2014年4月、一人の青年がバイクで帰宅途中、道路の電柱に衝突し、脳挫傷と外傷性くも膜下出血で死亡しました。この青年は連日の長時間労働で過労状態であったそうです。
彼が勤めていたのは商業施設などに観葉植物を飾り付ける植栽会社(本社・東京都)で、2013年10月から、アルバイトとして働き始めたのだということです。勤務は深夜・早朝に及び、残業時間は月130時間を超えるときもあるなど、過酷な労働環境だったという。
その会社のハローワークでの求人票には
新卒正社員募集・試用期間なし
就業時間 8時50分~17時50分
時間外 月平均20時間
マイカー通勤 不可
……と記載されていたそうですが、実際の労働環境は似ても似つかないものだったそうです。
事故死した青年の母親はこの会社を刑事告訴しました。「虚偽の広告」、「虚偽の条件」、「労働者の募集」にあたり、職業安定法65条に違反するというのが理由です。
まず、「試用期間無し」と書かれていたが、実際は正味試用期間といえるアルバイトの就労をさせられていたそうです。それに、「残業月平均20時間」となっていますが、実際は最大134時間に及ぶ事もある過酷な労働現場だったといいます。
また、バスや電車の無い深夜に終業する事も多く、かといって会社の仮眠室のような休息施設はキチンと整備されておらず、まともに布団で寝る事などままならない環境だっだようです。
ただ、バイクの通勤は認められていた為に、彼は毎日原付バイクで通勤していたそうなのですが、結局それが彼の事故死に繋がってしまいました。因みに事故死したのは朝の9時ごろで、仮眠もとらずに21時間労働をこなし、家路につく最中だったとの事。
さて、この職業安定法65条には『次の各号のいずれかに該当する者は、これを六月以下の懲役、又は三十万以下の罰金に処する』とあり、さらにこの65条の8号には『虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者』とあります。
ただ、実際はこの職業安定法65条は実質的に形骸化した法律といえるもので、過去にまともに機能した実績があるのかどうか甚だ怪しいのが現状です。恐らくですが、実績は無いに等しい状態なのではないでしょうか。といいますのも、労働基準監督署に言わせれば、「職業安定法違反は管轄外」という話になるし、かといってハローワークの職員達にはそもそも法律違反を取り締まる権限が与えられていません。
ハローワークはせいぜいのところ、会社の経営者や人事担当者に注意勧告するのが精一杯なのです。つまり、法律の条文だけは存在するものの、実質的に使い物にならない『死文化した法律』と表現しても差し支えないでしょう。
さて、私などは過去に何度か転職しましたが、「求人票と実際の労働環境に乖離があるのは当たり前だし、その事で一々文句を言うのは世間知らずでは?」という認識を多少なりとも持った状態で働いていたものです。
しかし、この認識は間違いでありました。やはり理由はどうあれ、法律違反は法律違反でしかありません。この国は法治国家でありますし、ましてやその違法行為を抽象的な職業倫理や社会倫理に絡めて正当化したり議論を混ぜ返したりする生き方や考え方そのものが、とんでもない勘違いだったのです。
そういえば以前、ある中年男性が(私とは畑違いの産業の方です)、当初考えていた労働環境と実際の労働環境が大幅に違うという事に不満を言って来た若者がいたそうで、「この不景気な世の中で仕事があるだけ有難いと思うべきだ、法律がどうとかシャラクサイ話は一人前の社会人になってからすべきだろう」と厳しく叱った所、すぐに辞めてしまったというのです。
彼は「最近トシで、自分だけだと仕事がハードで体がもたない。もう少しばかり辛抱強い若者が入社してきて支えて欲しい」とも語っていましたが、こいつは少々ムシのいい話ではないでしょうか。
寧ろ、こういった問題に関して昭和生まれの我々が余りにも考え無しの無頓着だったのです。勿論、求人票と実際の労働環境に乖離がある事自体が法律違反だ、などという事自体、知っている人は少数派だったのは事実ですし、私自身もそうでした。
とはいえ、国も最近はこの『職安法65条の死文化』を重く見ているようで、事態の打開に乗り出しているようです。「求人票の内容と現実の違いを黙って飲み込んでこそ立派な社会人」などといった精神文化は完璧に消える事は無いのかもしれませんが、衰退の戸口に立っているというのもこれまた事実ではないでしょうか。
そしてこれは、私から見ても非常に好ましい事であるように思われます。何故なら『法律違反に黙って耐えた事を勲章にするだけではなく、その価値観を他者に強要するようなマゾヒストの変態』が減る事を意味しているのですから。