1982年1月、エリック・クラプトンはアルコール依存症の治療を受け、禁酒生活を始めたが、最初は長続きしなかった。
やがて何度もカウンセリングやセラピーを受けるうちに、自分の心の奥底には、母親との関係に起因する怒りがあることに気づく。それが乱れた女性関係や、何かに依存する根本原因だった。
1つ年上のパティ・ボイド(Patricia Anne Boyd)に恋したのも、子供の頃、義理の弟に嫉妬した状況に似ていると考えた。カナダ訛りで話す弟のブライアンは、近所で人気者になり、自分より高価な玩具を持っていた。もちろん実母のパトリシア(Patricia Molly Clapton)も弟のものだった。ジョージ・ハリスンに会ったとき、金も地位も美しい妻も持っている男に嫉妬し、その妻が欲しくなった。
また、情緒不安定な女性たちと付き合ったのも、相手を傷つけたり、自分が捨てられたりして、母親に拒絶された状況を無意識に再現するためだった。
エリックは本当に強い生命力と強運の持ち主だ。ヘロイン中毒やアルコール依存症になり、交通事故を起こし、薬を大量に飲んで自殺を試みたことさえあった。それでも彼は生き延び、2002年には、30以上年の離れたメリアと結婚し、三人の娘を持った。禁酒も継続し、幸せな家庭を築いている。
パティにも子供時代のトラウマがあった。母親の離婚や再婚に際し、邪魔者扱いされたことで、自分は無価値だと感じていた。その後はモデルとして成功するものの、常に他の女性と美しさを競い合う世界で、優越感と劣等感を交互に味わうようになる。確固とした自信など持てるはずもなかった。
ジョージの希望でモデルを辞め、自分が主婦以外の何者でもなくなったとき、幸せな家庭生活が送れると思った。しかしジョージは、徐々に自分の殻に閉じこもるようになる。パティはジョージやエリックと別れた後、2015年に不動産ディベロッパーのロッド・ウェストンと結婚している。
参考書籍
『エリック・クラプトン自伝』(イースト・プレス2008年)
『パティ・ボイド自伝』(シンコーミュージック2008年)
『ジョージ・ハリスン』(アラン・クレイソン著プロデュース・センター出版局2002年)
『ポール・マッカートニー』(ロス・ベンソン・近代映画社1993年)
