ラヴィリティアの大地第51話「もうひとつの婚姻式」後編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「ハーロック卿は思い違いをしてらっしゃいます、俺はラヴィリティア王家の血筋じゃありません!」
「ではオーク、お前の褐色の肌はどう説明する?この国の人間で褐色の肌は始祖である蛮族の血脈のみにしか現れない。ラヴィリティアの大地に生きる人間には周知の事実だ」
「それは…」
「お前も薄々は感じていたのだろう、身分の上下はどうであれ自分は王家の落とし胤であることを」
「! …さすればハーロック卿が申されるように俺は最も身分の低い王家の人間の隠し子なんでしょう、俺の母親は浅慮な貴族の気まぐれで振り回された身寄りのないウィラという元宮廷侍女です」

 



それはラヴィリティア王国第一王女の即位式の為に黒渦団の制服を纏ったオークが、普段は穏やかで声を荒げることなど想像する事のできない人柄ながらも、身に着けている礼服も相まり自身のその強い覇気から底知れぬ人生の憤りを露わにした瞬間だった。その様子に先刻第一王女の婚約者はオークだと宣言したハーロック卿は、彼を一瞥してから瞳を伏せて艶やかであった王族の晴れの日の穏やかな午後の窓辺を見据え真実を語り始める

「その侍女の名を私は知っている、あれは私の末の娘だ」
「なにを仰ってるんですハーロック卿…」
「王族の外の人間と勝手に子を作ったはいいが流産した、憔悴していた時に王の子を隠し通すという目標を与え城の外へ出した。オーク、お前も知っているだろうがラヴィリティアは権力を傾けさせぬよう王族の子が産まれたら民衆には時期を置いて報せ、三つの歳を跨ぐ前に王から引き離す。貴族達が利権を争い王の子に群がるからだ。お前の母親を名乗ったウィラは先々代の王妃の侍女をしていたからその状況をそのまま利用した。周りの者は貴族に弄ばれ子を成し城を追い出された女だと思い込んだだろう」
「そんな話は一言も、リサルベルテの父もなにも…」

オークはまだ話が信じられず狼狽しながら首を横に振り続けた。ハーロック卿は彼に淡々と話を続けた

「リサルベルテ卿も知らされていない。後妻を探していたときにハーロック家が後見人となる遺児を母親共々受け入れてほしいと願い出た。リサルベルテも何かあると勘づいてはいた筈だが黙して貴族の務めを果たした。が、」
「…?」

ハーロック卿はそこで言葉を区切る。だが次にオークに告げられたのは彼にとって受け入れがたい言葉だった

「お前はリサルベルテ家で酷い扱いを受けていたそうだな、リサルベルテ家は先程三大貴族から階級を一つ下に降格させた。これによって現当主は排籍、家を継ぐ筈だった者は現在の役職を解いて我が国とグリダニアの国境へ兄弟諸共更迭した。未来のラヴィリティア王を無碍に扱った罪でな」
「なんてことを…」

オークは愕然とした。幼少期、たとえ不遇な扱いを受けても本当の母親を病で亡くした義兄達の心境が理解できないわけじゃない。お家の為に再婚した義父も、自分は本当の母だと信じて止まない所在ない女性を受け入れてくれたことに感謝もしていた。けれどその想いまでも踏みにじられた気分に襲われたオークはハーロック卿にさらに声を荒げた

「皆知らぬことです…!なぜそれを裁かれなければならないのです、今すぐ全てを元の形に。お願いしますハーロック卿!」
「成らぬものは成らぬ。知らぬことを差し引いても慈愛の象徴と謳われる“他国を憂う国”である我がラヴィリティアにおいて、子供の人権を脅かす者は何人たりとも許せるものではない。当主の累は親類に及ぶ、それは貴族社会において絶対であり今のお前がお前でなければリサルベルテ家は爵位さえ危うかったのだぞ」
「…っ」

たった今リサルベルテ家は当主に代わり当主の三男が爵位を継ぐことになったのだ。本来なら家を継ぐき長男とは違い、三男となると当主と成るべきく教養を十分に与えられてはいない。三男が永続的に家を維持出来るかどうかは火を見るより明らかであり、事実上のお家お取り潰しであった。オークは沸々と言いしれぬ怒りが込み上げ拳と唇を震わせ絞り出すように次の言葉を口にした

