★投稿した小説「赤い月に眠る」(21)1~20から見てね★ | ★田舎者はどこにも書いていないことで抹殺される。人生はギャンブル★いいねをよろしく★人生はホラー映画★ 投稿は不幸★

★田舎者はどこにも書いていないことで抹殺される。人生はギャンブル★いいねをよろしく★人生はホラー映画★ 投稿は不幸★

こんにちは、現在アマゾンキンドルを中心に小説執筆活動中★頑張れば頑張るほど不幸★投稿するほど不幸★編集者作家に枕営業が効く★投稿作は売られる★商売人家系しかデビューなし★自分で書いて自分で読めば、地獄は見ない。

 あの男が消失してしまったことで、二人の「探偵ごっこ」は終わりを告げた。リカの父親は被疑者死亡のまま起訴され、竹森波子は心神喪失が疑われて専門医による精神鑑定を受けている。
そして高校生の加賀谷仁志は、未成年ということもあって精神鑑定の結果精神分裂症と診断され家庭裁判所にまわされたあと、ひとまず措置入院ということになった。
 季節はうつろい、今年の夏はダイポールモード現象という異常気象のため、雨不足になると予測された。
 狂っていた。自然も人も狂っていた。
 
(リカ、早く来て。あたしやっちゃたの。あいつを殺しちゃった)親友の安田玲子からこんなメールで呼び出されて、リカは飛んでいった。牛乳配達人の失踪、友人の殺人、リカの周りでは次から次へと様々な事件が起こる。それは彼女が呼び寄せているのだろうか、それとも悪意の遺伝子の蠢動が原因なのだろうか?
 バスを乗り継いで、玲子が宏樹と同棲しているマンションへ向かった。シンガーソングライターを目指す宏樹の芽がなかなか出ないので、彼女がキャバクラで稼いで養っていた。最近は宏樹に曲作りのための新しいシンセサイザーを買うために、デリバリーヘルスまで副業でやっているというから大変だ。しかもまだ高校へもちゃんと出ている。呆れたを通り越して、最近では尊敬に値すると思っていた。(あいつを殺した)というのは、まさかと思うがやはり宏樹なのだろう。いつまでもジゴロでいる彼に、とうとうキレたのであろうか? ストーカーから押し掛け女房のようにして、手に入れた恋にも終わりが来たのだろうか?
 東京二十三区の外れに、玲子の安普請のマンションはあった。マンションといっても、プレハブである。見た目がいいので、玲子の見栄を満足させたのだ。二階への階段を上がり、ノブを動かした。自動ドアであるかのように、するりとドアが開き、リカを招き入れた。
 小さな玄関に足を踏み入れた。オカルト映画ではないから、霊気が漂うわけではない。意外に蒸していた。本当の殺人現場とはこんなものかもしれないと、リカは思った。二歩、三歩と奥へ入ってゆく。「リカ」血の気が引いた。一瞬にして断崖の上から突き落とされたように、全身が麻痺した。
 目の前に玲子が立っていた。右手には包丁を握っている。刃先がじっとりとした赤褐色に染まっていた。
「宏樹、を本当に殺したの?」
 玲子はうなずいた。そのまま座り込んでしまう。
「どうして? 宏樹が働かないから? いつまでもデビューできないから?」
玲子は首を振った。
「違うよ。まだ宏樹は二十歳だもん。まだチャンスがあるよ。十年近く売れなかったグループだってあるから、気にしてなかったよ」「じゃあ、どうして?」「わからない」
「わからないけど、腹が立ったの。今まであいつがどんなにのんびりしていても、働かなくても気にならなかったのに、でも今度は腹が立ったんだ。最近、ささいなことにでも腹がたつようになって、理性が保てなくなってた。達生の家でパーティやるたびに、虚しくなって神経が疲労していく。もしかしたら、こんなヒモの宏樹を養う生活に疲れていたのかもしれない。デリヘル嬢に身を落としても、彼にシンセ買ってあげたかったのに。駄目になっちゃった」    
「でもいつかこんなことになるって、どこかで思ってたよ。ライブハウスからのお持ち帰りが多くなったのか、朝帰りが増えたしさ。それでもあたし、押し掛けだったから我慢できた。でもファンレターやプレゼントを、これ見よがしに持って帰るようになった。シャツのキスマークも隠さなくなった。あたしへの当てつけのようにね」
「そ、それはもしかしたら、こんなにもてるんだからきっといつか売れるよって、言いたかったのかも」
 リカは下手なフォローをした。わかっていたが、そんな陳腐なことしか浮かばなかった。
宏樹の息の根を止めた包丁は、畳に突き刺さったまま自らの処遇を待っている。
「ねぇ、こっちにきて、宏樹に会ってよ」
 玲子はリカをさらに奥へと招き入れた。リカは闇へと吸い込まれるような恐怖を覚えて震撼した。そっと寝室をのぞいた。わずかに開いたドアの隙間から、視線を奥へと移す。
宏樹は眠っていた。ダブルサイズの布団に丁寧に寝かされ、腕は
腹の上で組まれていた。サテンのようなてらてらと光るパジャマを着せられて、彼は眠るように動かなかった。どこにも刺されたような、傷は見あたらない。スターを夢見ていただけあって、そのデスマスクは崇高でもあった。
「せっかくだから、イタリア製のパジャマ着せて上げたの。宏樹は成功したら結婚して、その新婚旅行で着るんだっていってたけど、もういいよね。素敵でしょう?」
 玲子は友人に恋人を紹介した。リカの脳裏には、恐ろしい絵が浮かんでいた。動かなくなった恋人をきれいに身繕いさせて、眺めている玲子の姿を。おぞましく、すさまじい。愛の末路。
 玲子はクローゼットを開けて、ブラウスを着替えていた。彼女が気に入っているといっていたブランドのブラウスだ。いつも派手な柄物を着ているので、リカよりも年上に見える。家を出て同棲をし、シンガーソングライターを目指していた男を養うために、キャバクラで働いていたせいかもしれない。
「ねぇ、これいいでしょ。宏樹が一番君に似合っているって言ってくれたの。大人っぽいって誉めてくれた。あたし、誉められるとすぐに舞い上がっちゃうんだ」 
 宏樹を見つめていると、シルクのパジャマの変化に気づいた。薄いブルーのキャンバスに花が咲き始めたのだ。薄紫のつぼみが一つ芽生えて、二つ三つと増えてゆく。そしてつぼみはたっぷりと膨らんで、そして大輪の華となった。深紅の大輪。血潮で彩られた華だった。一分ほどの間に、宏樹の体は七つの華で飾られた。
「わぁ、きれい。かっこいいからやっぱ宏樹って、赤が似合うね」
「れ、玲子。一体、あんた何回刺したの?」
「そんなにひどいことはしないわ。スターになりたかった宏樹にふさわしい最期にしてあげたかっただけ」
「ねぇ、リカ。あたしどうしたらいいの? 宏樹殺しちゃったけどどうしたらいいの?」
 リカの思考も停止していた。携帯電話を取り出して、警察を呼ぶまでにさらに数分を要した。
パトカーのサイレンが遠くから近づいてくるのを聞きながら、玲子は宏樹の体をいつまでも撫でている。子供に死なれた母親がそうするように、玲子は警官に脇を抱えられても動こうとはしなかった。「宏樹はあたしのものよ。宏樹愛してるよ!」   
 深紅に染まった恋人に向かって、玲子はいつまでも叫んでいた。
狂気の伝染は止まることを知らない。