【近未来の戦争においては、妨害電波による優位性を築いた側が、圧倒的に有利な地位を占めることについて】
1. ロシアの妨害電波装置の優秀性
報道によると、今年に入って、イスラエル上空を飛行する民間航空機にGPS信号の受信障害が発生しているそうです。
その原因として、シリアに配備されたロシアの妨害電波装置が疑われています。ロシアは、シリアにあるロシア軍基地に妨害電波装置を配備し、爆撃機やドローンによる攻撃を防ぐため、妨害電波を発信しています。それが、民間航空機にも影響を及ぼしたのではないかと考えられています。[1]
ロシアは、1990年代から妨害電波装置の開発に注力しており、現在、世界で最も優秀な妨害電波装置を配備していると考えられています。[2]

ロシアの妨害電波装置「Krasukha-4」
2014年、黒海を航行中のアメリカのイージス艦「ドナルド・クック」は、ロシアのスホイ24攻撃機から妨害電波を受け、全ての電子システムがダウンしたと言われています。[3]
2017年、地中海に展開したアメリカの駆逐艦からシリアに対し巡航ミサイルが発射された際も、発射された59発のうち23発しか目標に到達せず、約6割がロシアの妨害電波により墜落したと言われています。[4]
2. 米-イラン戦争とロシアによる妨害電波装置供与の可能性
現在、アメリカとイランの間で、イランの核開発、弾道ミサイル開発、武装グループ支援をめぐり、対立が深まり、軍事的衝突の危険性が高まっています。
アメリカは、弾道ミサイルや武装グループ支援も規制の対象とする新しい核合意をイランに受け入れさせるため、イランに対し軍事的圧力を加えています。アメリカは、空母打撃軍を中東へ派遣し、戦略爆撃機B-52を中東へ展開しました。
中東ではタンカーに対する攻撃が相次ぎ、アメリカはイランの攻撃によるものとし、イランを非難しています。

一方、イランは、タンカーへの攻撃に関与していないと主張するとともに、イラン領空に侵入したアメリカの無人偵察機(ドローン)を対空ミサイルで撃墜しました。

これに対し、アメリカは、イランの軍事施設への報復爆撃を準備しましたが、実施直前にトランプ大統領が中止を決定、代わりにイランに対しサイバー攻撃を実施しました。もしアメリカが報復爆撃を実施していたら、米-イラン戦争が始まっていたかも知れません。
その後も、アメリカは1000名規模の兵士を中東へ派遣する準備を進め、ステルス戦闘機F-35、F-22を中東に配備しています。
ロシア外務省の高官は、もしアメリカがイランを攻撃した場合、イランが単独で戦うことはないだろうと述べ、米-イラン戦争の際、ロシアがイランを支援することをほのめかしています。[5]

ロシアはすでにイランに対し、S-300対空ミサイルを提供しており、米-イラン戦争が起こった場合、さらに妨害電波装置を供与するかも知れません。その場合、アメリカのハイテク兵器による攻撃力が大きく低下することが予想されます。
アメリカは、1999年以降、GPS誘導爆弾を実戦投入しています。GPS信号に誘導された爆弾は、高高度から投下されても、目標に対して、わずか5メートルの誤差で正確に着弾します。いわば、百発百中の命中精度を誇ります。しかしながら、ロシアの妨害電波装置が妨害電波を発信すると、GPS誘導爆弾は、GPS信号が受信出来なくなり、ただの自由落下の爆弾になってしまいます。
言い換えますと、妨害電波を受けると、アメリカの精密誘導爆弾は正確性を失い、第2次世界大戦当時のレベルに戻ってしまうわけです。第2次世界大戦中、アメリカはドイツに対して戦略爆撃を実施し、大量の爆弾を投下しましたが、戦後の調査の結果、ほとんど目標に命中していなかったことが明らかとなっています。
また、アメリカの巡航ミサイル・トマホークは、地上の地形をあらかじめ記憶し、飛行中、光学的に地上の地形と照合しながら、目標に着弾しますが、ロシアの妨害電波により、電子回路に損傷が生じ、墜落するのではないかと言われています。

