前回は予定していたテーマを変え、森美智代さんのGW断食健康合宿でお話したことを書きました。よって今回は前回書くつもりであった表記のテーマを書くことにします。
復習ですが、「フロー」はハンガリー出身の米国の心理学者チンクセントミハイが提唱した概念です。
端的に言えば、人間が「あること」に集中、没入している時にセレンディピティー(ラッキーな偶然)やシンクロニシティー(共時性)が連続して起こることを意味します。
もし、まだご覧になっていない方がいらっしゃれば、以下二つのブログ記事も参照ください。
上の前々回のブログの最後に「この続きは尊敬するお二人の名経営者、稲盛和夫さんとリカルド・セムラ―さんのことを書きます」と書きましたが、このお二人はフローを引き起こす秘訣、「コツ」をよくご存じで、これを経営に活かされました。
そこで、今日はお二人の言葉と行動からその「コツ」を考えてみたいと思います。
先ず稲盛和夫さんです。ご承知のように稲盛さんは京セラの創業者、KDDI(au)の創業にも深く関与され、同社の現在の社長は京セラ出身の高橋さんです。さらに稲盛さんの名声を高めたのは、2010年に経営破綻したJAL(日本航空)の再建でした。
稲盛さんはこのブログの主役のお一人、中村天風師のお弟子で、京セラの創業やJALの再建において中村天風師が示された以下の言葉を経営理念として掲げられました。
「新しき計画の成就は ただ不撓不屈の一心にあり さらば ひたむきに ただ想え 気高く 強く 一筋に」
下は稲盛さんが亡くなられた一昨年の9月に「夕刊フジ」に掲載された追悼記事です。
夢見る夢夫
ここに稲盛さんが過去インタビューを受けられた際の言葉が掲載されています。
以下、この記事から稲盛さんの言葉の抜粋です。
「私は自分を『夢見る夢夫』と呼んでいます。途方もない夢を抱くくせがあるからです。際限のない夢を次から次へと抱いて、想像の中で事業を展開していくのです。頭の中で猛烈に描き続けるのです。 一年も二年も夢のシミュレーションを続けるのです。 すると、遊んでいるときでも、願望が頭の中に入っています。たとえば、町を歩いているときでも、自分の考えていることに関連するものが強烈な印象で飛び込んできます。あるいは、宴席の場でも夢の実現に欠かせない、自分が欲しいという人材が目にとまることがあります。もし、強い願望がなければこれらはただ通り過ぎていったものかもしれません。目的意識のない、うつろな目には、どんなすばらしいチャンスも見えることはありません。」
ここにあることは、誰もが経験しているのでないかと思います。私もしょっちゅう経験しています。
思いもしないような偶然で会うべき人に会い、知るべき情報に出会う、ということは良くあることですが、こういった「偶然」が連続するのが「フロー」です。
そして稲盛さんは、これを引き起こす秘訣、「コツ」が先の天風師の言葉「ひたむきに ただ想え 気高く 強く 一筋に」 、夕刊フジにある言葉「際限のない夢を次から次へと抱いて、想像の中で事業を展開し、頭の中で猛烈に描き続ける」にあるとおっしゃっています。
冒頭、「フロー」に入る条件が「あること」への集中、没入にある、と書きましたが、上の二つの言葉は「計画」「夢」「願望」に想念を集中させ、そこに意識を没入させることを意味しているのは言うまでもありません。
これがフローを起こす秘訣①です。即ち「計画」「夢」「願望」を心から離さず、それを強く念じ続けるということです。これは私がお世話になったオートバックスの創業者、住野敏郎さんの成功体験と全く同じ原理に基づいたものですので、私にはよく分かります。ちなみに住野さんについても興味のある方は以下をご覧ください。
私は若いころ、住野さんの側近くで仕えました。住野さんは上の稲盛さんの言葉にある「際限のない夢を頭の中で猛烈に描き続ける」ことが出来た方でした。そのための技術を知りそれを上手に活用されました。それが上のブログ記事にあるSMIです。
ここでちょっと告白ですが、そのような立派な経営者に仕えたのに、私はそのような「夢」が持てませんでした。
