「なぁ、流星を見に行こうぜ!」
突然の電話。そんな気分じゃないのに。
「30何年ぶりかの流星群だし、迎えに行くからさ、じゃ!2時にな」
私の返事も聞かず用件だけ伝えた電話はあっさりと切れた。
深夜2時、玄関をノックする音がひびいた。
彼は時間にはきっちりしすぎている。
「さ!ひとっ走りして星がたくさん見えるとこいこう」
ぐいっと手を引っ張られて、彼の車に載せられた。
気力抜けした眠そうな私の顔がバックミラーに写る。
「荒川辺りなら結構見えるんじゃないか?」
はじめたみた彼の子どものような笑顔とはまるで正反対。
一時間くらい走っただろうか、辺りが暗闇に徐々に包まれはじめると
荒川につき、彼は土手に車を停めて外に出た。
「すげーなぁ!東京でもこんなに星が見えるところがあるんだもんなぁ」
ぽかーんと口を開けた彼の横顔は生き生きしている。
「ほんとうだね」
間抜けな私の答えにも思いっきりうなずいてまた空を見上げていた。
しばらくの間二人で夜空を眺めていてもいっこうに流れ星は見えず、
ただ寒さだけが身に染みてきてひざが震えてくる。
「ん?寒いか?ちょっと待ってて」
相も変わらず私に返事をする間を与えずに彼は車の方へ走っていった。
ぽつんと暗闇の中にいると、恐ろしいほどの孤独感に教われる。
そして、いってしまったあの人の顔がいやでもよみがえって仕方ない。
あれから私は夜眠るときでさえ電気を点けたままでないとだめなのに。
あえなくなってからどれくらい経ったんだろう?
いつまで待っても帰ってこないことは私が一番良く分かっている。
あの人がいってから私はうつむくことが上手になってしまった。
「ほら」
目の前にはシナモンの香りをふんわりと漂わせた湯気が立ち上るカップを
差出した彼がいた。
「すごくいい香り、これなに?」
「ホットワイン、シナモン入り。体あったまるぞ」
差出されたワインを飲んでみる。ゆっくりとゆっくりと、体の芯から
ワインの温かさがしみてきた。
「あったかいね・・・」
自然に顔がほころびた。笑顔なんて何日ぶりだろう。
「そうだろぉ?あ!今の笑顔!それだそれ!やっと笑ったなぁ」
満面の彼の笑顔につられて、もう一度私も笑ってみる。
その瞬間、夜空がぱっと明るくなった。
大きな流星が冬の夜空を横切っていった。