「フロー」 シンクロンシティとセレンディピティが連続する | Yokoi Hideaki

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前回の最後に「この続きはハンガリー出身の心理学者、ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)が提唱した「フロー」について書いてみたいと思います。」と書きました。

 

今日はその「フロー」がテーマで、「フロー」とは流れのことです。

下は心理学者とジャーナリストの共著として1999年に発刊された「フロー」について解説、ノウハウ本である「パワー・オブ・フロー」です。

 

 

 

この書籍の訳者の方の「はしがき」にフローとは何かのわかりやすい説明がありますので、その部分を抜粋します。

 

もし「幸運」や「つき」というものが単なる偶然ではなく、こちらの心の持ち方ひとつで引き寄せられるものだとしたら……。

本書は、誰しもが興味をいだくそのような疑問にまっこうから答え、幸運な流れに乗って生きるための方法を指し示す刺激的な実践書だ。

 

よく野球中継で、「今、流れは○○チームに傾いていますね」などと解説者が言っているのを聞いたことがあるだろう。フローとはその流れのこと。〈流れ〉に乗っているチームには、よく幸運が微笑む。

 

平凡な内野ゴロがたまたまイレギュラーしてヒットになる、外野にふらふらとあがった球が野手の中間に落ちる、白球がライトの明かりにのみこまれて見えなくなる、といった偶然がおこるのだ。

 

〈流れ〉に乗って、それまでまったく打てなかった打者が急に打ち出すこともある。そんなとき、打者は自分を超えた不思議な力に後押しされているような気分になる。

 

一度、スポーツキャスターの小谷実可子さんと仕事で一緒になったとき、おもしろい話を聞かせてもらった。

オリンピックなどの大舞台で優勝する選手というのは、競技にはいる前に、自分を超えた力に導かれているように感じ、自分が優勝することがわかる、というのだ。

 

背泳ぎで金メダルをとった鈴木大地選手は実際に目に見えない太い糸でゴールのほうにグイグイ引っ張られる自分を感じたという。

 

14歳という若さで金メダルを獲得した岩崎恭子選手も、その日、完全に無心で、神秘的な力に包まれているのがはたから見ていてもわかった、と小谷さんは語っている。

 

本書が「フロー」と呼ぶそのような力はスポーツ選手にだけ働いているわけではない。

それはさまざまなヒット現象から宇宙の運行にまでかかわる普遍的な力であり、すべての人の人生に働いているのだ。ただ、わたしたちがそれに気づけないだけなのだ。

 

では、どうすればそのような力に気づき、自分の人生に役立てることができるのだろう? その疑問にずばり答えてくれるのが本書なのである。(抜粋おわり)

 

さらに本文にはこのような記述があります。(以下抜粋)

 

シンクロニシティとセレンディピティ

フローをきわだたせる出来事は二種類ある。シンクロニシティと幸運な出来事だ。

人生においてフロー体験が増すと、これらの出来事も増える。シンクロニシティはカール・ユングによって命名された。

 

ユングはシンクロニシティが患者におよぼす影響を見て、「原因と結果によっては説明できない意味のある偶然の一致」とそれを定義した。

 

シンクロニシティとは、人間の意識と外界との間にダイナミックな相互作用が働いていることを証明する「因果律を超えたつながりの原理」であると彼は信じた。

 

ユングが述べているように、シンクロニシティはしばしば心の内側と外側の出来事をつなぎ合わせる形態をとる。しかも、そのことがわたしたちに感情的な衝撃をもたらしたり、心理的影響をもたらしたりするのだ。

 

シンクロニシティを体験すると、わたしたちは自分が大きな全体の一部であるという感覚を抱く。

 

ユングの言うシンクロニシティは、偶然の出来事だけに限定されるものではない。なんらかの出来事の前触れになる夢や、同時にほかの場所でおこっている出来事ついての知るはずのない情報を知らせてくれる夢をもふくんでいる。

 

偶然を特徴とするその性質上、わたしたちは自らの手でシンクロニシティを引き起こすことはできない。

 

だが、シンクロニシティはわたしたちの欲求に反応する。シンクロニシティが驚きをもたらすのは、わたしたちの欲しているものを宇宙があたえてくれる手筈を整えてくれるように思えるからだ。

(抜粋おわり)

 

この一文もフローとは何かをよく説明してくれていますが、冒頭にあるフローをきわだたせる二つのこと、シンクロニシティと『幸運な出来ごと』の「幸運な出来事」が「セレンディピティ」です。

 

よって前回のブログのタイトルを「セレンディピティ(幸運な偶然)とシンクロニシティ―」とし、その続編として「フロー」を取り上げた理由もお判りいただけると思います。

 

セレンディピティ、シンクロニシティはフローがもたらすもので、それらが連続して起こる状態をフロー(状態)と呼ぶのです。

 

Sonyの燃える集団現象

私たちの回りで頻繁に起こっているこの現象に初めて科学的なメスを入れたのが、先の心理学者、チンクセントミハイです。そのチンクセントミハイと「フロー」を本格的に日本に紹介したのがSonyの元常務、土井利忠さんです。

