その後、自分が使っているクレンツのウルフモジュレーターに関してチェロの知り合いからメッセージで質問があったので回答を送ったのですが、他に使っている人がいらっしゃいますか?と聞かれたので近くには居ません。と書いて、チェリストのKさんが使っていた事を思い出しました。
ただ、Kさん、楽器の裏板に張ってたんですよね。
ちなみに、私が使っているクレンツのウルフキラーに関しては以下に書いている様に未だ日本で扱ってない頃に個人輸入で購入している事もあり、恐らく日本でも早い段階で使用している筈です。
ただ、一般的な金属製の弦に装着するタイプと比べると高価ですので自分の周囲で使っている人は見たことがありませんが、自分の場合、楽器は今使っている楽器で4本目で、2本目で手に入れたヘフナーのウルフが酷くて探して手に入れ、その後、3本目のホルツレヒナー、今のフォーグラーと3台で使っています。
何れも効果がありましたが、最近は大阪の楽器屋さんが扱っている様で、このモジュレーターの2本目はそこで購入しています。
2本目を買った理由は、1本目からビビリ音が出始めたからです。
恐らく、1本目を買った時に色んな人に紹介する為、出したり入れたりしてたのですが、このモジュレーターの取り付け方がマグネットでf字孔から落として表側のマグネットに磁力でバシッと付ける方法で、どうやらこれを頻繁に繰り返した為、この衝撃でチューブにクラックが入った様で2本目は殆ど出して見せてません笑
基本はウルフキラー(クレンツはモジュレーターと言ってます)なのですが、ウルフの少ない楽器等は音響改善用としても役に立つ様で、自分の楽器も現在のセッティングでは殆どウルフが出ないのでそちら目的で使っています。
Kさんに話を戻しますが、その時に自分も試して裏板に取り付けてみたのですが、それ程印象が良く無くて又表に戻していました。
質問があった時に、そう言えばあの時は未だハープ型のテールピースだったのでワイヤーテールピースだとどうなるんだろうと思って「こんな感じ」と紹介するのに裏に動かして写真を撮って、弾いてみると「うん?何か良くね?」となりました。
ちなみに、このモジュレーター、上手に動かすと表板から横板、裏板と中で張り付いた状態でチューブがツツツと移動して行きますので、表から裏に動かすのも簡単です。
真面目に裏板で最適な場所を探すと楽器の音がターボチャージャー付きの車の様に良くなるんですよね。試しに表板のいつもの場所に戻すと、やはり裏の方が良いんですよね。
もちろん、通常の表板の場所でもかなり音響は変わります。
最初に書いた、楽器屋さんの所で、ニスのレタッチをお願いした際に「レタッチの際にモジュレーターを適当に動かして構いませんよ」と言ってあって、仕上がった後に「弾いてみませか」と言われたので、ちょっと弾くと、イマイチの音。
すぐに、モジュレーターの場所が普段の場所じゃない事に気が付き、スッと動かして弾くと全く音が変わった為、楽器屋さんも「おぉ!」と声を出して驚かれていました。
ある意味、一発で楽器の響きを変える効果があるので、弦の種類を変えたり調整に出したりして最後の調整で使えるのは便利です。
表板で充分効果はあるのですが、裏板に取り付けるとこの効果が一層増加する印象です。
福山ガリレオは「現象には必ず理由がある」と言ってますが、福山程イケメンでは無くとも笑、私も常にそう思っていますので理由を考えました。
クレンツ氏はウルフ(振動のズレ)は表板と裏板の間が最も大きく発生する為、表板にチューブ内のマグネットで自由振動する錘を貼り付けて、表板と裏板の特定音域で発生する共振を吸収すると言う発想でこのモジュレーターを開発しています。
ただ、表板に装着する場合、振動系の入力の1次側(弦→駒→表板)の振動特性を変化させる事になり、1次側のエネルギー(振動)がこのモジュレーターで常に消耗している可能性があります。
一般的な錘タイプの物は弦とテールピースの間に装着しますが、これは入力系の入り口に最も近い部分に装着します。
楽器の場合、振動源と言うのは楽器に張られている弦ですが、弦と言うのはヘッド側は固定端、一方のテールピース側は楽器とテールピースの間でテールガットで取り付けられていますので、自由端となり、テールピースも弦の振動により自由に振動します。
要するに、ここで弦とテールピースとの振動の「ズレ」が発生する訳ですが、テールピースその物も固有の共振点と言うものを持っています。
共振点と言うのは簡単に言えば良く響く周波数ですが、エンドピンでも叩くと「コンコン」「キンキン」等様々な音程で響きますが、あの音と考えて良いと思います。
通常、硬い程高い周波数で音が出ますし柔らかい物ほど低くなります。
どうやら、この弦とテールピースの振動のズレとテールピースの共振点がウルフの発生源とも言え、これが駒によって増幅され表板から魂柱を経て裏板へ伝わっています。
