I Pray For... -7ページ目

I Pray For...

ショートショートやナチュラルストーンのハンドメイドアクセサリーなど、
何かを書いたり作ったり。羽生結弦選手について勝手に語ったり。
好きな音楽や芝居のことなども時折熱く語ります?

「なぁ、流星を見に行こうぜ!」


突然の電話。そんな気分じゃないのに。

「30何年ぶりかの流星群だし、迎えに行くからさ、じゃ!2時にな」
私の返事も聞かず用件だけ伝えた電話はあっさりと切れた。


深夜2時、玄関をノックする音がひびいた。
彼は時間にはきっちりしすぎている。

「さ!ひとっ走りして星がたくさん見えるとこいこう」

ぐいっと手を引っ張られて、彼の車に載せられた。

気力抜けした眠そうな私の顔がバックミラーに写る。

「荒川辺りなら結構見えるんじゃないか?」

はじめたみた彼の子どものような笑顔とはまるで正反対。

一時間くらい走っただろうか、辺りが暗闇に徐々に包まれはじめると
荒川につき、彼は土手に車を停めて外に出た。

「すげーなぁ!東京でもこんなに星が見えるところがあるんだもんなぁ」

ぽかーんと口を開けた彼の横顔は生き生きしている。

「ほんとうだね」

間抜けな私の答えにも思いっきりうなずいてまた空を見上げていた。
しばらくの間二人で夜空を眺めていてもいっこうに流れ星は見えず、
ただ寒さだけが身に染みてきてひざが震えてくる。


「ん?寒いか?ちょっと待ってて」


相も変わらず私に返事をする間を与えずに彼は車の方へ走っていった。

ぽつんと暗闇の中にいると、恐ろしいほどの孤独感に教われる。

そして、いってしまったあの人の顔がいやでもよみがえって仕方ない。
あれから私は夜眠るときでさえ電気を点けたままでないとだめなのに。


あえなくなってからどれくらい経ったんだろう?

いつまで待っても帰ってこないことは私が一番良く分かっている。
あの人がいってから私はうつむくことが上手になってしまった。


「ほら」


目の前にはシナモンの香りをふんわりと漂わせた湯気が立ち上るカップを
差出した彼がいた。


「すごくいい香り、これなに?」


「ホットワイン、シナモン入り。体あったまるぞ」


差出されたワインを飲んでみる。ゆっくりとゆっくりと、体の芯から
ワインの温かさがしみてきた。


「あったかいね・・・」


自然に顔がほころびた。笑顔なんて何日ぶりだろう。


「そうだろぉ?あ!今の笑顔!それだそれ!やっと笑ったなぁ」


満面の彼の笑顔につられて、もう一度私も笑ってみる。

その瞬間、夜空がぱっと明るくなった。
大きな流星が冬の夜空を横切っていった。

その香水に出会ったのは、男主人の経営する小さな香水店だった。


「それは「TRUE LOVE」というんです」

思いのほか低い男主人の声。何の気なしに手に取った、
小さなガラスの小瓶のパフュームは、ほのかなピンク色をしている。


「ホワイトローズやロータスといった花の香りなんです。」

男主人は香水を私の手首に吹き掛けた。
すると、ふわっとした花々の甘い香りが体を包み込こんだ。


不思議だ。これからあの人にさよならをしにいくのに
私の手首には「真実の愛」と言う名の香水が香っている。


約束まであと一時間。小さな小瓶をいくら見つめても
私の答えは決まっている、そしておそらくこれから聞くであろう
あの人の答えも。。。

私たちはお互いの真実になれなかった、それだけだ。


あれから2ケ月。私の手元には終わった恋の代わりに
「TRUE LOVE」という名の香水がある。

目を開けるともう朝で、部屋中にコーヒーの香りがただよっていた。
とにかく頭が重くて痛い、生まれて初めて体験する二日酔は想像以上に
厄介なものらしい。


ガンガンとなる頭を無理矢理起こして周りを見渡すと、彼女は台所で
何やら支度をしているところだった。


「おはよう~」

もそもそと動く音が聞こえたんだろう。背を向けたままのご挨拶。


「うーん、おはよう。。。」

自分の声さえ響く二日酔の頭がちょっと憎々しい。

そうだ、昨日は久々に燃えて燃えまくった恋愛が、見事な一人相撲に
終わり、決定的な失恋をして泣きながら彼女のアパートに転がり込んだんだっけ。

ありとあらゆるお酒を持ち込んで、そして飲んで、泣き事ばかりの私の相手は
さぞ大変だったろう。


「昨日はかなり飲んだね~、さすがに二日酔じゃないの?」

くすくす笑う彼女の声がまたまた頭に響いてくる。


「うん。。。ごめん、コーヒーは胃にきそう。。。」

目の前のカップに注がれたコーヒーの香りさえ、胃に響いてくるようでつらい。


「OK~。いいものあるよ。」


台所から彼女が手に持ってきたのは大き目のグラスになみなみと注がれた
トマトジュースだった。


「トマトは胃にいいんだよ、そうそう、これにビールを入れれば丁度、誰かさんの
目と一緒の名前のカクテルになるしね」

にこっと笑う彼女。驚いて鏡を見るとなるほど、すっかり泣きはらした私の顔は

ウサギのような真っ赤な目だった。


「さ、乾杯しようよ」

彼女はコーヒーのはいったカップを持ち上げた。
つられて私もグラスを持ち上げる。

「乾杯?何に?失恋に?」

「ううん、真っ赤な目をしたままでいても、二日酔でいてもいい、
休日をつくってくれた神様に乾杯しよう」

なれないウインクをする彼女を見てちょっと笑ってしまいそうになった。


「かんぱーい」

昨日は一緒にいてくれて本当にありがとうっていうのは後にして、
とりあえず見知らぬ神様に二人で乾杯をして飲んだトマトジュースは
ほんのり苦くて、そしてどんなお酒よりもとても美味しかった。