 

土井さんは天外伺朗のペンネームでビジネス分野の著作が沢山あり、私も船井幸雄先生を通じてその存在を知り、お目にかかったことがあります。

 

土井さんは代表的著作の一つ「運命の法則」の中でご自身のフロー体験を語っていらっしゃいますが、力点を置かれているのは「組織的なフロー現象」で、それはNHKのプロジェクトXでも取り上げられました。土井さんはそれを「燃える集団」(現象)と呼ばれています。

 

 

 

その例として、土井さんはご自身がリーダーとして関わったAIBO(ロボット犬)の開発時に起こったセレンディピティとシンクロニシティ体験を上げられています。

 

土井さんはフローに基づいた組織活性化のコンサルティングをなさっていましたので、集団を対象にした「フロー」現象に力点を置かれていますが、集団も個人もフローが起こる原理は基本的に変わりません。

 

土井さんはこの本の中でこのように語っていらっしゃいます。(以下抜粋)

 

「フロー」は人生に喜びをもたらす

「燃える集団」という現象は、私にとっては大発見だったし、プロジェクトを成功に導くための最も重要な要素だと確信できたし、それにより私の人生そのものが大きく変わった。

したがって、その情報を世の中に発信することは意味があると考え、多くの本に書いてきた。

 

ところが、その内容に賛同してくれたのは経験者のみだった。思わぬところで経験者に出会い、「私の場合もそうだった」というコメントをもらった。

 

しかしながら、やはり経験者の数はほんのひと握りであり、圧倒的多数の読者には、この情報は伝わらなかったようだ。むしろ、私の本を「怪しい」と決めつける、ひとつの証拠に挙げる人もいたくらいだ。無理もないと思う。

 

そもそも、運命などということを扱うだけで、眉をひそめる人が多い。すべて理性的で、論理的に構築されていないとお気に召さないインテリは多い。

 

しかも、「燃える集団」というのは、単なる運命論ではなく、それを制御して好運を呼び込むための方法論なのだ。理性的なインテリ層から見たら、占いか風水のたぐいと一緒に見えても不思議ではない。

 

私は、自分自身で何度も経験し、確固たる信念となっており、多くの人にとって有益な情報が、いっこうに世間に伝わらないもどかしさを感じていた。

 

ところがごく最近になって、この問題が心理学の分野でまじめに研究されており、ひとつの潮流になりつつあることを知った。1960年代に、当時シカゴ大学心理学科の教授だったチクセントミハイが提唱した「フロー理論」というのがそれだ。「フロー」というのは「流れ」を意味する。(抜粋おわり)

 

土井さんの「フロー」入りの条件

この本の中で土井さんはフローに入るためのいくつかの条件を上げています。それが以下です。

 

1 目標の明確さ(何をすべきか、どうやってすべきか理解している)

2 どれくらいうまくいっているかを知ること(ただちにフィードバックが得られる)

3 挑戦と能力の釣り合いを保つこと(活動が易しすぎず、難しすぎない)

4 行為と意識の融合(自分はもっと大きな何かの一部であると感じる)

5 注意の散漫を避ける(活動に深く集中し探求する機会を持つ)

6 自己、時間、周囲の状況を忘れること(日頃の現実から離れたような、忘我を感じている)

7 自己目的的な経験としての創造性(活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない)

 

この7条件を否定するものではありませんが、やはり企業コンサルティングのための「まとめ」の印象があります。

 

例えば、1の「目標の明確さ(何をすべきか、どうやってすべきか理解している)」は私には「フロー」の必須条件とは思えませんし、むしろ下手な目標設定はフローを起こす妨げにすらなります。2、3も同様です。

 

よって、この文章は「フロー」とは何かを判り易く説明してくれていますが、この条件には100%賛成できません。コンサルタント的にまとめた印象が強いからです。

 

フローに至る秘訣は「無我夢中」

同じように冒頭に紹介した「パワーオブフロー」にも「フロー」に至るための様々な条件、ノウハウが書かれています。なかに「なるほど」と思わされる記述もありますが、多くはある種の「手練手管」です。そして「フロー」は「手練手管」とは対極にあるものです。

 

それでは「フロー」を起こす。即ち「流れに乗る」秘訣とは何かです。

私はそれを「『無我夢中』になること」と思っています。そこにはあれやこれやの計算はありません。「あること」、「ある思い」に没入することです。


それは仕事であっても、趣味であっても構いません。もちろん祈りであっても‥…。

 

今日はここまでとして、この続きは次回、書きます。

そこで紹介したいのは、私が尊敬するお二人の名経営者、稲盛和夫さんとリカルド・セムラ―さんの体験です。

 

最後に、ご参考まで、下はYoutbeに上がっているTEDのチンクセントミハイの講演動画です。

ご興味あればご覧ください。

 

 

 

世界人類が平和でありますように