もちろん人並みの幸せ、おカネ、地位、名誉などを求める気持ちはありましたが、そういったことを「頭の中で猛烈に描き続ける」ことは出来ませんでした。
欲求五段階説
その理由は「意志薄弱」とも言えますが、そういうことに全くプライオリティーを感じなかったせいだと思います。
下は、私が研修で使っているアメリカの心理学者、マズローの唱えた「欲求五段階説」の概念図です。
ここにあるようにおカネ、地位、名誉などは良くても承認欲求レベルの「願望」でしかありません。
「自分探し」という言葉がありますが、「自分が何者か」を知る人は多くありません。また、おカネ、地位、名誉を追いかけることはこの本当の自分探しの障害にすらなると私は思っています。それらはたいてい「エゴ」の類で本当の自分を覆い隠しているものだからです。稲盛さんも住野さんもそんな小さなことを求めたのではありませんでした。
マズローの言う高次の欲求「自己実現」とは上のスライドの説明にあるように「自分が生まれてきた目的を知り、これを果たす」ことだ、と私は考えていますが、この参考になるのが、今日紹介したいもう一人の名経営者、リカルド・セムラーさんです。
そしてセムラーさんの経営法が「フローを起こす秘訣②」を考えるヒントになります。
「自己実現」を推進力に
セムラーさんはブラジルの企業、セムコの二代目経営者で史上最も革新的、革命的な経営を行い、大成功を収めた方です。
セムラ―さんと稲盛さんの経営法は根っこではつながっていますが、そのスタイルは全く異質、正反対の感もあります。そして私はセムラ―スタイルに強い共感を持ってきました。
セムラ―さんは稲盛さんが言うような「強烈な夢や願望を持て」とは言いません。むしろそういった「力み」を否定します。
セムラ―さんの書いた「奇跡の経営」(後述)には「ありのままの自分達とその行動に基づいて、組織やビジネスを前進させるのがセムコ流の経営だ」とあります。
ここにある「ありのままの自分たちとその行動」とは「自己実現」を指していることが判るでしょうか。セムラ―さんは従業員、さらに顧客や取引先も巻き込んだ「自己実現の仕組み」を経営に取り入れた真に革新的な経営者です。
セムラーさんの経営思想は、その「自己実現」への道を歩みだしさえすれば、あとは「行き当たりばったりで良い」というものです。言い換えれば、セムラ―さんの経営者としての責務、経営努力は「ありのままでいること」にあり、それ以外は余計なこととして排除することなのです。
「ありのままの自分でいること」は実は難しいことです。それを妨げる様々な障害が現実には存在します。これを企業から排除するのがセムラ―さんの役割です。よってセムラ―さんは経営実務は部下に丸投げし、「ありのままでありつづける」ための経営基盤の維持と強化に日夜取り組んできました。そして、これこそが真の経営者の仕事だ、と私は思います。
セムラ―さんの取り組みは個人の人生にも有効です。
それは「フロー」をもたらす生き方にも通じますが、それを学べるセムラーさんの著作は先の一冊を含めて、日本では二冊しか発刊されていません。
そこで今日はその二冊からセムラーさん言葉とセムコの経営を紹介しようと思います。
下はセムラーさんの自伝にあたる「セムラーイズム」です。
たまたま、この本の内容を紹介した「世界で最も重要な経営書」という書籍が手元にありますので、そこから該当部を以下に抜粋します。
異色の経営者による異色のマネジメント書
『セムラーイズム』は壮大なブラジル版サクセスストーリーだ。
その成功を支えた思想は実に革命的だ。たとえば、労働者が上司を雇ったりクビにしたり、また自分の給料を決めたりもする。こんなことを実践した大胆な人物がいたことに驚かされる。
しかも本書は、その思想を抱き、革命を成し遂げ、その結果を受け入れた本人によって書かれている。言い換えれば、本書は革命家によって書かれた革命の書であり、同時に、現役のマネージャーによって書かれた経営書という稀有な本である。
セムラーは、父親が経営する家業のエンジニアリング会社(後にセムコと改名)を1980年に継いだ。同社は、営業成績も経営も平凡な会社だった。
