出版社がこいつはアウトと決めたら、お前は抹殺である。
出版社がこいつはクソと決めたら、お前はクソゴミである。
出版社がこいつはカスと決めたら、お前はカスである。
作品は没収。
世の中には差別と区別と選別がある。
人が思うよりも、世界はドロドロとしている。
輝いてもいいのは棚ぼたの人だけ。
編集者が探してきた人だけ。
商売人の子供だけ。
「赤い月に眠る」(1) 大昔に投稿した作品。
★あと4、5作の投稿した長編小説があったのに、父親にパソコンから消されました。
投稿していないアマゾンキンドルのSFも取られたのかも。
老害です。抹殺です。
葬儀はなし。節約の対象。
子供の未来を殺してゆく奴。
ゴミみたい。親はゴミ。
だから昭和の男は嫌い。
やっぱり戦死してくれたほうが、良かったのかも。
書きながら、読むのにも疲れたわ。
人のでも自分のでも、疲れるわ。
やーんぴ。
自分で書いて自分で読めば、節約倹約。
これが貧乏人の道。
過去帳から速攻で救出してくる技を見つけたので、持ってきたよ。
第一章 プロローグ
赤い月が出ていた。
大都会の人類の英知の最高傑作であり、大地を何度も突き刺すように屹立する超高層建築物の真上に、それは君臨していた。それは大都会に捧げられた教皇から皇帝への王冠のようにも見えた。人々は大地に詰め込まれたコンクリートの箱たちの隙間を夜ごと彷徨う。
大都市の夜は夜ではない。ただ太陽が西の空に埋没してから、東の空に再び蘇るその現象に、夜と名が与えられただけだ。地上のほとんどの場所で語られる夜とは違うのだ。東京の夜は眠らないのだ。不眠不休で、人も街も地上に君臨し続ける。
夜の帳がおりて、人々はその昼間の居場所から吐き出され、夜の居場所に繰り出し酒を酌み交わし談笑し、現実世界でのうさをはらす。それは上司への憤怒であるかもしれないし、この身を会社に捧げたことによって長い年月家族とわけ隔てられたことによる寂寥感なのかもしれないし、あるいは社会の不条理へのささやかな抗議であるかもしれない。大都会は真夜中を過ぎてもこうした男たち、女たちの行き場所をつぎつぎと与えてくれる包容力がある。居酒屋をでれば次はスナックにキャバレー、クラブ、そして午前五時まで開いているカフェだ。街はいつまでも懐を開いて、彷徨える人々を迎え入れるのだ。
赤い月はこうして毎日の生活に疲弊した人々を、木に昇っていた猿が大地に降り立ち歩きだした遥か太古から、人類の真上に君臨してきた。
人類となった猿たちが、高等な知能を獲得したことによる阿鼻叫喚や悶えを吸収するたびに、月は赤い光線を発してきた。
そして東京の夜にはべる(夜の子供たち)のリカたちの上にも赤い月は光線を注ぎ、我にかしずけと言わぬばかりに君臨しようとしていた。
赤い月が出ていた。
陽光がたっぷりと降り注ぐ白昼をかしずかせ、それは存在していた。
その男は疾走していた。東京の街は相変わらず大量の人口をかかえ、人々は忙しく肩を何度もかわしながら行き交う。
男も巧みに人々の間をすりぬけながら、疾走していた。シャツはくたびれ、ベルトもつけないズボンは、腰でわずかに支えられているだけだ。たぶん以前は豊かな脂肪を含んだ腹があったのであろう。しかし今は成人病予防にダイエットに励む多くの人々に羨ましがられるほどに男は干涸びていた。
今は艶を失った擦り切れた革靴も、あの懐かしい時代には大事な娘と週末ごとに磨いたものだ。仲良く並んで磨けば、こんな雑事にも心が踊った。娘はきれいになったねといって、微笑んだ。
男を目撃した通行人から証言をとれば、ほとんどの者が男を公園に住み着くような浮浪者だったというだろう。顔は泥色にとりつかれ目のまわりはぼこりと落ち込み、尋常ではない眼光だけが男を死人ではなくまだ生のある人間だと認識させた。眉はすっかり抜け落ち、髪は白と黒との大理石状になり、針金のようにかたく萎びて逆立っていた。口からは全力疾走によるあえぎが漏れ、死神の舌のような白く淀んだ舌が息を吐くたびに口から飛び出してくる。全身から激流のような喘鳴があふれだしていたが、それでも男は疾走をやめなかった。いややめることができなかったのかもしれない。何者かが男を打ちすえているように、男は屹立する摩天楼たちを、群衆を突き抜けてゆく。
なぜ疾走しているのか?どうしてここにいるのか、それは男にもわからない。
彼の神が叫んでいた。神が男の耳元にやってきたのだ。 (魔王降臨す)
神になろうとして超高層建築を人類が創造したものならば、男はフランケンシュタイン博士が創造したものなのかもしれない。そうでなければ神が戯れに創造したのであろうか?
