【イランのソレイマニ司令官殺害と台湾の蔡英文総統再選が第三次世界大戦勃発の予兆となる可能性について】





2020年の劈頭にあたり、ふたつの衝撃的なニュースが報じられました。

ひとつめは、アメリカがドローンによる攻撃で、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したというニュースです。[1]

ふたつめは、ヘリコプター事故により、台湾の沈一鳴・参謀総長を始めとする軍幹部が死亡したというニュースです。[2]


まず、アメリカによるソレイマニ司令官の殺害ですが、ソレイマニ司令官はイラン国軍の司令官であり、その殺害は戦争行為にあたります。アメリカは、宣戦布告なしに戦争行為を行ったことになり、ジュネーブ条約に違反し、国際法違反の行為となります。つまり、戦争犯罪であり、殺人です。[3]



イランは、イラクにあるアメリカ軍基地に対してミサイルによる報復攻撃を行いました。

司令官は殺害されましたが、精鋭「コッズ部隊」自体は無傷です。イランは、今後も、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イエメンのフーシー派と協力し、中東地域における影響力を拡大して行くでしょう。

そのため、今後も、何らかの事件がきっかけとなり、アメリカとイランの間の軍事的対立がエスカレートする危険性があります。

昨年末、イランとロシア、中国の海軍は、インド洋で合同演習を行いました。アメリカとイランの間で軍事的紛争が開始された場合、ロシアと中国は、イランを支援すると思われます。

たとえば、ロシアは、妨害電波装置をイランに供与し、アメリカの軍事行動を妨害するかも知れません。
(「ロシアの妨害電波装置」については、こちらのブログ記事をご参照下さい。)

ちなみに、アメリカの民主党は、トランプ大統領のソレイマニ司令官殺害行為に関し、これが国際法違反の戦争犯罪・殺人にあたるとして、現在進行中の大統領弾劾手続に追加訴追状を提出することが考えられます。


一方、台湾の沈一鳴・参謀総長を始めとする台湾軍幹部の事故死ですが、原因は、機械故障かも知れませんし、パイロットの操縦ミスかも知れません。ただ、台湾大統領選挙を1週間後にひかえた時期に事故が起こったことを考えると、中国による破壊工作の可能性もあると思われます。



もし中国の破壊工作であれば、これも国際法違反となりますが、恐らく、その証拠は一切出てこないでしょう。

1月11日に行われた台湾の総統選挙では、独立派・民進党の蔡英文総統が、親中国派・国民党の韓国瑜候補に勝利しました。蔡英文総統は、12月31日、「反浸透法」を成立させ、中国本土と台湾のビジネス・文化・教育面での人的・資金的交流を途絶させようとしています。また、蔡英文総統は、最近の演説で、台湾の「主権」という表現を使い始めています。主権という表現は、台湾の独立宣言とほぼ同義です。[4][5]


[総統選挙に勝利した台湾独立派の蔡英文氏]

中国は、すでに2005年に「反国家分裂法」を制定し、台湾独立派勢力が台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生したとき、中国は中央軍事委員会の決定を経て台湾に対し軍事介入するとしています。(下記「反国家分裂法」第8条をご参照下さい。)[6]


中華人民共和国「反国家分裂法」(2005年制定・同年施行)

第8条 「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。

 前項の規定によって非平和的方式その他必要な措置を講じるときは、国務院、中央軍事委員会がそれを決定し、実施に移すとともに、遅滞なく全国人民代表大会常務委員会に報告する。


台湾の蔡英文総統は、総統選挙勝利で自信を深め、今後、台湾の事実上の独立へ向け、様々な施策を打ち出すかも知れません。たとえば、アメリカ政府の現職高官が台湾を訪問したり、蔡英文総統がアメリカを訪問し、アメリカ政府の高官と会談するかも知れません。アメリカ海軍の艦艇が台湾に頻繁に寄航するようになるかも知れません。アメリカが台湾に最新兵器を大量に売却するかも知れません。また、現在アメリカは台湾関係法を制定し、台湾が軍事侵攻を受けた場合、台湾を守るために適切な行動を取るとしていますが、日本においても同様の法律が制定されるかも知れません。

一方、中国共産党内や中国国内では、香港の長期デモを許し、台湾の蔡英文総統再選を許してしまった習近平指導部に対し、右派・保守派からの批判が強まると思われます。

そのため、中国は、台湾の「反浸透法」制定、および蔡英文総統の「主権」発言をとらえ、また、今後台湾が事実上の独立へ向けて様々な施策を実施した場合、それが「反国家分裂法」第8条の要件に該当するとして、武力による台湾統一を図る可能性があります。