例えば、自分が今使っているワイヤーテールピースと言うのは従来のテールピースを使わない発想なのでズレが発生しない筈ですが、以下の通り、ワイヤーテールピースを開発しているマービン氏はこの振動の特性の差がウルフだとして、テールピースを無くす事でウルフを低減できると言っています。
The most common source of tonal inconsistency in string instruments is the tailpiece and string afterlength between the bridge and tailpiece. These inconsistencies, also known as wolf tones, are caused by the pitch of the tailpiece vibration and the vibration of the string afterlengths. These pitches impact the vibration of the string to create dead and enhanced pitches. Traditionally, the best luthers use many methods to tune the tailpiece and afterlength pitches to reduce or change the wolf tones. The Marvin Cable Tailpiece eliminates all wolf tones originating from the tailpiece. The reduced mass of this tailpiece, the individual cables per string and the buffering of the cables against vibration accomplish this.
一般的な錘型のウルフキラーは弦とテールピースの間に装着する為、その弦の振動に対して効果はありますが、別の弦の振動には直接効果はありません。
通常、弦が太い方が振動エネルギーが大きい為、C線が最もウルフが大きいはずですが、このミ〜ファ#の音はC線で使う事は殆ど無い為、結果的にG線のウルフが問題となり、G線に装着される事が多いと思います。
只、D線も良く使い、D線で発生するウルフを抑える為、D線にも付けると言う事になり、2つもぶら下げている楽器をたまに見ます。
ところが、このウルフキラーは弦にぶら下げられている為、常に弦の振動に対して一定の負荷となってしまいますので、ウルフに対して効果があっても弦の振動全般にも影響があります。
低い周波数ではそれ程気になりませんが、高い周波数は負荷によって抑えられる為、このタイプのウルフキラーを装着すると全般に鼻にかかったボヤケた音になるのはその為です。
正直、コントラバスでは元々その様な音なのであまり気になりませんが、チェロの場合はウルフキラーが有るのと無いのとではかなり音色が異なります。
これに対して、この1次側の振動から魂柱を介して響きが伝わる裏板は2次側と言えますが、逆にこちらへ取り付けると入力側(1次側)のエネルギーを消耗させる事も無く、2次側の特性を変化させ、共振で発生するウルフを相殺したり音響効果を上げる働きはそのまま活かせる筈です。
ウルフに対する効果は表でも裏でも同じ筈ですが、表板同様に楽器の振動によりモジュレーターの中の錘に常に慣性が働き、この振動が裏板の振動を継続させ、これが魂柱を介して1次側へ正帰還すると言う様な働きがある為、ターボチャージャーの様に楽器の響きが増加するのかもしれません。
それこそ「裏板を鳴らす」と良く言われますが、ヴァイオリン等で言えば肩当てを使うのと使わない位の差があるかもしれません。
但し、裏板に張り付ける場合、間接的な振動であるからか、効果的なポイントを探すのが難しく、その為、最初にやった時にイマイチ効果を感じられなかったのかもしれませんし、色々試してみると、逆に場所によってはウルフが激しく出る(効果を大きくしているので下手な場所だとウルフが増加するのも納得)状態も再現出来ます。
あちこち場所を探って、現在の場所は自分が楽器のウルフが出るファの音とファ#の間くらいにウルフが出る様に狙って張りましたので、この中途半端な音ではウルフが出ますが、ウルフが出ている時はファよりも音程がやや高いファ# よりも音程がやや低いと言う事になるので,何れにせよ音程が悪いと言う事が分かって良いと思います。
裏なので動いたりする可能性もあるので、動いても良い様に鉛筆で印を付けました。