2024年3月24日に公表された宮古島での陸自ヘリの墜落(2023年4月6日)の事故調査は、疑問点が多く残る内容でした。

 

 

 

前回は、防衛省が発表した再発防止策について確認しました。

その結果、墜落後を想定した対策には、有効性はありました。

ですが、墜落自体を防ぐ対策は、本来なら事故前から行っていたこととの違いがなく、再発防止策としては効果を期待できないとの結論でした。

 

では、墜落を防ぐ有効な対策は、あるのでしょうか。

今回は、私の推定原因も含め、有効な対策を考えてみたいと思います。

 

 

 

 

今回の事故で、墜落の再発防止に最も意味があるのは、左エンジンの出力低下から後の対応だろうと思います。

もし、左エンジンの出力低下がなければ、ロールバック発生時にも、普通に対応できただろうと思います。

なので、左エンジンの出力低下の原因究明は、非常に大切です。

でも、防衛省は「原因不明」として、それを放棄しました。

 

 

次に、左エンジンの出力低下時の対処です。

ただ、何度も書いているように、左エンジンが出力低下を始めた時点で、高度や速度を失っていたかもしれないので、何らかの手段が残っていたのか、かなり厳しいと思います。

 

2024年3月14日の発表内容には、速度の情報はなかったので、左エンジンの出力低下が始まった時、速度がどれくらい残っていたのか、わかりません。

速度は、オートローテーションの条件の一つなので、気になるところではあります。

 

 

 

 

 

まず、左エンジンの出力低下の原因です。

 

それを考える際に、事故時のコクピットの様子で、気になる点があります。

 

調査報告によると、15時56分00秒頃に、緊急操作に入るか、最終確認を行っています。

おそらく、15時55分24秒頃に、右エンジンの緊急操作の相談を行っており、これの最終確認だと思われます。

そうであるなら、やや時間が掛かっている印象です。

おそらく、左エンジンの出力も低下したことで、その対応に追われたためと想像します。

また、オートスロットルの解除も、同時に話しています。

これらから、機長と副操縦士とフライトエンジニアが、別々の作業をしようとし、機長の承認待ちになっていたのではないかと、疑われます。

 

 

ここで、私の推測です。

 

乗員が優秀だった故に、ロールバックに気付いた時点で、それぞれが機長の先回りして対処を始めたのではないかと、思います。

そんな中、誰かがオートスロットルをオフにした、あるいはオートスロットル装置が自動的にオフになったのではないかと、私は予想しています。

操縦桿を握っていた操縦士は、オートスロットルがオフとは知らず、スロットル操作を行わずにコレクティブ・レバーの操作を行ってしまったのではないでしょうか。

 

 

ところで、UH60JAの出力計は、トルク計なのでしょうか。回転数計なのでしょうか。それとも、トルクと回転数から出力を算出しているのでしょうか。

事故機がグラス・コクピットなら、トルクと回転数から出力を算出できたと思います。

出力は、下式で計算できます。

 

P=2πTn/(60・1000)で算出できます。

※P:出力(kW)、T:トルク(Nm)、n:回転数(rpm)

 

以降は、トルクと回転数から算出した出力が、フライト・データ・レコーダに記録されていたとして、話を進めます。

 

 

オートスロットルをオフにすると、スロットルの位置まで、出力が下がるはずです。

これが、15時55分21秒からの出力低下です。

 

出力が足りないため、急激に降下します。

降下で要求出力が減り、ローターの回転数、即ちエンジンの回転数の低下が収まります。

前述の式のように、エンジンの回転数の低下は、出力の低下となって現れます。回転数が低下しなくなれば、その出力で安定します。

これが、15時55分25秒から同分50秒頃に相当します。

 

急降下したので、高度を維持するために、コレクティブ・レバーを引き、ローターブレードの仰角を増やしたのでしょう。

「高度を保とう」との会話が記録されていますが、この頃の会話だと想像します。

実際、降下速度が、緩やかになっています。

ローターブレードの仰角を大きくしたので、抗力も増え、ローターとエンジンの回転数が下がります。当然、エンジン出力も低下していきます。

これが、15時55分50秒頃から墜落までに相当します。

 

このように、エンジン出力と高度の変化、墜落までの流れが、説明できます。

 

 

 

 

オートスロットルのオフが原因として、対策を考えます。

 

 

まず、オートスロットルが自動的にオフになった場合の対策です。

 

自動的にオフになったのなら、それを確実に操縦士に伝える仕組みの導入が、第一です。

次に、どんな条件で自動的にオフになるのか、主な条件を、操縦士に教育することです。

更に、オートスロットルがオフ時のシミュレータ訓練の強化です。

 

ここでも、コクピット・リソース・マネージメントが、関係しますが、後述します。

 

 

 

 

 

 

次は、左エンジンの出力低下の対処です。

 

右エンジンのロールバックに気付いた時点で、機長は、トラブルシューティング、右エンジン停止、パンパンコール、右エンジンの再起動等を、順次、指示するはずです。

ボイス・データ・レコーダが公表されていないので、わかりませんが、状況から見て、トラブルシューティング終了の段階で手一杯になったのではないかと、思えるのです。

 

手一杯になった要因の一つは、乗員が機長の先回りして対処を始め、機長の承認待ちを待ち、一方で、機長は、ロールバック対処中に左エンジンの出力低下が発生したことが考えられます。

 

つまり、コクピット内を統括できておらず、コクピット・リソース・マネージメントが、上手くできていなかったことが推定されます。

 

 

 

 

この対策は、当然、コクピット・リソース・マネージメント訓練になります。

それも、チームによるコクピット・リソース・マネージメントです。

 

シミュレータ訓練は、通常は、1人ずつ訓練するはずです。

でも、これからはチームで行うように変えるのです。

チームは、原則として固定して、組み替える度に、再訓練を行うのです。

これで、機長が全体を把握しやすくし、他の乗員も、機長の癖を知ることで、無駄なくスムーズに対応できるようにするのです。

 

低空を飛行中に、2基のエンジンが時間差をもって停止するのは、同時に停止する場合より混乱しやすいので、チームとしての高度な対処が求められます。

 

 

 

 

両エンジン停止時のオートローテーションのシミュレータ訓練は、今まで通りの条件では、再発防止効果は期待できないと思います。

訓練するなら、よりシビアな条件下で行うべきです。

高度500ftを飛行中にエンジン1基が停止、かつ、オートスロットルが自動的にオフになるところから始め、当該エンジンの停止手順を始めたところで、2基目のエンジンも停止するシナリオでの訓練です。

これくらいの難度でなければ、今回と同じ状況に陥った時、対応できないでしょう。

 

でも、このシナリオによるシミュレータ訓練をこなせたとしても、コクピット内を統括できていなければ、実際の事故では対処できないかもしれません。

 

 

 

 

自衛隊機ですから、実戦における被弾時の訓練も、必要になるでしょう。

シビアなシナリオでのチームのシミュレータ訓練は、事故防止だけでなく、有事の帰還率の向上に繋がるはずです。

 

政府は、装備にばかり予算を使いますが、最後は、各隊員の能力が防衛力になります。

有事になれば、ロクに整備できなくなるし、それでも飛ばさなくてはなりません。

その時には、隊員の練度が、防衛力になります。

 

事故であれ、有事であれ、シビアなシナリオでのチームとしての訓練は、有効に働くはずです。

 

 

まさかと思いますが、民間航空と同じように、毎回、乗員を組み替えているなら、それも、今回の事故原因の一つに上げられると思います。

 

 

 

〈前回は以下のリンク〉