18. 一夜明けて | 憂さ憂さうさぎ

憂さ憂さうさぎ

世の中は憂さだらけ!
はき出す場所のない憂さを、ここで晴らしてみましょうか。

午前6時、結局一睡も出来ぬまま朝を迎えてしまった。隣では友人が微睡中。

『おーい、もう明るくなったぞー!・・・・・・・なんか・・・むしゃくしゃ・・・する。』

全く眠れなかったせいで、自分はもう ”具合が悪い” 域に達している。

むしゃくしゃついでに、友人を叩き起こしてしまった。

”今起きました!” という顔で少々びっくりしている友人。

「もう明るくなったし帰ろう。もう家に帰ろう。帰りたいよ。」

と情けない声で言う自分に、友人は嫌な顔もせず

「わかった。じゃあ、帰ろうか。」 と言ってエンジンをかけた。

ゆっくりと、車は走り出す。


まだ、寝起きの余韻が残る友人の横顔を見ながら、起きてすぐ車を運転して

大丈夫かな?と心配しつつ、『自分はなんて悪い奴なんだ』 と心が痛んだ。


まだ人気のないマンションへ到着。布団類は車に放置したまま部屋へ向かう。

さほど大きくはない窓から朝の光が差し込んで、コンクリートの階段を照らす。

またこの階段を上るのだ。

『そうだ、これはトレーニングだ!』自分を騙してみる。辛いのは変わらない。

やっと自分の部屋に到着する。

全ての物が定位置から移動し、床は細々したものに占領されていて、

足の踏み場に困ってしまった。

固い物を踏んだりして怪我をする事が無いようにと、昨夜同様靴のまま部屋へ

上がる。

台所や物置は日の光がほとんど入らないため、片付けるのはまだ無理だ。

電気がつくまで、日中は明るい窓側の部屋の片づけだ。


まずは、数日の食糧を確保しようと、普段居間として使っている和室へ行く。

25インチのブラウン管テレビが、テレビ台から前のめりに落ちていた。

換気のため片側だけ開け放していた押入れの上段から、殆どの物が飛び出

しぶちまけられている。畳の上は足の踏み場もない。

そんな中に埋もれているいくつかのお菓子を拾い集める。

実家から送られてきていたリンゴが数個、畳の上で無残な姿を晒していた。

無傷のリンゴ1個と、少々傷のついたリンゴ1個を見つけ、お菓子と一緒に

袋の中へ。


ふと 『テレビは大丈夫かな?』 と心配になり、少しだけ持ち上げて、下の

隙間を覗き込む。テレビ自体が壊れた様子はない。

重いテレビの画面の下で、ガラスのコップとビデオテープが1本砕けていた。


『そういえば、台所に食パンがあったな』と暗い台所へ行き、懐中電灯で床を

照らした。ビニール袋ごと床に落ちている4枚の食パン。

ビニールは濡れているが、中身に影響はない。

『冷蔵庫には、魚肉ハムが半分程あるはず』

冷蔵庫のドアを開けると、中から ”シメジ他いろいろ” がボサガサ落ちる。

落ちてきた物を適当に押し込むと、真っ暗な冷蔵庫内を照らし、目的の物を

探す。・・・いた。

これを切って食パンにのせれば、この状況での朝食としては十分だろう。

包丁を持ち歩くのは危ないなと思い、食器棚の引き出しからステーキ用の

ナイフを取り出した。それをキッチンペーパーでくるみ、魚肉ハムと一緒に

袋の中へ。


地震の後、避難所へ向かおうとマンションの外へ出た時、偶然管理人に

会った。その時管理人は、マンションの近くにあった貯水槽の水を、飲料水

意外になら使っても大丈夫と言っていた。

『トイレ用水でも汲んでおこうか』 と思い立ち、バケツ2つととポリタンクを

用意する。


未だに余震が続く中、まだぐちゃぐちゃの家で食事する勇気はない。

車の中で朝食にしようと、見つけた食材その他を手に二人は一旦家をでた。