お天気がいい日曜日、
私は、
のんびりとリビングで過ごしていました。
せっかくのお休みだから、
どこかに出かけようかな、
そんなことを考えていました。
若い頃は、
毎週末のように出かけていたものです。
朝早くから電車に乗って、
遠くの街まで出かけたりしていました。
流行りのカフェに行ったり、
行列のできるお店に並んだり。
それは、
とても楽しい時間でした。
でも、
最近はどうでしょうか。
休日は、
家でゆっくり過ごすことが多くなりました。
ソファに座って、
テレビを見たり、
スマートフォンを眺めたり。
気がつくと、
一日が終わっている。
そんなことも、
珍しくありません。
若い頃はもっと外に出ていたのになぁ。
そんなふうに、
ふと、
物思いにふけったりします。
こういうのって、
みなさんは、
どうでしょうか。
年齢とともに、
だんだん出かけるのが億劫になる。
そんなことって、
ありませんか。
私の場合は、
まさにそれでした。
外に出るのが、
少し面倒になっていたのです。
でも、
せっかくの休日です。
このまま何もしないで終わるのは、
なんだかもったいない気がします。
そこで、
私は決心しました。
今日は、
ちょっとだけ、
近所のショッピングモールに行ってみよう。
そう思ったのです。
ここで、
軽い気持ちで出かけたのが、
すべての始まりでした。
まさか、
あんなことになるとは、
このときの私は、
夢にも思っていませんでした。
少し、
話しは変わりますが、
みなさんは、
最近のショッピングモールって、
行かれるでしょうか。
私の知っているショッピングモールは、
もう少し、
落ち着いた場所でした。
広い通路があって、
ゆったりとお買い物ができて。
たまに、
イベントスペースで、
小さな催し物をやっているくらい。
そういうイメージを、
持っていたのです。
だから、
今回も、
いつものように、
のんびり歩くつもりでした。
お気に入りのコーヒーショップで、
ラテでも飲んで、
本でも読もうかな。
そんな、
優雅な休日を想像していました。
足取りも軽く、
私は自宅を出発しました。
お気に入りのスニーカーを履いて、
お天気も最高です。
やっぱり、
外の空気を吸うのは気持ちがいいな。
そんなふうに、
最初は、
心からそう思っていました。
では、
いざ到着してみると、
どうだったでしょうか。
目の前に広がっていたのは、
私の想像をはるかに超えた、
異様な光景でした。
まず、
駐車場に入る車が、
ものすごい行列を作っていました。
あれ?
今日は何か特別な日だっけ?
カレンダーを確認したけれど、
ごく普通の、
なんでもない日曜日です。
なのに、
この混雑は、
いったいどうしたことでしょう。
車を停めるだけでも、
ひと苦労でした。
やっとの思いで駐車して、
いざ建物の中へ入ります。
自動ドアが開いた瞬間、
私の耳に飛び込んできたのは、
割れんばかりの喧騒でした。
ざわざわ、
というレベルではありません。
まるで、
テーマパークのアトラクション待ちのような、
ものすごい熱気です。
通路には、
人があふれかえっていました。
歩くのも、
一苦労です。
前を歩く人のペースに合わせて、
ちょこちょこ歩くしかありません。
自分のペースで歩くなんて、
夢のまた夢でした。
これは、
一体どういうことなのでしょうか。
私は、
少し圧倒されてしまいました。
でも、
せっかく来たのです。
すぐに引き返すのも、
なんだかもったいない気がします。
とりあえず、
人の流れに身を任せて、
歩いてみることにしました。
ここで、
問題が発生しました。
ものすごい人混みの中を歩いていると、
だんだん疲れてくるのです。
若い頃は、
これくらいの混雑なんて、
平気だったはずなのに。
今は、
人の多さだけで、
ぐったりしてしまいます。
若い頃はもっと外に出ていたのにな。
さっきまでのんびり考えていたことが、
急に現実味を帯びて、
胸に突き刺さりました。
体力って、
本当に落ちるものなんですね。
しみじみと、
そんなことを思いました。
でも、
せっかくなので、
何か一つくらい、
お店を見て回ろう。
そう思って、
近くにあった雑貨屋さんに入りました。
店内は、
少し落ち着いた雰囲気でした。
外の喧騒が嘘のように、