セムラーはただちに、劇的かつ革命的なやり方で事業の再構築に着手した。たった1日のうちに経営陣の6割を解雇した。父親の経営スタイルは堅苦しく、古風で、独裁的だったが、セムラーは形式張らない、新奇で、民主的なスタイルを採用した。そして、一般的な階層組織をひっくり返した。
『セムラーイズム』は、彼がしたこととその理由を、彼自身が記したものだ。
職場の民主主義
セムラーは言う。 最近の新しい世界秩序においては、ほとんど誰もが、少なくとも公共部門では、人の上に立つ者を投票で選ぶ権利があると信じている。しかし、民主主義はまだ職場には浸透していない。世界中のオフィスや工場で、独裁者や暴君が大手を振っている。
セムラーの「革命」は、とびきり徹底した方法で民主主義を職場に導入したことにある。彼が特に思いを強くしたのは、1990年代の初めにブラジル経済が深刻な不景気に陥り、同社も困難な状況に追い込まれた時のことだ。従業員が会社倒産を防ぐために、実のある、非常に頼もしい働きをしたのだ。
もしも従業員が、危機的状況において、会社の問題に対して想像力豊かな解決策を進んで探し求めてくれるのならば、平常時にもその独創力を活用できないということがあるだろうか。そう彼は自問したのだった。
民主的な組織
セムラーは、革命の基礎を次の3つの価値に置いた。
●従業員の参加
●利益分配
●開かれた情報システム
セムコには、今やたった4階級のスタッフしかいない。チーフエグゼクティブの仕事は、1期6ヵ月の任期で、6人のシニア・マネジャーが受け持つ。マネージャーは自身の給料とボーナスを自分で決め、部下の査定を受ける。従業員は自律的なチームとして組織されていて、自分たちで就業時間を決め、ノルマを設定し、製品や工程を改善する。
また、希望すればチームをセムコ本体から切り離された「サテライト組織」に変えて 利益の分配と引き替えにセムコの経営資源を活用することもできる。
個人への依存を減らす
同社の組織は、個人、特にセムラー本人に依存しすぎないような構成を取っている。彼が長期旅行から帰ったら、自分のオフィスが移され、小さくなっていたということが2度あったが、彼はそれを誇りにしている。リーダーが意思決定しないことが成功につながる。リーダーの役割とは、他者が意思決定する環境を整える、いわば触媒のようなものだ。
「セムラーイズム」は、意外なヒットを飛ばしたビジネス書のうちの1つだ。
本書が出版される前は、マネジメントの教訓をブラジル企業から学べるなどという考えは、欧米では一笑に付された。 今やこの本は100万部を売り上げ、セムラーの革命的な考え方と独特な経営手法は、世界中のマネージャーが学習し、考察し、同じ成功にあやかるべく奮闘するところとなっている。セムラーのメッセージはメディアの関心を大いに引いたものの、勇敢にもセムコの後を追う者がほとんど現れていないのは、驚くには当たらないだろう。
BTR社の元会長オーウェン・グリーン卿は、軽度的反応を見せる派ビジネスリーダーの代表だ。「セムラーは独立独行の人などではない。ただの変人だ」というのが彼の言い分である。チャールズ・ハンディはもっと前向きだ。「セムラーの会社経営法は信じられない。だが、実際うまくいく。 誰にとっても見事なまでに」
成功したエグゼクティブが書いた本は世に多いが、その中にあって、「セムラーイズム」は異色の存在だ。そこには月並みな企業ヒロイズムは見られず、経営は他者を管理することではなくて権限を与えることだという考えがある。
ゲイリー・ハメル(コアコンピタンス著者)は次のように論評した。
「現役のマネージャーが書いた偉大な経営書で、これだけのボリュームを持つものはほとんどない。なぜか。それはおそらく、マネージャーには自分自身の経験を一般化するだけの時間や大局観がないためだ。リー・アイアコッカ、ハロルド・ジェニーンをはじめとするスター経営者たちの本は、特異な体験を面白い読み物にまとめたものがほとんど。セムラーが信奉する経営法は一般には当てはまらないかもしれないが、彼を特殊なアプローチに駆り立てた一連の信念ははっきりと提示されており、その真価は議論に値する」 (抜粋おわり)