GPS信号が受信出来ないと、アメリカの航空機、艦船、地上部隊も、現在位置や目標位置の確認が困難となります。
しかも、ロシアは、GPS信号を妨害するだけでなく、偽のGPS信号を送信する技術も持っています。その場合、アメリカの航空機、艦船、地上部隊は、誤った方向・位置へ誘導されることになります。航空機が着陸に失敗し、艦船同士が衝突し、地上部隊が待ち伏せの場所へ誘導されるなどの事態が発生する可能性があります。
さらに、ロシアの妨害電波装置は、低軌道を飛行するアメリカの軍事通信衛星の機能を妨害することも可能と言われています。アメリカの各航空機間、各艦船間、各地上部隊間、そして、司令部との通信が妨害され、組織的な軍事活動が困難になります。
アメリカが、イランを軍事的に圧倒することは不可能です。アメリカは、イランに対する軍事的圧力および経済制裁を停止し、核合意に戻るべきです。
ちなみに、ロシアだけでなく、中国も、妨害電波の研究・開発を進めています。すでに、南シナ海の島々に妨害電波装置を配備しているそうです。[ 6]
ロシアと中国は、共同で、電離層に電磁波を照射し、GPS信号などの電波を妨害する研究も行っています。[7 ]

北朝鮮も、ロシアから妨害電波装置を調達し、韓国との国境地帯に配備しています。[8]
これに対し、アメリカは、これまでミサイル防衛システムやステルス機など大手防衛企業の収益につながる分野を重視し、妨害電波の研究ではロシアに遅れをとっています。
日本にいたっては、妨害電波装置を搭載した航空機の2027年度の導入を目指し、ようやく検討が始まったばかりです。[9]
3. 台湾危機および南シナ海紛争と妨害電波戦
米-イラン戦争だけでなく、近い将来起こり得る、台湾危機や南シナ海での米中軍事紛争の際にも、妨害電波が大きな役割を果たすことになると思われます。
中国は、国産の妨害電波装置に加え、ロシアの妨害電波装置の供与を受けるかも知れません。その場合、アメリカ軍、台湾軍、自衛隊のGPS受信が妨害され、作戦行動に多大の支障が出ることになります。

一方、中国およびロシアは、それぞれ自前のGPS衛星を有しているため、GPSによる優位性を維持出来ることになります。一方的に、ハイテク兵器を活用出来ることになります。
近未来の戦争では、妨害電波による優位性を築いた側が圧倒的に有利な地位を占め、実際にミサイルや銃弾が飛び交う前に、勝敗が決することになるのかも知れません。妨害電波による優位性を築いた側が、まさに戦わずして勝つということになるのかも知れません。
参照資料:
(1) "As U.S. Forces Gather Near Iran (Think F-22s and F-35s), Russia Jams Their GPS", July 1st 2019, The National Interest
(2) "America Is Getting Outclassed by Russian Electronic Warfare", September 19th 2017, The National Interest
(3) "Russia claims to have weapon that could cripple the US Navy", April 20th 2017, The Independent
(4) "Russian military brass says only 40% of US missiles hit targeted Syrian base", April 7th 2017, TASS
(5) "Iran ‘Won’t Be Alone’ If U.S. Attacks, Russian Official Says", April 26th 2019, The Moscow Times
(6) "Beijing Reportedly Installs Communications Jamming Equipment In South China Sea", April 10th 2018, NPR
(7) "China, Russia reveal secret test to ‘heat’ atmosphere and jam signals such as GPS", December 18th 2018, news.com.au
(8) "North Korea 'jamming GPS signals' near South border", April 1st, 2016, BBC
(9) 「中露に対抗、電子戦『無力化』狙う攻撃機開発へ」、2019年1月13日、読売新聞
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。
1. ロシアの妨害電波装置の優秀性
報道によると、今年に入って、イスラエル上空を飛行する民間航空機にGPS信号の受信障害が発生しているそうです。
その原因として、シリアに配備されたロシアの妨害電波装置が疑われています。ロシアは、シリアにあるロシア軍基地に妨害電波装置を配備し、爆撃機やドローンによる攻撃を防ぐため、妨害電波を発信しています。それが、民間航空機にも影響を及ぼしたのではないかと考えられています。[1]
ロシアは、1990年代から妨害電波装置の開発に注力しており、現在、世界で最も優秀な妨害電波装置を配備していると考えられています。[2]