「…ハンナは、人望の厚い第一王女のハンナ王女が居るのに、本当かどうかもわからない王の嫡男を立太子に差し替えたところで納得する者なんていません。彼女こそ正真正銘この国の第一王女です」

オークのその言葉に窓の外を見ていたハーロック卿はまた彼を振り返って答えた

「カルテノーより前の戦において戦死した先々代国王には二人の子が居た。その二人は戦中に討ち死にしたが、戦前からそれぞれ子に恵まれていた。合計四人、最初の者は流産で性別はわからない、もう一人は生まれてまもなく死んだ男児。その後に産まれたのがハンナ、乱世ゆえ正室の第一子と表明したがあやつは第三王女で本当は側室の子だ。そしてこれはいずれも先々代の子の、次男に起こった話。先々代の長男の男子はお前だ、オーク。順当にいっても長男の正室の第一子であるお前が王位に最も近い者だ」
「それでも…!」
「人心も納得しないことは解っている、だからハンナをお前の婚約者にしたのだ。一時的に権力は傾くかもしれぬがこの帝国との緊迫した状況ではこれが最善だ、オークよ」
「ハーロック卿もご存知でしょう、俺はもう契りを交わした者が居て結婚したんです!貴方からの許しも既に正式な書面で頂いています」
「では離縁しろ。側室でも王族か貴族でなくてはならない掟になっている、改めて似た女を側室にするがいい」

ハーロック卿の心無い言葉にオークは無我夢中で絶叫した

「俺の妻はクゥクゥ・マリアージュの彼女だけです…!!」
「許さぬ。もう一度言う、その女とは離縁して側室は貴族の中から選び直せ」

彼女しかいないと、何度も叫ぶオークにハーロック卿の私兵が彼を制する。ハーロック卿は側近を連れて部屋を出て、オークは仲間と引き離された王族の控室へ取り残された。広い室内で木霊するオークの魂の叫びのようなものがラヴィリティア城の長い長い廊下に響き渡るのだった。


ラヴィリティア三大貴族のひとりハーロック卿から自国の民達へオークの立太子宣言によりラヴィリティア城内は混乱を極め、オークと夫婦の契りを交わしたクゥクゥ・マリアージュとその冒険者仲間Become someone(ビカム・サムワン)の面々は早々に城の外へ追い出されてしまった。その場に留まろうとするもラヴィリティア兵に囲まれて城下町の外まで連れ出されてしまいラヴィリティア凱旋門は大きな音を立てて無情にも、クゥの前で閉ざされたのであった。その後一同は成すすべもなくクランの拠点を置く森の都グリダニアの冒険者居住区ラベンダー・ベッドの家へ戻らざるを得なかった。その日の夜遅くビカム・サムワンに出入りする行商人ウォルステッドがラベンダーの家にやってきた。未だ連絡のないオークとラヴィリティアの状況を報せてもらうためだ。クラン全員が集まる家のリビングで僅かな情報を掴んできたウォルステッドが口を開いた

「現在ラヴィリティアの“総帥”と呼ばれるラヴィリティア三大貴族の一人、ハーロック卿が宣言したオークさんの立太子問題は今ラヴィリティア国内でもかなり混乱していますね。本来なら年老いたハーロック総帥をここまで献身的に支え続けた年若く有能な第一王女、ハンナ様が即位するはずでしたから当然ですね。貴族も国民も上から下まで大騒ぎです、オクベル姐さん」
「まさに寝耳に水だったわけだな」

行商人ウォルステッドの言葉にクランの女副リーダー、オクーベル・エドが相槌を打った。短い報告に弓術士(きゅうじゅつし)の天使ケイはウォルステッドに食い気味に声を上げた

「オークは!?オークは今どうしてるの!」
「ケイさん、すみません。これ以上のことは何も…まだ騒ぎの渦中だったから良かった、そうでなければ俺自身も危うかったと思います」
「? と言うとまだ何かありそうだな、ウォルステッドよ」