男の手の中にはてらてらと光るものが、その存在を確かめるようにしてしっかりと握られていた。
その数分後人々は自らの異常に気づき、確かめ合った。身体が何箇所にもわたって鋭利に切り刻まれていた。シャツは一見すると深紅の絵筆で神によって描かれた落書のようにも見えたが、明らかにそれは鋭利な凶器による創痍だった。指摘されなければその被害に気づかないものもいた。それほどこの男は旋風のようにあるいはかまいたちのように通り過ぎてゆき、人々はこの悪魔とすれ違ったことを嘆くのだ。通り魔事件の被害が叫ばれたときにはすでに男は人の群れをたくみにすり抜け消失していた。大都会の雑踏はこんな凶器でさえその懐に隠してしまう。それがたとえ神をも恐れぬ、ホワイトアウトのような冷徹な狂気だとしても。
この男が青春の季節、同級生の少女に淡い恋のうずきを感じ、めくるめくような恋愛を経験していたことを、誰が想像できるであろうか?
この男が三年前まで真面目な銀行員であったことを、誰が信じるだろうか?
この男が三年前まで家庭を持ち、子供がいて幸せであったことを誰が信じるだろうか?
退屈なほど平凡なある日、それはやってきた。悪魔が男に微笑んだのだ。
それは美しい蜃気楼であった。男が同僚たちと仕事明けの打ち上げを楽しんだ帰りのことであった。その悪夢は駅から自宅までのほんの数百メートルの距離がもたらした。
男の足は動きを止め、蜃気楼を見ていた。
その瞬間、警報のような女の声が閑静な住宅街に響いた。アルコールが蒸発していく男の脳内で、人生が音をたてて崩壊していく。それは神経が氷点にまで落ちてゆく音だった。凡庸だがおだやかだった銀行員の男の運命。
女が透けるようなカーテンごしに着替えようとしていたということで、結局女は告訴もせず男は帰された。呼び出された弁護士の妻がかけつけてきたが、その顔は死人のようであった。妻はあまりの恥辱的な事件に男をまるで当番弁護士を呼んだ麻薬中毒患者のように見下ろしていた。
こうして男は痴漢という恥辱を受けずにすんだ。しかしどこから漏れたのか一週間の間に職場では男が警察に連れていかれたという噂で持ちきりだった。どうもあの事件のあった家の近所に女性社員が住んでいて、あの野次馬たちの中にいたらしいのだ。人の噂は七五日だと言聞かせて男はいつもどおり業務に励んだ。そうすることが自分の名誉を回復する一番の近道だと思えたからだ。
しかし女性たちの噂は七十五日ではなかった。トイレや床を掃除する清掃婦でさえ、男が痴漢行為で警察に告発されたことを知っているような気がした。眼があったばあさんが男を見た。「おまえさんは痴漢だってね」
囁いている。なにかが囁いている。脳内にはなにかが棲みついていた。
「お前は痴漢だ。最低の男だ」
それは人の声なのだろうか? それとも男の妄想なのだろうか? 悪魔が人の声音を真似ているようにも思える。廊下で女子行員とすれ違う。眼が合う。彼女はすぐに下をむいて口の端を歪めた。笑っていた。
「あなた痴漢ですって?」
男はかぶりをふった。何度も手のひらをつねった。大丈夫だ。なんでもない。
夕方になって上司が肩を叩いてきた。
「君は痴漢だって?」
足の先から一気に冷気が上がってきた。男はホオを手のひらで打った。きっと大丈夫だ。
あの日地下鉄で男は揺られていた。人々は日々の労働で擦り切れ、声もなく立っていた。そこへ際立って高い女たちの声。それはアルバイトやコンパ帰りの女子高校生であったり、残業をこなしてきたOLだったりする。
「ねえ、あのオジサン、みごとなバーコード」
男ははっとした。確かに女子高校生の視線の先にはみごとなパーコードオヤジがいた。数少ない髪を無理矢理向こうへ渡している。一層のことすべての毛をそってスキンヘッ ドにするか、カツラにでもすればいいのにと男は思った。
「ねぇ、あのオジサン痴漢だってぇ」
男の心臓はドライアイスのように縮んだ。顔を何度も叩いた」
「ほんとあの人オタクっぽい。やだ~。きっと女に持てないよ」
「女が一番嫌がるタイプだもんね」
大丈夫。大丈夫だ。男は叩いた。
駅へ電車が着くたびに人が傾れ込んでくる。すっかり車内は鮨詰め寸前だ。腕がつっぱった。見えないので動かした。
「ちょっとおっさん」
「すまない。時計がなにかにひっかかった」
「もう!嘘言わないでよ! あたしの足に触ったでしょ! この痴漢!」
なにかが崩れた。どこかで音がした。
「違うって言ってるだろ! 俺は痴漢じゃない!」
終わった。みんな終わった。もういい。 みんな終わってしまっても。