ラヴィリティアの大地第25話「祖国の婚約者」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

【前回まではこちら】

 

 

その日は突然訪れた。ラベンダーベッドの家のリビングで手紙を改めていたクランのリーダー、青年オークは目を丸くした。オークは顔を上げリビングで寛いでいたメンバー全員に声をかけた

「皆聞いてくれ!今日俺の国から、ラヴィリティア国からリヴァイアサン討伐の件でリムサ・ロミンサの黒渦団と連名でここにいる全員に勲章を授与したいから城に来てくれって手紙が来たんだ…!」
「何…!?それは本当か」
「ああ、俺達の功績がやっと認められたんだ」

口に手を当てて食い入るように手紙を見つめ感極まっているオークを他のメンバーは温かい気持ちで見守っていた。オークに事の次第を確かめた女冒険者オクーベルは続けて言葉を投げかけた

「授与はラヴィリティア国で行われるのか?」
「ああ、城内で行うと書いてある」
「やったね、オーク…!」

言葉にならない嬉しさを噛み締めているオークにクランの回復士(ヒーラー)であるクゥクゥは自分のことのように共に喜んだ。リヴァイアサン討伐ー、それは裁縫師であるスレイダーを迎えイフリート討伐の後に携わった、海の都リムサ・ロミンサでの戦いだった。エオルゼアの大海で『大海嘯(だいかいしょう)』という大津波を起こす蛮神リヴァイアサンの脅威はリムサ・ロミンサだけに留まらなかった。リヴァイアサンは神出鬼没でリムサ・ロミンサを始め海を持つ多くの国が長年この大津波に悩まされ続けていた。冒険者が大海嘯を起こす蛮神を屠ったという情報は瞬く間に被害を被っていた連合国や小国に届いた。故に今回の運びとなったのだった。仲間である天使のケイは瞳を輝かせてオークに尋ねた

「僕、何着ていけばいいかな!?」
「叙勲は内々に行うからいつも通りで大丈夫だそうだ」
「全員で行くのか?」
「ああ、もちろん」

俺も受けられるのだろうかと聞いた獣人オウもオークの言葉に心なしか嬉しそうだった。各々喜び合う仲間たちを眺めオークは冒険者になって初めての達成感を覚えるのだった。


後日、森の都グリダニアに隣接する小国ラヴィリティアにオークたち名もなきクランは足を踏み入れていた。天使ケイが隣を歩くオクーベルに話しかけた

「オクベル、僕ラヴィリティアって初めて来たよ、可愛い国だね」
「私もだ、ケイ。森の都グリダニアに劣らない自然豊かな国だとは聞いていた。歴史も長そうだが意外と来ないものだな」
「わざわざ観光で来る国では無いからね。ラヴィリティア王国は八百年程前まで騎馬民族の集合体だったんだ。土地を持たない民族で初代国王が国を樹立すると宣言してから隣国の、まだ国として形を成してなかった頃のグリダニアの自然と領地をイクサル族から護る形で騎士の国を培ったんだ」
「へぇ…」
「そんな経緯だったからグリダニアとの国境が昔から曖昧でね、飛び地も多い。グリダニアの最高司令官カヌエ様のお人柄からもわかるようにカヌエ様の先代、先々代もラヴィリティアと争う事なく共存を望まれて今のラヴィリティアがある。クゥの生まれ育った所もグリダニアとラヴィリティアの堺だったんだろう?」
「うん、そう!私の村も、私が居る間に三回もラヴィリティアの人が来て『今日からラヴィリティアの傘下になるから』って伝えて帰って行ったよ。私も村の皆も最後はびっくりしなくなってた」
「なんだか申し訳ないな」
「でもね、ラヴィリティアの人は必ず『何かあったら絶対に護るから』って言って帰っていくの。嬉しかったな」
「そうか…良かった」

懐かしむように笑ったクゥにオークは安堵の息をついた。一同はそんな話をしながらラヴィリティア城の門をくぐった。


オーク達の叙勲は黒渦団メルウィブ提督の代理である黒渦団軍令部総長、副官エインザル・スラフィルシン始めグリダニア双蛇党少佐や砂の都ウルダハの不滅隊幹部まで顔を揃えていた。内々とはいえそれ程の功績をオーク達は成し得ていたのだ。皆緊張した面持ちではあったが勲章はつつがなくオークの胸を飾った。簡単な式が終った叙勲会場の前を、侍女を数人連れ王族の高貴さを放つ背の高い女性がオークたち五人の前を横切った。オークはその女性を見咎め叫んだ、

「ハンナ!ハンナじゃないか」
「…これはこれは、婚約者殿」


「ハンナ、元気だったか?全然会いに来れなくてすまなかった」
「え…」

皆オークの様子に振り向きクゥは驚きを隠せなかった。尚もハンナと呼ばれる女性とオークの会話は続く、

「オーク、お前も息災だったか。手紙はしきりに送ってくれていたではないか」
「それでも全く城に来れなかった、顔が見たかった。本当に悪かったよ」

オークの後ろに集まるクゥクゥ達にハンナという女性は目を細めて声をかけた

「オーク、こちらの者たちが手紙の冒険者か?」
「ああ、そうなんだ。皆紹介するよ、彼女はこのラヴィリティア王国の皇女、王位第一位継承者のハンナ・ラヴィリティア」
「オークからいつも話は聞いていた。此度のリヴァイアサン討伐の件、深く礼を言う。ありがとう」
「いえ、そんな…」

