セレンディピティとシンクロニシティ― | Yokoi Hideaki

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セレンディピティとは前回書いたように「素敵な偶然」といった意味です。

前回のブログはチベット族の子供にハガキを出そうとして偶然出会った聖書の一節に関わる私自身の「セレンディピティ」を書きました。

 

 

この種のことは日々起こっていますが、これを「シンクロニシティ―」(共時性)と呼んでも良いと思います。

 

先の聖書の一節との出会いも、私の意識が向いているテーマに対して「それを裏付けるような情報が集まってくる」という意味の「シンクロニシティ―」と言えるでしょう。

 

シンクロニシティ―は現代心理学の泰斗(たいと:権威者)、カール・ユングが打ち立てた概念です。これについてユングが語った有名ものには英国のクリスマス菓子「プラム・プディング」に関わるエピソード、またユング自身が治療中に体験した「コガネムシ(スカラベ)」のエピソードがあります。

 

プラム・プディング(下)のエピソードとはフランスの詩人エミール・デシャンにまつわるもので、次のようなものです。

                           

                      

 

20世紀の始め頃、詩人デシャンがまだ少年だった頃、フォールジビュという隣人からプラム・プディングをご馳走してもらったことがありました。当時、フォールビジュはイギリスから帰国したばかりで、デシャンにこれをご馳走したのです。

 

プラム・プディングはフランスでは珍しいお菓子、しかも大変美味しかったのでこのことはデシャンの子供時代の良い思い出の一つになりました。

 

それから十年後、デシャンはパリのレストランの前を歩いていましたが、香ばしい匂いがするので何気なく振り向くと、店の中で珍しいプラム・プディングがつくられているのが見えました。そこで忘れていた味を思い出し、矢もたてもたまらず店に入り、一皿注文しました。

 

しかし、注文を受けた給仕は「申し訳ありませんがこのプラム・プディングはこれが最後で、すでにあちらの方の予約済みなのです」と告げました。

 

気落ちしたデシャンは、その人物が誰なのかと思い、目をやってびっくりします。その客はなんとフォールジビュでした。偶然の再会に驚いた二人は、再びプラム・プディングを分かち合ったそうです。

             

さらに数年後、デシャンはある晩餐会に招待されていました。彼はメニューにプラム・プディングがあるのを発見し、昔を思い出し注文することにしました。

待つあいだ、同席者に「こんな偶然は2度も起こることもあるまい」と昔起きた不思議な体験話を面白おかしく語り始めたのです。

 

やがてプラム・プディングが運ばれて来たのと同時に向かいのドアがゆっくり開き始めました。人が入ってくる気配を感じたデシャンは、その方向を見るなり、たちまち目を見開いて髪の毛が逆立ったと言います。

 

入って来たのは年老いたフォールジビュだったからです。彼はたまたま別の用事で出かけて来て、迷子になってしまい、彼のいる部屋に間違って入ってきたのでした。

 

これがプラム・プディングのエピソードです。もう一つ「コガネムシ」のエピソードも紹介しましょう。このエピソードはユングがある女性患者の治療に当たっていた時のことで、次のようなものです。

 

ユングが極度に心理的防衛の強いある女性患者を治療していたときのこと。なんとかその防衛を突破できないかとユングは模索していました。

この状況を判りやすく言えば、思い込みが強すぎて柔軟性に欠け、それが自身を苦しめている女性患者ということでしょう。

 

彼女はガチガチの合理主義者で、すべてのことに関して厳密な答え(固定観念)を用意しており、セラピーをしても改善がなかなか見られなかったのです。

ある日のこと、ユングは窓を背に彼女とむかい合って坐り、セラピーをしていました。

彼女は前の晩に見た夢の話を熱心にしていました。それは誰かに高価な宝石で作られた黄金のコガネムシ(スカラベ)を贈られる夢だったそうです。

 

彼女がその夢の話をしている最中、ユングの背後でなにかが窓を叩く音がしました。振り返って見ると、羽根のある大きな昆虫が、部屋に入ろうとして、外から窓ガラスを叩いていたのでした。
 