どうでしょう。超ユニークな経営でしょう。経営陣と従業員の関係を常識と逆にした「逆三角形」の組織図を標榜する会社は少なくありません。例えばスターバックスはこれを組織図にしています。しかしセムコほど徹底的に文字通りの民主主義経営を行った会社はありませんでした。
民主主義が機能しない理由「情報統制」
余談ですが、今の世界情勢をみれば、一番正しい政治体制のはずの民主主義が機能していないのは明瞭でしょう。そして民主主義が機能しない理由は政府やマスメディアによる巧妙な情報操作にあります。
今日はこれがテーマでないので、詳しくは触れませんが、中国などの独裁国家の情報統制と変わりないことが「支配」のためにより巧妙に行われているのが欧米、日本など民主主義国家です。要は「情報隠し」が、民主主義が機能しない主たる理由なのですが、セムコでは企業に関わる情報はすべて完全オープンになっています。
上のセムラーイズムの紹介文にも「開かれた情報システム」とありましたが、これは「徹底した情報開示」と呼ぶべきものです。
紹介文には「給与は自分で決める」とありましたが、その給与はすべて開示されています。
また上にあった「従業員の参加」も徹底しています。ひとつ例を上げれば、誰でも役員会(取締役会)に参加でき、しかも賛否に関わる一票の権利を与えられています。
例えば、自分の給与を法外な額に引き上げた社員がいるとします。それは当然開示されます。
彼の働きぶり、実績から「あまりに法外である」と思った社員がいたら、彼は役員会に提起します。職場でも議論が起こるでしょう。これが「万機公論に決すべし」という本当の民主主義の姿です。
情報が開示されず想像、推察の類ばかりが横行する「居酒屋でのグチ、噂話」でなく、様々な問題を堂々と公開で議論したら会社は、社員の意識はどうなるでしょう。
こういう会社では社員は「自分の会社である」「我々の会社である」と考えるようになります。自分のことだけでなく、それ以上に全体のことを考え、むしろこれを優先するようになるのは当たり前です。
セムコの大成功は社員が「自分の会社」と心から思える経営システムを創り上げることによってもたらされたと私は思います。要は「自分より他者(全体)を優先するという『人間の善性』を引き出せる仕組み」が成功の基盤になっているということです。
行き当たりばったり経営
ちょっと長くなりましたが、このセムコの経営システムを創り上げたリカルド・セムラーさんのもう一つの著書、先の「奇跡の経営」(以下)からもセムラーさんの言葉を紹介します。
ここには先に書いた「行き当たりばったり」経営法が書かれていますが、私がこのブログでセムラ―さんを紹介したくなったのはこの本に文字通り「セレンディピティー」という一項が設けられているからです。
少々長くなりますが、この項と関連する文章を以下に抜粋します。
わたしの経営のやり方は、フリスビーのようなもので、どこに着地するのかまったくわかりません。たとえ事前にアポを決めていたものであっても、その日またはその週の中で先延ばしできたりキャンセルできるものは削除することがあります。
また、会社のミーティングについても、信頼できるスタッフの参加がわかっていて、自分の参加が重要な意味を持たないと判断したときはスキップします。しかし、社外の人との約束をキャンセルすることはありません。なぜなら、そうした約束自体がほとんど稀だからです。
毎日エクササイズをしながら、午前八時までにEメールを片付け、その日一日のTo Do (その日やるべき) リストを作成します。こうして一日の準備を整えたうえで、わたしのリーダーとしての一日がはじまります。
わたしは、他の誰かができる仕事はやらないようにしています。セムコ社のスタッフがそうしているように、わたしも彼らを信頼しています。それに、わたしは人にあれこれ説明したり、指示することが大の苦手なのです。
経営者としてのわたしの役割は、会社におけるすべてのことを一から見直すように促すことだと考えています。それこそが、わたしが会社に与える最も価値ある貢献なのです。
本書の冒頭で言ったように、わたしはカタリスト(触媒:変化を促すもの)です。カタリストは、正確な勤務時間を守る必要はありません。