静かな音楽が流れています。
こういう空間、
やっぱり落ち着くなぁ。
私は、
ホッと一息つきました。
カラフルな文房具や、
可愛いインテリア小物が並んでいます。
見ているだけで、
なんだか楽しい気分になってきます。
こういうのって、
女性なら、
みんな好きなんじゃないでしょうか。
私も、
すっかりテンションが上がってしまいました。
可愛いマグカップを手に取ってみたり、
アロマの香りを嗅いでみたり。
すっかり、
日常の疲れを忘れて、
お買い物を楽しんでいました。
やっぱり、
たまには外に出るのもいいものだな。
そう思い直した瞬間でした。
ここで、
事件が起きました。
正確に言うと、
事件というか、
予想外の展開です。
お店の奥の方に、
ちょっとした人だかりができていました。
何だろう。
セールでもやっているのかな。
気になった私は、
野次馬根性を発揮して、
その人だかりに近づいてみました。
人の隙間から、
そっと覗いてみます。
そこにあったのは、
見たこともないような、
不思議な機械でした。
なんだろう、あれは。
コーヒーメーカーのようでもあり、
最新の美容家電のようでもあり。
とにかく、
近未来的なデザインの機械が、
ポツンと置いてあったのです。
その横には、
スタッフらしいお兄さんが立っていました。
お兄さんは、
大きな声で、
何やら説明をしていました。
「みなさん、
こちらは、
最新の、
『感情可視化(かんじょうかしか)マシーン』
になります!」
か、
感情可視化マシーン?
なんだか、
ものすごく難しそうな名前です。
ようするに、
今の自分の気分を、
機械が色や数字で教えてくれる、
そんな画期的なアイテムらしいのです。
しかも、
その場ですぐに体験できるとのこと。
周りの人たちは、
面白そうにその機械を見つめていました。
でも、
こういうのって、
なんだかちょっと恥ずかしいですよね。
見知らぬ人たちの前で、
自分の感情を測定されるなんて。
私は、
そっとその場から離れようとしました。
「では、
そこのお姉さん、
せっかくですから、
やってみませんか!」
あ。
お兄さんと、
目があってしまいました。
逃げ場がありません。
周りの視線も、
一斉にこちらに集まりました。
うわぁ、
どうしよう。
恥ずかしさで、
顔が一気に熱くなりました。
でも、
ここで断るのも、
なんだか大げさすぎる気がします。
「あ、
はい……。
じゃあ、
少しだけ……。」
私は、
蚊の鳴くような声で、
そう言いました。
こうして、
私は、
思いがけず、
最新マシーンの実験台になってしまったのです。
スタッフのお兄さんに促されて、
私はその機械の前に座りました。
なんだか、
健康診断のときのよな緊張感があります。
「では、
両手をこちらのセンサーに置いてください。」
言われるがままに、
私は両手を台の上に置きました。
ひんやりとした金属の感触がします。
「そのまま、
リラックスして、
目を閉じてください。」
言われた通りに、
私は目を閉じました。
周りのざわめきが、
少し遠ざかります。
心の中で、
私は、
こんなことを考えていました。
(早く終わってほしいなぁ)
(恥ずかしいなぁ)
(お買い物の続きがしたいなぁ)
そんな、
ごく普通の、
ありふれた感情です。
機械のほうから、
かすかに、
ウィーン、
という音が聞こえてきました。
なんだか、
本当に私の心が読まれているような、
不思議な気分です。
若い頃はもっと外に出ていたのになぁ、
なんて考えていた自分の姿が、
頭をよぎります。
あの頃の私は、
もっと怖いもの知らずで、
どこへでも飛び出していけたのに。
いつの間にか、
小心者になってしまったものです。
そんな感傷に浸っていると、
機械から、
「ピピッ」
という可愛らしい音が響きました。
「測定、
完了しました!」
お兄さんの明るい声が聞こえます。
私は、
そっと目を開けました。
目の前にあるモニターには、
何やらグラフのようなものが表示されていました。
赤や青や黄色。
いろんな色が、
複雑に入り混じっています。
これは、
いったい、
何を意味しているのでしょうか。
私は、
ドキドキしながら、
お兄さんの解説を待ちました。
お兄さんはモニターを見つめると、
少し驚いたような顔をしました。
え?
