ラヴィリティアの大地第50話「もうひとつの婚姻式」中編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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この神々に愛されしエオルゼアの地に存在する様々な歴史の最中まるでおとぎ話のように突如建国したラヴィリティアという小国の物語が、百年の単位で時代を揺るがす激動の1ページを捲ろうとしていた



その日は朝から雲ひとつない日で、空は綺麗なグラデーションの青色がこの吉日を彩っていた。入道雲は天変地異の現れだと誰かが言った気がするがその日は頭(こうべ)が押しつぶされそうな暑さと人の熱気、そしてささやかな花火とそれに合わせた色鮮やかな祝いの紙吹雪が、永遠と思わせるように宙を舞っていた。ラヴィリティアの凱旋門から沢山の紙吹雪をこれでもかというほど浴びながら、冒険者クランBecome someone(ビカム・サムワン)のリーダーでありこのラヴィリティア国三大貴族リサルベルテ家養子であるオーク・リサルベルテ他クランメンバーが、オークの元婚約者でこの国の女王に即位するハンナ・ラヴィリティアの新しい婚約者との婚姻式に全員招待されて足を運んでいたのだった。祝福の嵐がやまない城下町では些かやり取りし難かったが、天使のケイがメンバーに口を開いた

「今日はすごい人出だね…!僕わくわくしちゃう!!」
「そうだねケイちゃん!わたしもドキドキしちゃう」
「クゥ、だよねだよね!?いっぱい美味しいご飯食べられるかな」
「沢山食べられるよケイ、婚姻式が終わった後だけれどね」
「そうなんだねオーク!すっごく楽しみだな〜」
「式の間は大人しくしていろよ、ケイ」
「オクベルわかってるよぉ〜」

女黒魔道士のオクーベル・エドに王宮内のパーティーで羽目を外すなと、いつものように釘を刺された天使ケイは頬を膨らませ口を尖らせながらしぶしぶと返事をした。その様子をいつものようにクランメンバーでくすくすと笑い合った。そう、本当に軽くいつものように。ビカム・サムワン一行はそんなやり取りをしながらラヴィリティア城の門を潜った。


「オークさん!来てくれたんですね…!」
「この度は御目出度う御座います、エンリック殿。いえ、もうエンリック殿下とお呼びしたほうがいいですか」
「とんでもない!いつも通りにしてください。貴方達がオークさんのクランメンバーの方々ですね」
「皆、紹介するよ。彼はハンナ王女の王配になるエンリック卿。クゥも初めてだったね」
「はい、初めましてエンリック殿下。この度は誠におめでとうございます、クゥクゥ・マリアージュです」
「貴女がオークさんの奥方ですね、お会いしたかった。ハンナからずっと話は聞いていました、クゥクゥ様もご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます!」

本日の主役であるハンナ王女の王配になるという婚約者の男性、エンリック卿という貴族は折り目よくお辞儀をしてクゥの手を軽く持ち上げ挨拶を交わした。クゥはエンリック卿のその様子でやっとオークとの結婚を外野にも正式に認めて貰えたような気がしてほっと気が緩んだ。オークと結婚しても尚クゥは心のどこかで常に漠然とした不安を胸に抱えていた。オークは養子といえど由緒正しきラヴィリティア王家貴族出身だ、元農民の自分がオークとの婚姻をいつどんな形で破棄されるかわからない、と。実際自分の目でハンナ王女の婚約者を見るまでは安心出来ていなかったのだ。その心底安心した様子にオークはもしかしてと思案する。婚姻式前の軽い挨拶回りをするエンリック卿と早々に別れ、オーク達は婚姻式会場のラヴィリティア城、玉座の謁見広間へと向かった。その道すがらオークはクゥに話しかけた