ロシアの妨害電波装置「Krasukha-4」
2014年、黒海を航行中のアメリカのイージス艦「ドナルド・クック」は、ロシアのスホイ24攻撃機から妨害電波を受け、全ての電子システムがダウンしたと言われています。[3]
2017年、地中海に展開したアメリカの駆逐艦からシリアに対し巡航ミサイルが発射された際も、発射された59発のうち23発しか目標に到達せず、約6割がロシアの妨害電波により墜落したと言われています。[4]
2. 米-イラン戦争とロシアによる妨害電波装置供与の可能性
現在、アメリカとイランの間で、イランの核開発、弾道ミサイル開発、武装グループ支援をめぐり、対立が深まり、軍事的衝突の危険性が高まっています。
アメリカは、弾道ミサイルや武装グループ支援も規制の対象とする新しい核合意をイランに受け入れさせるため、イランに対し軍事的圧力を加えています。アメリカは、空母打撃軍を中東へ派遣し、戦略爆撃機B-52を中東へ展開しました。
中東ではタンカーに対する攻撃が相次ぎ、アメリカはイランの攻撃によるものとし、イランを非難しています。

一方、イランは、タンカーへの攻撃に関与していないと主張するとともに、イラン領空に侵入したアメリカの無人偵察機(ドローン)を対空ミサイルで撃墜しました。

これに対し、アメリカは、イランの軍事施設への報復爆撃を準備しましたが、実施直前にトランプ大統領が中止を決定、代わりにイランに対しサイバー攻撃を実施しました。もしアメリカが報復爆撃を実施していたら、米-イラン戦争が始まっていたかも知れません。
その後も、アメリカは1000名規模の兵士を中東へ派遣する準備を進め、ステルス戦闘機F-35、F-22を中東に配備しています。
ロシア外務省の高官は、もしアメリカがイランを攻撃した場合、イランが単独で戦うことはないだろうと述べ、米-イラン戦争の際、ロシアがイランを支援することをほのめかしています。[5]

ロシアはすでにイランに対し、S-300対空ミサイルを提供しており、米-イラン戦争が起こった場合、さらに妨害電波装置を供与するかも知れません。その場合、アメリカのハイテク兵器による攻撃力が大きく低下することが予想されます。
アメリカは、1999年以降、GPS誘導爆弾を実戦投入しています。GPS信号に誘導された爆弾は、高高度から投下されても、目標に対して、わずか5メートルの誤差で正確に着弾します。いわば、百発百中の命中精度を誇ります。しかしながら、ロシアの妨害電波装置が妨害電波を発信すると、GPS誘導爆弾は、GPS信号が受信出来なくなり、ただの自由落下の爆弾になってしまいます。
言い換えますと、妨害電波を受けると、アメリカの精密誘導爆弾は正確性を失い、第2次世界大戦当時のレベルに戻ってしまうわけです。第2次世界大戦中、アメリカはドイツに対して戦略爆撃を実施し、大量の爆弾を投下しましたが、戦後の調査の結果、ほとんど目標に命中していなかったことが明らかとなっています。
また、アメリカの巡航ミサイル・トマホークは、地上の地形をあらかじめ記憶し、飛行中、光学的に地上の地形と照合しながら、目標に着弾しますが、ロシアの妨害電波により、電子回路に損傷が生じ、墜落するのではないかと言われています。

