パイ包カレースープ
水曜日は寿屋の定休日で有る。
調理場には誰もいない。
従食用の冷蔵庫を覗くとソーセージとタマゴしかない。
厨房の冷凍庫はと開けると銀色のパケージに包まれたパイ生地を発見した。
これはお店の物じゃないから良いだろうと使うことにした。
確か何かのパイ包を作った時の余りである。
その時は我ながら失敗に終わった記憶がある。
記憶がある等と書くには、其れなりの月日と物忘れが必要となることをご存じだろうか。
何はともあれ、料理を始めることにした。
ソーセージがあったので、パイ生地で包んで見た。
そしてタマゴは茹でることにした。
4本目を包だしたころ不思議な感覚に陥った。
「何だろう?この感覚。嫌な感じがするぞ」その時、胸騒ぎが起きた。
「そうだ、ソーセージで失敗したのである。忘れるところだった」胸を撫で下ろす。
もう一度冷凍庫を見ると黄色い塊が見えた。それは紛れもなくカレーであった。
パイ生地+カレー=カレーパン・・・ここで図式を間違えた。
カレーパン=油で揚げる=パン粉を付ける=タマゴが必要=茹でてしまった・・・
凍ったままのカレーと茹でタマゴをパイ生地で包んだ。
パン粉は意外にパイ生地に張り付いた。
5個ほど作ったところでバカバカしくなって止めた。
取り合えずそのまま冷凍庫に戻した。
パイ生地からソーセージを剥がして炒めて食べた。
翌日・・・晴天である。
私はいつもの様にパートのおばちゃん達を迎えに行って帰ってくると。
店の前の県営駐車場が 人だかりになっている。
「わ!いくら晴天だからってこんな早くに客が」・・・?「あれ?パトカーじゃないか!」
急いで店に駆けつけると派出所の飯田橋巡査がトランシーバで話している。
「えー、こぢら現場、至急応援頼んます」
「いいべした巡査、一体どうしたんですか」私は聞いた。
「お、タッじゃんか、事件だよ、事件、それもテロだべした」
「えーテロ!大変じゃないですか」興味津津である。
「そうだべした、先週のフグ殺人かも事件など、問題じゃねーべした。あ、それからワダシの名前は、イイダバシで、 イイベシタじゃないの。何度言ったらわかんの?あんだが、色々名前つげっからよ、まったく。たぬき屋の旦那もね、スナックインドさ飲みに行ったら、ムジナさんて言われたって、椎名さん怒ってるだよ全く、叶わんねーあんだにゃ」椎名さんをムジナさんて初めて言ったのはインドのママ夕美さんである。私ではない・・
「オッホン!」ヒゲの偉そうな人が立っていた。
「あ、これは本部長殿」どうやら県警が乗り出してきたようだ。山の温泉は近隣に御用邸も抱える地域でもある。フグとテロは毒の名前は似ているが事件の質が違う。当然県警の出番である。
「事件のあらましを報告せよ」偉そうである。
「おい!誰か本部長殿に説明をしてけろ」・・・・警官も野次馬も全て・・・シーン・・・である?
「おい、誰もいねーの。誰かいっぺよ。110番したの誰よ?おしえて」
その時観光協会の都辺さんが説明を始めた。爆発音が聞こえたので外に出ると血だらけのおじちゃん、おばちゃんが数名出てきた。これはガス爆発だと思い、消防署に連絡したそうだ。
そして消防署より警察に連絡が入ったとの事だった。事件の場合警察に報告をするそうだ。
「だ、そうです」飯田橋巡査が敬礼すると「君では話にならん」と寿屋に入っていた。
現場とは寿屋つまり私の店である。
私はやな予感がした・・・例のごとく関係者として店内に入った。(フグの白子参照)
「わ、こりゃひで―な」店内は騒然としていた。そして何よりも異臭がひどかった。しかし、幸いなことに全員が軽傷で済んだことだった。発生元は調理場だった。
消防署員が現場検証を始めたが、首を傾げている。理由は現場が燃えた痕がないことだった。爆発なら当然焼け跡が残るだろうとの事だった。しかし例外はあると・・・
ここで時間をさかのぼり再現してみよう。
親父「お、今日は天気が良いなー」背伸びをして言う。
お袋「お父ちゃん、カツ丼のカツもう揚げといたら」その方が早く客に出せると思うからだ。
親父「お、そうだな」確か、昨日衣を付けといたからなと冷凍庫に向かう。
お民「旦那さん、この大なべ磨き終わりました」そばの汁を沸かす大鍋を運ぶ。パートお民。
親父「お、棚に置いとくれ、今日は一番でけーのを使うからよ」お民、踏み台にのぼる。
お春「若旦那の店で使うケチャップ届いてますけど、どうします?」大カンのケチャップを見せる。
親父「お、下の店でも使うから、少しもっらとけ」お春、缶のふたを開ける。
お袋「あまり使うと怒るわよ」と、お春にお椀を渡す。
親父「よし、油も熱くなったな」仕込んでおいた豚カツを鍋に入れる。
お客「やってるかい」朝一番の客が来る。
お春「いらっしゃいませー何名さまですかー」カンを持ったまま店に出るが、気が付き厨房に戻る。
と!その時「どっかーん」と店中に響き渡った。
親父「あち、ち、ち、ちー」鍋が爆発した。よけた拍子でお民にぶつかる。
お民「わ、何すんだー」踏み台の上から鍋ごとおちる。大鍋と特大お鍋が宙を舞う。
「どっかーん・どっかーん」更に大きな音が響く。
「爆弾だー」耳をふさぐ為にカンを投げ出すお春。それを受け止めようと足を出すお袋。
「あ、!!!」運悪く、学生時代陸上をやっていたので足の力が強い!蹴ってしまうお袋。
追加注文をしに厨房に来ていた客の頭にスッポリかぶる「きゃー」逃げ惑うお客。
ケチャップをたっぷりかけた髪を振り乱し「助けてー」と他の客にもまき散らしながら店をでる客。
その様子を外で煙草を吸っていた都辺さんが事態を察し、119番した。
全員の話は以上だった。
親父の顔はまるでカレーをかけた様に顔中真っ黄色になり興奮している。
客はケチャップで文字通り、真っ赤になり怒っている。
私は思い出した。確かあのパイ生地2年前のだったような・・・そういえばあの時は私がパイ生地でソーセージを包んでいると親父が茹で卵を包むからと言って持って行き、油であげたら破裂した事があった。
・・・と言うことはソーセージでなく?昨日のパイ皮で包んだ茹で玉子カレーか!しまった、私は青ざめていた。
私は男らしく自分の非を認めようと覚悟を決めて、親父と客の前にでて行った。
「ごめんなさい」と、謝ろうとしたときだった。
「あ、は、は、は・・」「おほほほ・・・」「くすくす・・」皆が笑いだした。
「へ?」と思っていると、お袋が腹を抱えて笑っている。「なんで?」と思っていると。
「あんた達、お父ちゃんは黄色、お客さんは赤、そしてお前は真っ青、まるで信号機みたいだね」
「あ、ははは・・」ここは笑うべきだと一生懸命笑った。
お客も従業員も野次馬も親父も皆で笑った。
ただし本部長一人を除いてだが・・・
後日、親父は始末書を取られた。
最後まで「オレは無実だー」と叫んでたそうだ。
本当に平和な街である。 龍
山の温泉重大事件その2 ・・・完
絵・文 君島龍輝
★飯田橋巡査

