【安倍政権の進めるファシズム体制・戦時体制の背景には、アメリカのオフショア・バランシング戦略があること、および、日米安保条約体制に代わる、中国・アメリカ・アジア諸国による集団安全保障体制確立の必要性について】

1. アメリカの国家安全保障戦略の変質

アメリカが唯一のスーパーパワーであった時代は終わりつつあります。2020年に、中国は、GDPでアメリカを追い越すと予想されています。それにともない、中国は、急速に軍事力の拡大を進めています。ロシアも、極超音速滑空ミサイル(HGV)の開発や超音速巡航ミサイルの配備を行い、軍事力の高性能化を進めています。

このような状況の下、アメリカの国家安全保障戦略は、大きく変わりつつあります。

通常兵力の優位性が低下しつつあるアメリカは、先月、「核態勢の見直し(NPR)」において、小型の戦術核の開発を行うことを発表しました。[1]

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戦術核は、中国やロシアに対抗するため、東アジアやヨーロッパなどに配備されるものと予想されます。抑止力の役割を担う戦略核と異なり、戦術核は実際に使用される可能性が非常に高くなります。

また、今月、トランプ大統領は、ティラーソン国務長官を解任し、後任の国務長官に、タカ派で前CIA長官のマイク・ポンペオ氏を任命しました。そして、新しいCIA長官に、CIAで30年以上の勤務歴を持ち、秘密工作を専門とするジーナ・ハスペル女史を任命しました。[2][3]

今後、アメリカは、冷戦時代のように、CIAや軍情報機関による秘密工作や謀略を通じ、外国政府の揺さぶりや転覆を試みるようになるのかも知れません。


2. アメリカのオフショア・バランシング戦略と安倍政権の進めるファシズム体制・戦時体制

さらに、アメリカは、アメリカ自らが中国やロシアと戦うのでなく、地域の同盟国を中国やロシアと戦わせ、自らは後方から指令を出す、いわゆるオフショア・バランシング戦略を進めています。[4]

これを受け、現在、日本では、安倍政権が、あらゆる民主主義のルールを無視して、ファシズム体制と戦時体制の構築に邁進しています。

安倍政権は、特定秘密保護法、共謀罪法を成立させ、公務員および国民に対する監視体制を築きました。違憲の安保法制を成立させ、法形式上、限定的集団的自衛権に基づく海外における武力行使を可能にしました。

さらに、報道によると、自民党憲法改正推進本部は、改憲案について、戦争放棄を定めた9条1項、戦力不保持を定めた9条2項を維持した上で、「必要な自衛の措置」のための組織として、自衛隊の存在を明記する方針を固めたそうです。[5]

たとえ戦争放棄および戦力不保持の文言が残されたとしても、自衛隊が憲法に明記されれば、「後法は前法に優先する」の原則に基づき、「必要な自衛の措置」のための組織として、自衛隊が合憲とされ、戦争放棄および戦力不保持の文言は空文化することになります。

その結果、「必要な自衛の措置」すなわち全面的集団的自衛権に基づき、自衛隊による海外での武力行使や事実上の攻撃的兵器の配備が、加速度的に推進されることになるでしょう。

オフショア・バランシング戦略に沿って、自衛隊が中国の制海権や制空権を阻止するために動員され、北朝鮮や中国を攻撃出来る中距離弾道ミサイルが日本に配備されるようになるでしょう。戦術核も、日本に配備されるようになるかも知れません。

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3. 日米安保条約体制に代わる、新しい、あるべき安全保障体制に関する国民的議論の必要性

現在、安倍政権下では、公文書の改ざんが行われ、政府が国会・国民に嘘をつき、また、事案に関わった公務員の自殺が続いています。まさに、無法、非人間的状況が常態化しています。一刻も早く安倍内閣を総辞職に追い込むべきです。

しかしながら、たとえ安倍政権を取り除いても、問題の根本は解決しません。アメリカのオフショア・バランシング戦略は維持され、新しい政権が日本のファシズム体制・戦時体制の推進を続けるからです。

日本では、与党はもちろん、野党の立憲民主党でさえ、日米安保条約体制の堅持をうたっています。共産党は、日米安保条約に反対ですが、それに代わる具体的な安全保障体制の提示が出来ていません。

日本国民は、日米安保条約体制に代わる新しい安全保障体制を構想すべきです。現実のパワーバランスに基づき、ロシア、中国の役割を認めるべきです。

具体的には、ヨーロッパにおいては、ロシアおよびアメリカとヨーロッパ諸国が構成する集団安全保障体制により地域の平和と安定を維持していくべきです。

アジアにおいては、中国およびアメリカとアジア諸国が構成する集団安全保障体制により地域の平和と安定を維持していくべきです。

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集団安全保障の具体例としては、国際連合やOSCE、ASEAN地域フォーラムなどをあげることが出来ます。集団安全保障においては、「加盟国の中に」地域の安全を脅かす国が現れた場合、他の加盟国が協力して、その対処にあたることになります。

そのような集団安全保障の仕組みがアジアにおいて構築された場合、集団安全保障機構の総会あるいは理事会における決議に基づき、たとえば、域内のテロ組織や海賊を撲滅するために、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して対処することになります。

また、域内で地震や津波などの災害が発生した場合、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力して災害救助活動を行うことになります。

さらに、域内に、核保有を進めようという独裁国が現れた場合、その抑制のため、中国の人民解放軍、日本の自衛隊、アメリカ軍が協力することになります。

日米安保条約体制を維持する限り、近い将来、日本は必ず北朝鮮あるいは中国との武力衝突に至るでしょう。そして、それは核戦争になるでしょう。その結果、日本本土が再び焦土と化し、あるいは琉球列島を失うことになるでしょう。

アジアの平和を維持するため、新しい、あるべき安全保障体制に関し、広範な国民的議論を開始すべきです。男性・女性、全ての年齢層の国民が参加し、新しい、あるべき安全保障体制について議論を開始すべきです。

アジアにおいて、中国およびアメリカとアジア諸国が構成する集団安全保障体制の構築を目指すということであれば、立憲民主党、自由党、社民党、共産党の間で共通の安全保障政策を共有出来るかも知れません。その場合、選挙協力だけでなく、政権交代後の安全保障政策も共有することが可能となります。


参照資料:
(1) "Nuclear Posture Review: US wants smaller nukes to counter Russia", BBC News, February 2nd 2018

(2) "Mike Pompeo, a Hawk Who Pleased the President, Moves From Spying to Diplomacy", The New York Times, March 13th 2018

(3) "Gina Haspel, nominated by Trump as first woman to lead CIA, has controversial past", USA Today, March 13th 2018

(4) "The Case for Offshore Balancing - A Superior U.S. Grand Strategy" by John J. Mearsheimer and Stephen M. Walt, Foreign Affairs, July/August 2016 Issue

(5) 「9条改憲案 自民『必要最小限度』削除 細田氏に一任」、毎日新聞、2018年3月22日