経験ありませんか?ジャズを聴いていて、テナーがスタンダードナンバーのメロディを奏でているときなど、それがおそろしくイモなので、まるで演歌を聴かされているようでゲンナリしたというようなことが。演歌を聴いたことのない外国人には分からない、日本のジャズファンに特有の悩みです(本当か?)。
これが、テナー奏者の場合となると問題はかなり深刻です。バラードのメロディーを、決して演歌になることなく、いかにスマートに吹ききることが出来るか。これは日本人テナー奏者に課せられた永遠の命題といえるかもしれません。こういった理由から、一部の日本人テナー奏者がフリーに走ったとしても(実際にそういう例があるかどうかは別として)、それはそれで十分納得のいくことではあります(笑)
上のような全く個人的で勝手な思い込みから、特にバラード曲のサックスなどは好きではなかったのですが、実は今も好きではありません。
今回のような作品は、楽曲が帰るところを感じさせないように出来ている、言葉を変えれば無調感がある曲作りになっているので少々分かりにくいんですけれど、演歌にはなりえません。ですからその点では安心して聴くことが出来ます。早い話が、サックス入りのジャズはこういうちょっと分かりにくい作品のほうが私好みだと言いたかったのでした(;^_^A (んもう、それを最初に言いなさいね、最初にっ!)

■TRIO SYLVAIN BEUF / ANOTHER BUILDING (Rdc Records 40085-2)
SYLVAIN BEUF (ts, ss)
DIEGO IMBERT (b)
FRANCK AGULHON (ds)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)