誤解してもらっては困るので、ここではっきりと言っておきます。わたしは、ハードワーカーです。一日24時間、ほとんどセムコ社の問題についてあれこれ思考をめぐらしています。
わたしがオフィスの椅子に腰かけている時間は、せいぜい4~5時間ですが・・・・・。残りの時間は、息子を学校まで迎えに行ったり、池のアヒルにエサを与えたり、のんびりしたランチタイムを過ごしています。
一週間のうち、一度か二度は、息子の傍らでうたた寝をすることもあります。息子は、父やわたしにとてもよく似ていて、わたしに抱っこされながらアニメのビデオを見たりしています。
しかし、わたしの頭の中は、決して止まることのないソフトウェアのように常に動いています。息子の見ているアニメの主人公が使っている工作機械から新製品のアイデアが湧き、思わずメモに書き留めることもあります。
こうしたわたしの行動は、従来考えられているリーダーシップ論とはほど遠いことのように思うかもしれませんが、そんなことはありません。
まず、成功に導くリーダーシップとは、独裁制とは異なることを認識していただきたい。
リーダーシップとは、組織の考えに同意しているにもかかわらず、それを実行に移せない個人に対して、基本的な考え方を注入し、それを行動に移すためのプロセスを提供することなのです。
リーダーとして、個人の人間性を重視し、ビジネスプロセスを安定させながら、タイミングよく新しいアイデアが生まれるようにし、それが実を結ぶように取り計らうのです。独裁者は、現れてはすぐ消えていきます。そして、独裁者がいなくなれば、独裁体制もなくなります。真のリーダーならば、そのリーダーが会社を離れた後でも、その組織は、継続して活気にあふれうまくいくものです。
わが社におけるリーダーシップとその経営手法は、Seen from Below (下からの評価)と呼ぶプログラムによって評価するようにしています。六ヶ月ごとに、スタッフに対して、上司が他のマネージャーに接するのと同じ態度で、スタッフに対して接しているか調査する無記名のアンケートを実施するのです。
全部で36項目の質問があり、1から100の点数をつけて答えます。アンケートの質問事「毎回変えずに同じ質問をするようにしています。こうすることで、回答を比較できるようにしています。たとえば、毎回の評価がほぼ70点であるなら、問題ありません。しかし、これまで90点だった人が、今回70点になったとすれば何らかの問題が生じていることがわかります。過去6年間、毎年平均スコアが2、3ポイント上がっているところを見ると、このアンケートが役立っているのでしょう。
ただし、アンケートの結果によって、われわれがマネージャーに何らかの改善を義務付けることはしません。アンケートによって部下が不満を持っていることを知れば、自ら最善を尽くして対処すると確信しているからです。もし、彼らが態度を改めず、部下の不満が悪化するようであれば、彼ら自身が職を失うリスクを負うことになるのです。
わたしが一般向けのセミナーで講演をすると、参加者から、社員はたとえ能力がなくとも、彼らにやさしく接してくれる上司を選び、たとえ能力が劣っていても道徳的な判断のできる上司を好むものだという意見を聞いたりします。
しかし、セムコ社においてそのような事実はありません。セムコ社の社員は、自分達の生活の向上は、会社がうまくいくことで成り立つものだと心得ており、人当たりがよくても無能な上司についていこうとは考えていないのです。
セレンディピティー
本書を執筆中、わたしはシチリア島の修道院を訪れました。そして、その夜、渡り鳥の方角を知る能力についての本や人のモチベーションをつかさどる脳波のパターン、それから古代ギリシャの教育論に関する本を読みました。ただ、こうした本を必ずしも最初から最後まできっちりと読むことはありません。わたしにとって、読書とは、自分の好奇心に駆られた場合と、世の中を異なる視点でみるためのものです。
