2024年3月24日に公表された宮古島での陸自ヘリの墜落(2023年4月6日)の事故調査は、疑問点が多く残る内容でした。
前回は、事故の原因を推測しました。
右エンジンのロールバックの原因は、「わからない」が、私の現時点の結論です。
左エンジンの出力低下は、「オートスロットルをオフにしたが、操縦桿を握っていた操縦士は知らなかったために起きた」と推定しています。
私の推定は横に置き、防衛省の対策を確認してみましょう。
防衛省は、以下のような対策を発表しています。
A)エンジン制御系統および空気圧ラインの点検・検査の強化
B)取扱書への緊急操作手順の記載と、搭乗員への教育訓練の徹底
C)洋上飛行時の救命用装備
D)フライトデータレコーダー用のビーコンの導入
Aは、ロールバックの防止策です。
Bは、両エンジン異常時の対応策です。
Cは、不時着水時の救命策です。
Dは、事故発生後の対策です。
CとDは、有効だろうと思います。
事故時の高度は低く、オートローテーションでは陸地まで飛行できなかったと思います。
ヘリコプターは、エンジンやローター等の重量物が高い位置にあるため、不時着水時に横転しやすく、脱出のチャンスがほとんどありません。
そこで、不時着水時にしばらくは浮いていられる、膨張式のフロートの装着が考えられます。
Cの対策は、そのことのようです。
今回の事故では、FDRとCVRは発見できましたが、墜落地点が狭い範囲に絞られていたにも関わらず、発見が遅れ、機体の引き上げは、事故の約1ヶ月後でした。
これは、FDRやCVRにビーコンが無かったことも、一因です。
Dは、その対策です。
CとDは、有効だろうと思いますが、墜落を防ぐ方策ではありません。
では、AとBは、どうでしょうか。
正直なところ、効果はほとんどないだろうと思っています。
まず、Aですが、今回の機体は、定期点検を終えた直後の事故でした。
UH60JAは、50飛行時間毎に、特別点検を実施するそうです。
事故機は、2023年3月20日から28日までかけて、この点検を行っています。
点検に要した時間から、そこそこの重整備に思えます。
「エンジン制御系統および空気圧ラインの点検・検査の強化する」としていますが、これは特別点検項目になかったのでしょうか。
空気圧ラインは、おそらく単なるECU冷却用の導風管なので、点検項目にないかもしれませんが、エンジン制御系統が点検項目にないとは考えにくいところです。
元々の定期点検項目にあったのなら、この対策は無効です。
次に、Bですが、常識的に考えると、元々やっていなければいけないことです。
ロールバックを知っていても、エンジン停止時の対処は従来と変わりません。
片肺飛行をするだけです。
これは、基本的な緊急時訓練項目なので、以前からの訓練項目にあったはずです。
もし、Bの対策が有効なら、片肺飛行やオートローテーションの訓練を行っていなかったことになります。
そもそも、ロールバックの原因はわからず、推定原因も複数あるため、ロールバック固有の対応手順は策定しようがありません。
エンジンの1基でロールバックが発生した後に、残るエンジンも不調になった場合は、オートローテーションに入るだけです。
これも、基本的な緊急時訓練項目で、以前から訓練していたはずです。
ただ、今回の場合、右エンジンのロールバック発生から、時間差で左エンジンの出力低下が発生しています。
この時間差によって、高度と速度を失い、オートローテーションに入れなかった可能性があります。
また、オートローテーションに入れたとしても、滑空は無理で、不時着水時の衝撃を柔らげる程度だったと思います。
もし、片肺飛行訓練やオートローテーションの訓練もせずに搭乗させていたなら、重大な違反行為です。訓練していないはずがありません。
訓練してきたはずなので、Bは無効な対策でしょう。
AもBも、対策としては、効果があるとは思えません。
では、墜落を防ぐ有効な対策は、あるのでしょうか。
それは、次回に残します。
今回は、横に置いていた推定原因も含め、有効な対策を考えてみたいと思います。
〈次回は以下〉
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