ウォルステッドの危なかったという言葉に斧術士(ふじゅつし)の獣人オウが質問する。ウォルステッドはすかさず答えた

「はい、オウさん。俺はここに居る皆さん全員がラヴィリティア城に招待されたことがちょっとだけ引っかかっていました。リヴァイアサン討伐叙勲の時は裁縫師スレイダーさんと木工師のルフナさんが参入されたばかりでしたよね、そこの錬金術師のマリーさんも最近だ」
「そうよ」

ウォルステッドの言葉に頷いたのは当人マリーだった。ウォルステッドは彼女が頷いたのを確認して続けた

「本当だったら招待されるのは叙勲時に賞与を叙勲された斧術士のオウさんまでだったはずです。それでもこのクランのメンバーが全員呼ばれたのはオークさんが立太した時に所在のわからないメンバーが居たらラヴィリティア側に不都合が生じると思ったからでしょう。一度、目の着くところに集められて顔を確認された可能性があります。我々は冒険者でいつ暴れてオークさんを自分達のクランに連れ帰るかわからない、そんなところじゃないでしょうか。俺も仲間に勘定されてたら身動きが取れませんでした」
「そんな…俺たちは絶対そんなことはしない」

ウォルステッドの推察にここまで悲しみにも似た怒りを心と拳に握り込んでいた木工師のルフナはからからになった口から言葉を吐き出した。そのあとルフナは先ほどから俯き加減で一言も発しないクゥを気遣うように視線を移し声をかけた

「クゥはオークがラヴィリティアの王様になるかもなんて知らなかった…?」

クゥはルフナの戸惑うような声色に一度目を伏せてから小さく頷き肯定した。ルフナは再び彼女に声をかけた

「だよな…」
「あの時オークは知らないって言ったの、ルフナ」
「え…クゥ?」
「立太の宣言をされて一瞬だけ、オークは一瞬だけ私を見たの。その時『知らない』って、『わからない』でも『違う』でもなかった。はっきり知らないって言ってた、本当に…知らなかったんだと思う」
「クゥ…」

短くはあれどオークの妻になったクゥが口にした言葉は何よりも誰よりも説得力があった。クゥの言葉にクラン内の空気が更に重苦しくなったときウォルステッドが不意に再び口を開いた

「ただもう一つだけ情報があります。オークさんは式典のあとハーロック総帥と押し問答になったようなんです、俺の妻はクゥクゥ・マリアージュだって言い切ったそうですよ」
「…!」
「それ本当!?ウォルステッド!」
「はい、間違いありませんケイさん」
「クゥ!良かったね、オークは大丈夫だよ!絶対クゥのところに戻って来るよ」
「皆でオークの帰りを待っていよう、クゥ」
「うん、ありがとうケイちゃん、オウ、みんな…」
「俺は俺でもうちょっと情報を仕入れてきます。オクーベル姐さんは少し段取りの相談しても良いっすか」
「わかった、庭先まで送ろう」

俄に明るさを取り戻したクゥとクランのメンバーたちはお互いを励まし合う。その談笑を背にウォルステッドとオクーベルは後ろ手で玄関の扉を締めた。オクーベルが先にウォルステッドに尋ねる

「まだ私に何かあるな、ウォルステッド」
「はい、姐さん。オークさんがハーロック総帥にクゥクゥさんのことを言い切ってしまったことでラヴィリティア側はこのクランを警戒し始めました。もう俺自身もラヴィリティア国内には入国できないかと」
「そうなることが解っていてもオークはどうしてもクゥの事を言いきってしまいたかったのだろうな…わかった、手を尽くしてもう少しラヴィリティアを探って情報を集めてくれ、ウォルステッド。他にもラヴィリティアのことで気になることもある」
「わかりました、オクベル姐さん」

冒険者クラン『ビカム・サムワン』のリーダー、オーク不在の代役を務めなければならない副リーダーの黒魔道士オクーベル女史はクランの出入り業者でありまた情報屋でもあるウォルステッドという男にそう依頼する。協力者の彼と共にクランメンバーの声と室内の光がこぼれるラベンダーの家を、まだ拭いきれない漠然とした不安と疑念を胸に残しながらグリダニアの夜空の下で二つの影は視線の先を目を細めて見つめ続けるのだったー。


(次回に続く)

 

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