とくに、アメリカとイランが戦争状態となり、アメリカ軍の主力が中東地域に派遣された場合、中国が台湾を武力統一する可能性は高まります。アメリカ軍は、中東とアジアの両地域で同時に大規模な軍事行動を取るだけの戦力がないからです。

さらに、同じタイミングで、ロシアがウクライナに侵攻するかも知れません。アメリカ軍は、対応力を失うことになります。

その場合、中東、アジア、欧州の3つの戦線に及ぶ第三次世界大戦が勃発することになります。

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台湾の沈一鳴・参謀総長を始めとする台湾軍幹部の事故死により、台湾軍指導部は、しばらくの間、混乱状態になると思われます。中国が台湾を武力統一する場合、初動作戦として、破壊工作による台湾軍幹部の暗殺が実行されるかも知れません。

今の時点であれば、中国の1000発を越える中距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイルは、台湾周辺地域において、台湾軍およびアメリカ軍を圧倒しています。[7]

しかしながら、もし今のタイミングを逃すと、今後、アメリカが日本に中距離ミサイルを多数配備し、中国による台湾武力統一が難しくなる可能性があります。

1月11日の台湾総統選挙で、親中国派・国民党の韓国瑜候補が勝利していれば、中国と台湾の平和的統一が進んだと思われます。

これに対し、今回の独立派・民進党の蔡英文総統の再選は、中国による台湾武力統一の可能性を高めたと思います。

アメリカは、戦力不足を補うため、今後、NATO軍が中東地域およびアジアにおいても軍事行動を行うよう要請するでしょう。また、アメリカは、日本の自衛隊に対し安保法制に基づく米軍への協力を要請するでしょう。[8][9]


中東情勢および台湾情勢への注視が必要です。アメリカが戦争を開始すれば、日本の自衛隊に対し、参加要請が来るからです。

中国が台湾を武力統一する場合、中国が、アメリカの武力介入を阻止するため、在日米軍基地へ弾道ミサイルによる攻撃を行うことも考えられます。これに対し、アメリカは、「インサイド-アウト防衛戦略」を実施し、在日米軍を退避させつつ、自衛隊を中国弾道ミサイルの射程範囲内で戦わせようとするでしょう。
(「インサイド・アウト戦略」の詳細については、こちらのブログ記事をご参照下さい。)

このため、日本政府は、中東紛争および台湾紛争のいずれの事態に対しても、早期に明確な中立宣言を出し、日本国民の生命・身体・自由を守るべきです。

そして、日本政府は、トランプ大統領の国際法違反・戦争犯罪行為を非難すべきです。

また、日本の野党は、国際刑事裁判所に対し、トランプ大統領を戦争犯罪で訴追するよう求めるべきです。さらに、安倍政権がアメリカに協力して参戦する場合、戦争犯罪への加担者として、国際刑事裁判所に安倍首相の訴追を求めるべきです。条約は憲法75条(国務大臣の不訴追特権)に優先します。

日本国民は、戦争犯罪を繰り返すアメリカと同盟関係にあることの危険性を認識すべきです。日米安全保障条約を縮小し、アジア諸国との新しい安全保障体制を構築すべきです。
(「日米安全保障条約の縮小」については、こちらのブログ記事をご参照下さい。)

CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)をベースに、そこに日本が正式参加し、ASEAN地域フォーラムを合体させ、新しいアジア地域の集団安全保障の仕組みを構築すべきです。
(「新しいアジア地域の集団安全保障の仕組み」の詳細については、こちらのブログ記事をご参照下さい。)

以上


参照資料:
(1) "Iran's Qassem Soleimani killed in US airstrike at Baghdad airport", Al Jazeera, January 3rd, 2020

(2) "Copter crash kills Taiwan's top military officer, 7 others" , Yahoo News, January 3rd, 2020

(3) "US airstrike that killed Qassim Soleimani of Iran violates human rights law, UN official says", New York Post, January 3rd, 2020

(4) "Taiwan Passes Anti-Infiltration Act Ahead of Election Amid Opposition Protests", The Diplomat, January 3rd, 2020

(5) "Tsai stresses Taiwan's sovereignty", NHK News, January 2nd, 2020

(6) 「反国家分裂法」(全文)中華人民共和国駐日本国大使館

(7) The US-China Military Scorecard, RAND Corporation, 2015

(8) "Trying to Turn NATO Into NATOME: A Trump Administration Adventure", The National Interest, January 13th 2020

(9) "Will China be NATO's Next Challenge?", Newsweek, December 17th 2019


註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。