うな重 | 版画家・君島龍輝 オフィシャルブログ☆たっちゃんの今日は何食べる?☆

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私が各地で出会った美味しくて不思議な一品をご紹介。さーて今日は何を食べようかな。

           夏バテバッチリ!うな重(11月中旬?)


版画家・君島龍輝 オフィシャルブログ☆たっちゃんの今日は何食べる?☆-うな重



那須岳の中腹に点在する温泉の一つに「高雄温泉」が有る。そこに、私に版画家を薦めてくれた恩師がいる。


我が家のように、幾度となく遊びに行って居たので当時は気がつかなかったが、今思うと想像を絶する人物であった。


訪ねてくる客人の顔ぶれで検討は付いていたが、当時20代の私に一々紹介を頂いたので慣れてはきていた。


師は食の本質を見抜いていた。「松茸や松葉ガニの様な高価な食材も、モヤシや鰯などの安価な食材も人間が価値を決めただけで、体に必要なら食べるが良い」と、私に教えてくれた。


家に帰り、今の話を両親に話してみた。

父の反応は「そりゃそうだ、頭に松が付きゃ良いてもんじゃねえ、山原屋旅館の松子だって頭に松が付くじゃねーか」


「へ?」話がずれてる。


「何いってんの、あんた。名前に『し』が付くからでしょ、縁起かつぎよ」と、お湯を沸かしている向こうから母の声がする。


「し?あ、イワシのし、モヤシのし、そりゃそうっだ」と笑いうける親父。既に価値観全てがずれている。



山の紅葉はピークを過ぎたが、観光客の姿は見える。


私は家の手伝いをしている。食堂は朝早くから準備をしているが、私の仕事はパートのおばちゃんの送迎であるので、朝は早くない。昼前に連れてくれば良いのだ。


「おはようございます」「いらっしゃいませー」店に響き渡る。今日も忙しくなりそうな天気である。観光地は天候に左右されやすく、晴れの日は客足も早い。


店内を見回すと師匠が居た。お客さんと食事に来た様子だったので軽く挨拶をして調理場に入った。


「ねー師匠は何頼んだの」と調理のおばちゃんに聞いて見た。


「キノコの炊き込みご飯定食、キノコそば、けんちんうどん、夏バテバッチリ!うな重の4名様」


4名様は解ったけれど「夏バテバッチリ!」って?今11月だろうに・・・ははは。


「上がりましたー」の声に運ぶおばちゃんがやってくる。


お盆にのせお客に運ぶのだが・・・「お待たせしましたー、夏バテバッチリ!うな重でーす」と聞こえてきた。


「夏バテ?」不思議に思い、店内を見ると、私が画いたメニューの絵にマジックで「夏バテバッチリ!」と書き加えられていた。


その他にも「春の旬、山菜そば」「もうすぐ解禁!鮎の塩焼き」などがある。


「もうすぐ解禁って、冷凍ですって言っているようじゃないか、それとも密猟のどちらかだろう」


いずれにしろ犯人は母親である。大胆にマジックで堂々と書ける人物は他にいない。いきさつをパートのおばちゃんにそっと聞いてみた。女将さんいわく、「息子の絵にはインパクトが無い、絵がうまくても客が注文しようと思わなければ意味が無い。」と、マジックで書き始めたそうだ。皆して止めたが、そこは主人に逆らえず、出来上がったサブタイトルを合唱したそうだ。


「ごちそうさま、たつてるはいるかい」師匠の声がした。


「あ、お粗末さまでしたー」私が顔をだすと、にっこりほほ笑み「お客様が見えてるから館においで」と告げられた。そばには東洋の魔女と言われたバレー選手だった。


「夏バテバッチリ!うな重、美味しかったです」と、深くお辞儀をした。師匠「は、は、は」、と、笑いながら去って行った。


館にて松葉ガニの話や夏バテの話をした。私は恥ずかしいという気持ちで話していたが、皆は仲がいい親子ねと言うばかりで、師匠も「良い親に生まれてきたな」と、ほほ笑むのだ、全く不思議であった。


後日、昔を知っている師匠から、両親の話を聞いた。

東京の学生時代を優秀特待生で学費免除をうけ、某大手銀行に内定していた父、公立中学校の教師をしていた母(年上)が、戦争で全ての希望を失った。やがて結婚して父の故郷那須温泉で商売を始めたそうだ。


「どんなに努力しても、勉強が出来ても、戦争で一瞬にして夢は消える、お前はやりたいことをやれ」両親、揃って最後の言葉っだた。


今にして思えば、笑って過ごせる事が一番だと教えてくれたのだと思う。


笑う門には福来るなのだ。





絵・文 君島龍輝



  ★タツ(若かりし時)