私の心の中、
そんなにおかしなことになっていたのでしょうか。
不安が頭をよぎります。
「お姉さん、
これは、
すごいですね……。」
お兄さんは、
真剣な表情でそう言いました。
「え、
何がですか?」
私は思わず聞き返してしまいました。
「実はこのマシーン、
その人が今、
人生に対してどれくらい情熱を持っているかを、
測定する仕組みになっているんです。」
ほうほう。
なるほど。
「それで、
お姉さんの結果なんですけど……。」
お兄さんは、
一度言葉を切りました。
この「タメ」が、
余計にドキドキさせます。
「なんと、
『限界突破(げんかいとっぱ)』
の数値が出ています!」
げ、
限界突破?
私がですか?
思わず、
自分の両手を見つめてしまいました。
どこがどう限界突破なのか、
全く意味が分かりません。
私はただ、
近所のショッピングモールに、
ちょっとお散歩に来ただけなのに。
「えっと……、
それって、
どういうことですか?」
私が戸惑いながら聞くと、
お兄さんは満面の笑みで答えました。
「ようするに、
心の中では、
『今すぐ世界の果てまで旅に出たい』
という、
ものすごいエネルギーが渦巻いている、
ということです!」
な、
なんだって……?
私の心の中で、
そんな大冒険が繰り広げられているというのですか。
自分でも、
まったく気づきませんでした。
むしろ、
「家でゆっくりしたいなぁ」
としか思っていなかったはずです。
それなのに、
心の本音は、
世界を股にかける冒険家だったなんて。
周りの人たちからも、
「おおー!」
という歓声が上がりました。
ちょっと待ってください。
私はそんなキャラじゃありません。
でも、
不思議なことに、
その説明を聞いた瞬間、
胸の奥が、
じんわりと温かくなるのを感じました。
若い頃はもっと外に出ていたのになぁ、
と嘆いていた私。
もう歳だから、
お出かけも億劫だなんて、
勝手に決めつけていた私。
もしかしたら、
それはただの思い込みだったのかもしれません。
本当は、
私の心の中に、
まだまだ知らない世界へ飛び出したいという気持ちが、
ちゃんと眠っていたのです。
そう考えると、
なんだか、
胸が熱くなってきました。
人間って、
自分のことなのに、
自分が一番分かっていないものなんですね。
こういうのって、
やっぱり、
面白いなぁと思いました。
その後、
私は少し恥ずかしがりながらも、
スタッフのお兄さんにお礼を言って、
その場を離れました。
周りの視線が、
さっきとは少し違って見えます。
「あのお姉さん、
心の中は冒険家なんだってよ」
なんて、
思われているのかもしれません。
そう思うと、
急に恥ずかしさがこみ上げてきて、
私は早足でその場を去りました。
でも、
不思議と、
足取りは軽くなっていました。
さっきまで感じていた、
あの足の重さや、
人混みへの疲労感は、
どこへやら。
なんだか、
体が軽くなったような気がします。
外に出て、
本当によかった。
心の底から、
そう思いました。
私たちは、
日々の生活の中で、
知らず知らずのうちに、
自分で自分に制限をかけてしまっているのかもしれません。
「もう若くないから」
「めんどくさいから」
「いつものままでいいから」
そんなふうに、
自分の可能性に、
フタをしてしまうのです。
でも、
ほんのちょっとだけ勇気を出して、
いつもと違う一歩を踏み出してみる。
そうすると、
思いがけない発見があったり、
自分の知らなかった一面に出会えたりする。
今回の出来事は、
まさにそれを教えてくれたような気がします。
お買い物の続きをする気力も、
すっかり戻っていました。
せっかくなので、
さっきの雑貨屋さんに戻って、
気になっていたマグカップを買うことにしました。
お気に入りのマグカップでお茶を飲む。
それだけでも、
いつもの日常が、
少しだけ特別なものに変わります。
人間の心って、
本当に面白いですね。
ちょっとしたきっかけで、
こんなにも前向きになれるのですから。
みなさんは、
最近、
自分の心の声を聞いていますか。
「若い頃はよかったな」
なんて、
ため息をついていませんか。
もしかしたら、
みなさんの心の中にも、
まだ誰も知らない、
すごいエネルギーが眠っているかもしれませんよ。
そう考えると、
明日からの毎日が、
少しだけ楽しみになってきませんか。
私は、
すっかりすっきりした気分で、
ショッピングモールを後にしました。
帰り道に見上げた空は、
いつにも増して、
青く澄んでいました。
やっぱり、
外に出るって、
いいものですね。
また今度、
時間を作って、
今度はもう少し遠くの街まで、
お出かけしてみようかな。
そんなふうに、
ワクワクしながら、
家路についた私なのでした。