部屋から持ってきた、2つのバケツと1つのポリタンクを手に貯水槽へ向かう。
近所にあるお弁当屋のおじさんが水を汲んでいる最中だった。
おじさんは、水を汲み終わり自分達と入れ替わると、「大丈夫だった?」と
声をかけてくれる。「はい、家の中はめちゃくちゃですけど。」
そこから始まる情報交換を兼ねた井戸端会議ならぬ貯水槽端会議。
その日は新聞が届いたそうで、そこに掲載された写真はとにかく酷いものだ
という。今後、大きな余震がくるそうだから気をつけるようにとも言っていた。
おじさんの母親が海側の地域に住んでいて、地震以降連絡がとれないという。
「多分もうだめだろうな。」と、大きな表情の変化を見せずに言うおじさんの
心中は、理解したいと思っても出来るものではないだろう。
ちょうどそこへ、自分が時々お世話になっている近所の美容室の女の子二人
が来ていた。
女の子達は、車で若林区役所の辺りを見てきたそうだ。
彼女達の話によると、その辺りは水のためぐちゃぐちゃになっていたという。
貯水槽の前に集まっていた人達の顔はみな険しいものだった。
自分達が水を汲み終わるのと同時に、その場は解散した。
水汲みが終わったら、お弁当屋のおじさんに新聞を見せてもらいに行こう。