GPS信号が受信出来ないと、アメリカの航空機、艦船、地上部隊も、現在位置や目標位置の確認が困難となります。
しかも、ロシアは、GPS信号を妨害するだけでなく、偽のGPS信号を送信する技術も持っています。その場合、アメリカの航空機、艦船、地上部隊は、誤った方向・位置へ誘導されることになります。航空機が着陸に失敗し、艦船同士が衝突し、地上部隊が待ち伏せの場所へ誘導されるなどの事態が発生する可能性があります。
さらに、ロシアの妨害電波装置は、低軌道を飛行するアメリカの軍事通信衛星の機能を妨害することも可能と言われています。アメリカの各航空機間、各艦船間、各地上部隊間、そして、司令部との通信が妨害され、組織的な軍事活動が困難になります。
アメリカが、イランを軍事的に圧倒することは不可能です。アメリカは、イランに対する軍事的圧力および経済制裁を停止し、核合意に戻るべきです。
ちなみに、ロシアだけでなく、中国も、妨害電波の研究・開発を進めています。すでに、南シナ海の島々に妨害電波装置を配備しているそうです。[ 6]
ロシアと中国は、共同で、電離層に電磁波を照射し、GPS信号などの電波を妨害する研究も行っています。[7 ]

北朝鮮も、ロシアから妨害電波装置を調達し、韓国との国境地帯に配備しています。[8]
これに対し、アメリカは、これまでミサイル防衛システムやステルス機など大手防衛企業の収益につながる分野を重視し、妨害電波の研究ではロシアに遅れをとっています。
日本にいたっては、妨害電波装置を搭載した航空機の2027年度の導入を目指し、ようやく検討が始まったばかりです。[9]
3. 台湾危機および南シナ海紛争と妨害電波戦
米-イラン戦争だけでなく、近い将来起こり得る、台湾危機や南シナ海での米中軍事紛争の際にも、妨害電波が大きな役割を果たすことになると思われます。
中国は、国産の妨害電波装置に加え、ロシアの妨害電波装置の供与を受けるかも知れません。その場合、アメリカ軍、台湾軍、自衛隊のGPS受信が妨害され、作戦行動に多大の支障が出ることになります。

一方、中国およびロシアは、それぞれ自前のGPS衛星を有しているため、GPSによる優位性を維持出来ることになります。一方的に、ハイテク兵器を活用出来ることになります。
近未来の戦争では、妨害電波による優位性を築いた側が圧倒的に有利な地位を占め、実際にミサイルや銃弾が飛び交う前に、勝敗が決することになるのかも知れません。妨害電波による優位性を築いた側が、まさに戦わずして勝つということになるのかも知れません。
参照資料:
(1) "As U.S. Forces Gather Near Iran (Think F-22s and F-35s), Russia Jams Their GPS", July 1st 2019, The National Interest
(2) "America Is Getting Outclassed by Russian Electronic Warfare", September 19th 2017, The National Interest
(3) "Russia claims to have weapon that could cripple the US Navy", April 20th 2017, The Independent
(4) "Russian military brass says only 40% of US missiles hit targeted Syrian base", April 7th 2017, TASS
(5) "Iran ‘Won’t Be Alone’ If U.S. Attacks, Russian Official Says", April 26th 2019, The Moscow Times
(6) "Beijing Reportedly Installs Communications Jamming Equipment In South China Sea", April 10th 2018, NPR
(7) "China, Russia reveal secret test to ‘heat’ atmosphere and jam signals such as GPS", December 18th 2018, news.com.au
(8) "North Korea 'jamming GPS signals' near South border", April 1st, 2016, BBC
(9) 「中露に対抗、電子戦『無力化』狙う攻撃機開発へ」、2019年1月13日、読売新聞
註記: 上記の見解は、私個人のものであり、いかなる団体あるいは政党の見解をも反映するものではありません。
私自身は、いずれの政党・政治団体にも所属していません。あくまでも一人の市民として、個人として発言しています。民主主義と平和を実現するために発言しています。