めずらしく思ったユングは、すぐに窓を開け、飛び込んできた昆虫を空中でつかみました。それは緑がかった黄金の色をしており、彼女が話していたコガネムシの色にそっくりです。

 

ユングは「ほら、君のコガネムシがここにいるよ」と言って、患者に手渡しました。

ユングは「この体験によって彼女の鉄壁の合理主義は穴を開けられ、なにごとも自分の基準で説明せずにはいられなかった性格はゆるみ、治療が進んだ。」と述懐しています。

 

読者の皆さんもこの種の「偶然」の体験は持っておられるでしょう。私にもこういったシンクロニシティ―体験は多数ありますが、印象深いものを一つ紹介します。それは下の写真に関わるエピソードです。

 

この写真は十数年前、極東ロシアのウラジオストクで撮ったものです。

 

 

私は当時仕事で現地の会社を定期的に訪れていました。

右の若い女性は、ウラジオストク大学で日本語を学んだ通訳の「カチューシャ」(愛称)です。

その隣が私、向かいの男性はイゴールさんで、彼はその会社の経営企画担当マネージャーで、滞在中私の世話をしてくれていました。

 

写真は食事中のものですが、毎朝イゴールさんがホテルに車で迎えに来て、会社までの途中でカチューシャを拾って、三人で会社に行き、仕事を終えての帰りは同じように車でレストランに行って食事をし、カチューシャを降ろして、ホテルに送ってもらう、というのが日課でした。

 

その時、体験したシンクロニシティ―です。初めての訪問の二日目のことです。

その日、会社の社長と初めての面談がありました。社長は私の前職をよく知っており、創業者の話を聞きたがりました。

このブログでも紹介している住野敏郎さんのことをです。

 

そこで私は住野さんのユニークな経営を象徴する経営の3本柱の話をごく簡単にしました。

それが以下の3つです。

 

 

その日は後の予定が決まっていて、長く話す時間がなかったので、「今日は三つの内、どれか一つを説明しましょう。どれに興味がありますか?」と聞いたところ、社長は意外にも「西式健康法について聞きたい」との返事。

 

そこで私は西勝造先生のこと、甲田光雄先生のこと、「症状即療法」や「朝食抜きの二食主義」など西式健康法の基本原理を簡単に説明しました。

 

難しい言葉が入る私の話の通訳をカチューシャが意味を確認しながら丁寧にしてくれました。

その日が終わって3人で食事して、ホテルに送ってもらった翌日です。

 

会社へ向かう途中、イゴールの運転する車にカチューシャをピックアップした時のことです。彼女は勢い込んで乗り込んできて、私に「奇跡ってあるんですね!」と興奮気味に言いました。

 

「どうしたの?」と聞いた私に彼女は昨日帰宅後の体験を話してくれました。

 

彼女は家に帰って、居間でちょっとくつろいだと言います。その時、一週間ほど前に友人から借りた「フィットネス」の雑誌がデスクの上にあるのに気が付いて、何気なくそれを手に取り、パラっとページをめくったそうです。

 

丁度開いたページに「Nishi Method(西式)」(ロシア語で)という見出しがあるのが目に飛び込みました。そしてその記事には写真が添えられており、それは今日初めて話を聞いた西勝造先生のものであることに彼女は驚きました。記事には今日彼女が聞いたばかりのことが書かれていました。

 

 

この話をして、彼女は「奇跡ってあるんですね!」と私に言ったのですが、私は「人生は奇跡で出来ているんだよ」と返しました―、というのがウラジオストックであったことです。

 

このような類の偶然は頻繁に起こっています。それに気づかないことも少なくないのですが、上に紹介した例のようにはっきりと認識できるケースもあります。

それらは何らかの示唆を私たちに与えるものです。その示唆(意味)に気づく場合もあれば、気づかないで「単なる偶然」と片付ける場合もあります。

 

私はすべて意味あるものと思っていますが、ここで書きたいのは、このような偶然をどのように受け止めるべきか、また人生にとって意味ある偶然を起こすにはどうすればよいか、ということなのです。

しかし、書き始めるとまた長くなってしまうので、今日はここまでにします。

 

この続きはハンガリー出身の心理学者、ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)が提唱した「フロー」について書いてみたいと思います。

 

世界人類が平和でありますように