男女の関係はなぜうまくいかないのか?(五) | シロナガスクジラのブログ

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こういう女いるよね、と思った人は、小林秀雄や夫の中垣竹之助に依存した長谷川泰子が、どんな子供時代を過ごしたのか知る必要があるだろう。

 

米の仲買人だった父親には溺愛されたものの、母親は神経質で時々ヒステリーを起こし、泰子を怖がらせた。そして七歳の時に、目の前で父親が急に鼻血を出し、脳溢血で亡くなる。

 

家業は義兄が継いだが、それから間もなくして、学校から帰った泰子は、帯で首を吊った母親を発見することになる。一命はとりとめたものの、泰子にとってさらに怖い存在となった母は、ついに家を出て、実の姉の元へ去ってしまう。以後、時々娘を訪ねてきたが、泰子は決して会おうとしなかった。

 

まったくもって壮絶な生い立ちだ。これでまともに育つ方が不思議だ。一人になると不安になるのも無理はない。

 

救いは泰子が中原中也の予言通りに宗教の道へ入り、教団本部での修行を終えた後は、仕事をして一人で生活し、自立していたことである。

 

その頃、訪ねてきた中原中也の弟が、落ちるところまで落ちたね、と侮蔑とも取れるような発言をする。これに対して泰子は、いままで本当に働いたことなかったが、働きながら自分一人で生きられるようになった。それが素晴らしく思える、と即座に答え、相手を感心させている。

 

そんな風に即答できたのは、それが彼女の本心だったからだろう。六十九歳の泰子を取材して自伝に纏めた村上護も、その時の印象を、底抜けに無邪気で純真だったと書いている。