それは、人生という演劇を観ている途中で、座席を移動するのに似ています。ときにステージに最も近い最前列の席から、その詳細を観ることもあれば、ステージから最も離れた席に座って、自分が一体何をしているのか見つめなおしてみるのです。
自宅では、庭や暖炉の前で本を読んだり、インターネットをブラウジングしたり、ただ気のおもむくままに調べものをしています。そうする中で、思いがけず有益な情報に出会うことがあります。わたしにとってセレンディピティー (偶然の賜物)こそが、ブラウジングするときのガイドといっていいでしょう。
毎日のように、自分の興味はころころ変わります。ある午後に、惑星について勉強していたかと思うと、急にルネッサンス時代のイタリアについて興味を持ったり、そうかと思うと、今度は分子理論に興味を持ったりします。そういう具合なので、本来の目的から脱線することはたびたびです。
ふしぎな国のアリスの中で、こんなシーンがあるのをご存知でしょうか? アリスが「わたしはどっちの方角へ行けばいいの?」とチェシャ猫に尋ねます。チェシャ猫の返答は、「それは、君がどこへ行きたいかによるよ」。そこで、もう一度、「どこかへ行けるなら、どこでもいいわ」とアリスが言うと、チェシャ猫が「それだったら、どの道だって同じさ」と答えるのです。
わたしの人生は、さながら、行き着くところが、行きたいところといったところでしょうか。
そんな大げさな、と思うかもしれません。しかし、わたしの場合、本当に言葉通りなのです。実際に、事前に何も決めずに空港に行ってから行き先を決めたことが、過去に二度あります。
行く先を決めていない旅は、どこであっても興味の対象になるからおもしろいものです。
人生と同じくビジネスにおいても、その道程は、気ままで思いがけない出来事の連続です。なので、自然の成り行きにまかせることが一番よいと思います。(抜粋おわり)
どうでしょう。セムラー流「行き当たりばったり経営」が理解できたでしょうか。
前回のブログで、愛知県の福津農園の松澤政満さんの自然農法を紹介しました。
ご覧になっていない方は短い動画なので以下をご覧いただきたいと思います。
セムラ―さんの「自然の成り行きに任せることが一番良い」という言葉の深い意味を考えることが出来るからです。
以上、セムラ―さんの経営をごく簡単に紹介しましたが、特に「奇跡の経営」にはこれ以外にも「フロー」に入るための重要な秘訣「コツ」が書かれています。その一つは「常に直観に従え」ですが、これを書きだすと長くなるので、また機会があれば書くことにします。
結論!
さて、今日の結論です。
フローに入る「コツ」は2つあります。
一つは稲盛さん流で、「『計画』『夢』『願望』を頭の中で猛烈に描き続けること」です。これが出来る人はこれに取り組んでください。
もう一つはセムラー流で、「行き当たりばったり」をモットーに「夢」でなく、目の前の現実に集中することです。ただし、その場合には条件があります。「自分と同じように」、また「自分以上に」他者や全体のことを考えるということです。
具体的に言えば、小さくは家族、隣近所、会社にあっては同僚、部署、会社全体、さらに大きくは社会、国家、世界にとって善い事を自分のことと同様に、またより優先して考え、行動に移すということです。
これが二人の名経営者から学ぶ「フロー」を引き起こす「コツ」です。
共感を持たれた方は、今日、只今からこれに取り組んでください。
さらに今日一番言いたいことです。
私のブログのテーマである「世界人類が平和でありますように」という祈り言は、世界全体の平和と人類の幸せを祈る「祈り言葉」ですから、これを日常の習慣にし、次々に現れてくる目先の事象に集中し「一生懸命」取り組めば「フロー」を引き起こすことが出来ます。これはどちらかと言えばセムラー流の高度応用編と言えそうです。
今日の記事が皆さんの「自己実現」のお役に立てば幸いです。
世界人類が平和でありますように
追記:日本にもセムコとよく似た経営で成功している企業があります。以下はそれを行っている3社とその経営を紹介する書籍です。経営者の方、このような経営に興味があり、勉強されたい方はこれらの書籍も一読を薦めます。
①メガネ21
②未来工業
③ネッツトヨタ南国