「安心した?エンリック殿とハンナの婚姻式のこと。クゥ、ずっと気にしてただろう」
「あ!…うん、そうだねオーク」
「やっぱり気にしてたよな、叙勲式の時の俺の婚約者の話。エンリックさんとは昔から顔見知りだったんだ、よくハンナを交えてお茶会もした。あの気丈なハンナのことだから国の為だけに相手を選ぼうとするだろうなと思ってたんだけど彼女が幼い頃からエンリックさんをよく見つめてた事を俺が早くに気付いたんだ」
「そうなんだ…」
「そう。で、俺がふたりの仲を取り持ったんだ。ハンナがあんまりはっきりしない態度を取るものだからエンリックさんにも俺との仲を疑われたりしてね、懐かしい。だからハンナは本当に好きな人と結婚するんだよ、元々婚約者のひとりだったからハンナとエンリックさんの本当の気持ちに誰も気が付いていないけれどね」
「そっか、なら良かった」

クゥはオークの最後の言葉にも顔を緩ませて優しく微笑んだ。その様子に目を細めたオークはクゥとの距離をもう少しだけ縮めて彼女の耳元で囁いた

「だから俺には君だけだよ、クゥ」
「!…うん、わかったオーク」
「良かった」

オークはそう言って夫婦の契りも交わしたのに真っ赤になったクゥを自慢気に確認してから彼女からまた体を離して前を向いて廊下を歩き始めた。頰が熱い、結婚してもずっとクゥの心を掴んで離さない夫のオークに彼女は今日も胸をときめかせられ続けていたのだった。


そして“その時”はやってきた。ラヴィリティア王家が王や女王になるにあたって複数の婚約者を正式に一人に決めるのは、戴冠式と同時であると国内外で認知されていた。玉座の間はすでに各国から招待された来賓や市民権を持った多くのラヴィリティア人で埋め尽くされていた。オークはすでに婚約者候補から退いているがラヴィリティア人であるし婚約者を公に退く為にも必要な儀式であった。公に出席する装いに着替える為クゥ達と一度別れてオークは玉座へ向かうことになった。広間が徐々に静まり変える。しばらくして玉座にハンナ王女とオークを含む数人の婚約者達、それから最後に戴冠式と婚約者指名の両方の宣言を担うラヴィリティア三大貴族の一人である年老いたハーロック卿が姿を現した。オークは既に成人しておりリサルベルテ家を出て爵位も貰っておらず、ラヴィリティアの公人としての装束は持っていない。代わりに水の都リムサ・ロミンサのメルウィブ・ブルーフィスウィン提督の統括する『黒渦団(こっかだん)』に小隊を持つほど昇級していた故に黒渦団の制服を身に着けての参加になった。これは確実にオークの功績だった。この良き日の晴れ舞台で自身の夫の姿がいつにも増して眩しい、オークの制服姿を視界に写していたクゥはずっと彼に見惚れていた。オークは自身のよく利く目でクゥの姿を捉えアイコンタクトをして、クゥの視線を下げさせたあと自身の腰の辺りでそっと手を振った。それにクゥも気が付いて自分の手元で軽く手を上げてそれに応えた。それを横で見ていた女冒険者のオクーベルは小声でクゥに話しかけた

「クゥ、オークは黒渦団の制服がよく似合うな」
「だよねオクベルちゃん」
「やっぱり私も黒渦団に所属してあの制服が着たかった。スウィフト大闘佐に頼み込まれてうっかり不滅隊に入ってしまったのが悔やまれる、女性隊員の制服も可愛い」
「そんな理由で不滅隊を辞められちゃったらラウバーン局長さんに嘆かれちゃうよ」

ハンナ王女達の入場でまた俄にざわめいた広間でオクーベルの他愛ない言葉にクゥはくすっと最後に笑って口をつぐんだ。ハーロック卿の婚約者の名を告げる宣言が始まった

「これよりラヴィリティア国第一王女ハンナ・ラヴィリティアの戴冠式、及び王配を配する者の名を告げると称された今日この日に、この謁見の間で宣言する」
「婚約者はほぼ最初から決まってるようなものだな、順当にいってきっとエンリック卿だろう」
「家柄の格式もラヴィリティア王家と釣り合いが取れている、これで誰も文句はない。一番平和的だな」
「この婚姻がこの場で誰かに覆るなんてあり得ない」
「過去に何度かこの場であったようだが…先代や先々代の隠れ胤でも居ない限りあり得ん」
「馬鹿な、先の戦や疫病やらでハンナ王女以外は軒並み亡くなっていると聞いているぞ」
「…」