クゥはオークの婚約者と聞き逃さなかった言葉に動揺しながらも精一杯の返事を皇女に返した。その様子を女冒険者オクーベルと天使ケイは不安な面持ちで見つめていた。獣人オウはオクーベルに耳打ちをする

「あの皇女、オークに婚約者だと言わなかったか」
「ああ、言った。オーク、あいつ私達に何も言って無かったではないか」
「どうしよう…クゥは絶対に気にしてるよね」

ケイは不安が募りオクーベルのスカートの裾を握りしめた。第一皇女と短い挨拶を交わしオーク達はその場を後にした。何を話したのかはよく覚えていない。クゥはオークの叙勲で舞い上がっていた気持ちが急速に冷めていくのがわかった。


オーク以外のメンバーが言葉少なになった事にオーク本人も気付いた

「皆、どうしたの?ハンナとの話、長かったかな」
「いや…」
「?」

オクーベルのはっきりしない返答にオークは違和感を覚えつつも話を続けた

「ハンナの事は話してなかったけどとても仲が良いんだ。婚約者って言うのは建前」
「は?」
「やっぱりそこが引っかかるよなぁ、俺が婚約者だなんて有り得ないよ」

オークは頭を掻いてこう続けた、

「ラヴィリティア王国は権力争いが起こらないように王位第一継承者に血族の末子を複数人据える事になっているんだ」
「ということは…」

オクーベルはクゥに目線を移し、またクゥもオークの言葉に弾かれるよう顔を上げた。オークが言葉の先を進める

「だから俺はただの数合わせ。複数人居る男の中の一人」
「なんだぁ、そっか〜」
「びっくりさせてごめんな、ケイ」

ほっとしたケイの頭を撫でて謝るオークにクゥも心底安心する顔を見せた。その様子を見て獣人のオウもオクーベルも顔を見合わせ緊張した空気を緩ませた。和やかな空気に包まれた後オクーベルはウルダハ、オウはリムサ・ロミンサ、ケイはグリダニアへ各々仕事の確認に向かう。オークとクゥだけが冒険者居住区のラベンダーベッドへ帰ることになった。オークは普段、人に遠慮して自分の話を殆どしないのに叙勲の喜びで饒舌になっていた。その勢いのままクゥに話を始める

「まさかハンナに会えると思ってなかった。挨拶に行こうとは思ってたけど叙勲が急だったしすれ違うだろうなと思ってた」
「そうだったんだ…」
「ハンナはね、俺が小さいころリサルベルテ家になかなか馴染めなくて新しい父の仕事で連れて行かれる城内でたまたま出会ったんだ」

クゥはオークの事が知りたくて話に聞き入った。オークは懐かしむように話した

「いつも城の中庭で一人で居たらハンナが声をかけてくれて…あのころ歳の近い友達も居なかったし、ハンナが年上だったからよく遊んでもらって。姉弟みたいに育ったんだ」
「…だからあんなに仲良かったのね」

ずっとハンナと親しげに呼ぶオークの声に胸を軋ませていたクゥはだんだんと心が軽くなっていく。ハンナとの事はオークにとって本当になんでもないことが伝わってくる。叙勲を受けて肉親のように思っている人と会えたのだから相当嬉しいのだろうとクゥは思い直した。オークの話は続く

「今日はハンナにも会えたし、冒険者として最高の一日だった。まだ気持ちがふわふわしてるよ。これなら近いうちにラヴィリティア国内でもっともっと大きな仕事が出来るかもしれない。そうなったらー、」
(あ、言っちゃいたい…)

オークが無我夢中で自分の夢を語っている。最高の気分の時に伝えたら解ってもらえるかもしれない、クゥはそう思った

(オークに好きだって言いたい、今なら言えるかも…)

陽の暮れたグリダニアで人通りが少なくなった園芸師ギルド前。そこはラベンダーベッドへ帰る道と違う方向だった。話に夢中で道を間違った事といつもの様子とは違うクゥに気が付かなかったオークはやっと冷静にクゥに語りかけた

「あれ、道間違っちゃたな。クゥ、戻ろう…」
「好き」
「…え?」
「私、オークが好き」

オークは突然現実に引き戻される。しかしー、

「私、オークが好き。だから…っ」
「ごめん」
「え…」

オークは愕然とした顔を一度クゥから逸らしてそのまま言葉を発した

「ごめん、君の気持ちに…応えられない」

クゥはオークの言葉にただただ体を固くするしか出来ないのだったー。



(次回に続く)

 

読者登録をすれば更新されたら続きが読める!

フォローしてね!

ぽちっとクリックしてね♪

 

↓他の旅ブログを見る↓

 

☆X(※旧ツイッター)

 

☆インスタグラム

 

☆ブログランキングに参加中!↓↓


人気ブログランキング