カエルのナベちゃんは葉っぱの上にドカッと座り込んだ。
ここは関東の北部に位置する鹿沼市である。
10月になると気温が下がりカエルは動きが鈍くなる。
冬眠するか、しないかは自分の意志ではない。
しかし中には意地なのか、鈍いのか、いまどきなのか?
夜更かし?カエルが現れる・・
「ナベちゃん。君がここに来ようって言ったんだよ」
キミちゃんは、ナベちゃんに無理やり連れてこられた。
本当はこんな大冒険をする予定では無かったのだ。
お互いの家から、80kmも離れた場所に来ているのだ。
勿論、カエルの足では一生掛かってしまう距離である。
しかし、JRと私バスを乗り継いでどうにか到着したのだ。
実はこの2匹、私立校に通う高校生であった。
さかのぼること数時間前・・・
「あー、面白かったなー」
「本当に、面白かったなー」
ここは鹿沼市文化会館・・今日は「あのねのね」のコンサートであった。
「アマガエル・・羽を付けたら、羽を付けたら?なんだっけ、キミちゃん」
「違うよナベちゃん。唐辛子に羽を付けたら、赤とんぼ、だって」
「は、は、は、そりゃそうだ。俺たちカエルに羽がついたら、想像しただけで怖いわ」
本当に仲の良い2匹である?
「あれ?ナベちゃん。最終バスって、10時だけど」
「えー、そんなことないだろう?」
9時半にコンサートが終わり「ニラ蕎麦」を食べてバス停に来た。
只今の時刻10時10分と20秒・・
「どうするケロ?キミちゃん」
「ケロ?歩こうナベちゃん」
こうして二人はJR宇都宮駅まで歩くことになった。
学校の帰りにコンサートに来たのだが、学生服では目立つとヤッケを持ってきた。
緑のヤッケは夜空の下で歩く二人の寒さを十分にしのいだ。
「貝島橋だってさ」ナベちゃんは大きく足を開き、腕組をした。
「へー、長い橋だね」キミちゃんがそう言って渡ろうとした時、
唐突にナベちゃんが「よし、今日はここに泊まろう」と言う。
「へっ、泊るってどこに?」キミちゃんが振り返ると既にナベちゃんの姿は消えていた。
「おーい、こっち、こっち」橋の袂で手を振るナベちゃん。
今夜の寝床は橋の下の様である。
幸い?親には友達の家に泊まるかもしれないと言ってあった。
しかし友達の家が橋の下とは言っては無かった。
橋の下でも会話が続いた・・
「ところでキミちゃん、俺たち、そろそろ冬眠の季節じゃないかケロ」
「そうだねケロ、でもナベちゃん。冬眠するなら家がいいなー」
「そうかケロ、俺はここでもいいぞケロ」
「ダメだよナベちゃん。帰るんだよ。家に帰って冬眠するんだよ」
ナベちゃんカエルは冬眠してしまった。
キミちゃんカエルは色々な事を思い出していた。
面白かったコンサート・・
美味しかった「ニラ蕎麦」・・
「ニラ蕎麦?」あの時ナベちゃんが腹が空いたから食べようと言って・・
あれ?それが原因で最終バスに遅れたんじゃないか。
やっぱりナベちゃんのせいである。
キミちゃんはだんだん腹が立ってきたが、眠気に負けて寝てしまった。
時は流れ・・・?
―水面に輝く朝の光は2匹のカエルを冬眠から目覚めさせた―
「キミジマ、起きろ!朝だぞ。このまま学校に行くぞ」
「やー、ナベちゃん。もう春になったんだね」
「なに寝ぼけてんだよ、朝からカエルだの冬眠だの」
「・・・朝?」
そこはまぎれもない橋の下であった。
夢では無く、本当に橋の下に泊まったのである。
カエルのナベちゃんは人に戻って、河の水で顔を洗っていた。
「おーい!おまえも顔ぐらい洗えよ、気持ち良いぞー」
それは・・橋の下で過した事など、忘れた様な笑顔であった。
「よーし!オレも洗うか」
水面に映る自分の姿もまた、普通の高校生であった・・龍
ニラ蕎麦