ハーロック卿の長い宣誓の前置きにラヴィリティアの貴族達の噂話の声がそこかしこで次々と聞こえてきてクゥやオクーベル達の耳にも自然と届いた。彼女らは顔を見合わせて言葉を交わす

「どうやらラヴィリティア国内は本当に複雑な事情がからんでるようだな、クゥ」
「うん、オークから少しだけ聞かされていたんだけど…オクベルちゃん」
「しかし異様に城内のラヴィリティア兵が多いな」
「婚姻式だしこういうものなのかな…」

オクベルとクゥが城内の物々しい雰囲気に多少の違和感を覚えていると途端にハーロック卿が声を張り上げた

「では、正式な婚約者の名を示す。次世代の『ラヴィリティア王』の婚約者は現第一王女ハンナ・ラヴィリティア、」

ハーロック卿は一度言葉を区切った。その言葉の意味に誰もが思考を巡らせて僅かに目を泳がせた。ラヴィリティア人達がざわめき始める

「“婚約者”がハンナ王女だと…?」
「ハーロック卿は何を仰っているんだ」
「言い間違えかだろうか」
「今、ラヴィリティア王がどうとか言わなかったか」

民衆が口々に言葉を発するのも無理はない。ハーロック卿は確かに “ラヴィリティア王の婚約者はハンナ王女” と宣言したのだ。それを目の当たりにしたオークも眉間に皺を寄せ自分の耳を疑う。オークと並ぶ隣同士の婚約者達でさえお互いの顔を見合わせあった。それは来賓席のほうへ居た各国の要人達やクゥ達も同様だった。クゥを挟んでオクーベルと反対側に居たケイはクゥのスカートの裾を不安そうに握りしめてこういった

「あの人は何を言ってるの?これはオークが婚約者を降りるって話だよね、クゥ」
「わからない…いったいどうしたの?オーク」

ケイの不安は尤もだし、またクゥもハーロック卿の言葉に動揺を隠せなかった。オークも、そして玉座に背筋を伸ばして凛と立つハンナ王女でも戸惑っているように見える。しかしその場にいる誰もが信じ難い言葉をハーロック卿は叫んだ

「婚約者を得てこれによりラヴィリティア王の誕生とする、王の名はオーク・リサルベルテ。今日よりオーク・ラヴィリティアと成る」
「!?」

謁見の間の空気が一変する。会場にいる大衆が騒ぎ出す

「なんだと…っ!」
「彼がラヴィリティア王だとっ?」
「あのリサルベルテ家の四男か!」
「まさか…」
「ラヴィリティア家直系の隠し子か…!?」

誰が言ったか分からない、最後のその言葉の方向に多くの人が振り向きその後ハーロック卿やハンナ王女、そしてオークの方へと一気に視線が集まった。ハーロック卿のその宣言に愕然として真っ青になったのは誰でもないオーク本人であった。先程まで近しい肉親がおらず兄妹のように交流を重ねたハンナ王女の祝い事で胸を熱くしていたオークは途端に口の中が乾いた。冷たい汗が彼の背中を伝う。喉がごくりとなったのを最後に、オークは小さく言葉を発した

「何かの間違いだ、俺じゃない」
「いや、お前だオーク」
「ハーロック卿!!」
「お前が本当のラヴィリティア王家唯一の直系だ、オークよ」
「…!」

オークは絶句する。ハーロック卿は偽りを述べていない、それがオークの前に進み出て静かに語る彼の力強い声色とその固い意志を宿した目に真実を感じ取ることができたからに他ならなかった。国内外広く人徳を得ていた第一王女ハンナ・ラヴィリティアの戴冠式及び婚姻式は誰もが祝福し浮足立っていたため、ハーロック卿の言葉に皆驚きながらも貴族を始めラヴィリティア人のその多くがオークの方向へと膝を折った。その物々しく混沌とした空気の中でオークやクゥ達はその場で立ち尽くす他無かったのであったー。


(次回に続く)

 

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