私は近所のスーパーを見て歩くのが趣味である。
勿論、見るだけではない。買い物をするのだ。
特に鮮魚売り場に興味がそそる。
盛り付けした容の良い刺身には興味が薄れるのだ。
私は職業柄、仕上がった物に執着が無い。
しかし、素材や手間の掛かる物に心が動く。
「鯛のあら」など最高の産物である。
先ず、鱗剥ぎであるが、中々手ごわい、しかし煮ると落ちてくるので、手は抜けない。
そして頭割りだ。前歯の中心に包丁を入れ軟骨を感触のみで切り分けるが、難しい。
昆布を敷き、味醂、醤油で味を付けて煮る。
後は日本酒片手にひたすら頂く。
美味しである。
先日テレビの撮影が有った。版画の制作風景に加えて、食卓を撮りたいと言う。
私は「趣味は料理です」と言ってしまった手前、腕を揮うこととなる。
私はテレビ撮影だからと言って、特別な物を出そうとは思わない。
スーパーで大根と鰤のカマを買ってきた。
女性の声で「それではお願いしまーす」とキューがはいる。
彼女は若く優秀なディレクターである。
何度か取材に応じてきたが、話の理解度が良く、礼儀正しい。
さすがテレビ局と感心させる。
音声のマイクが入り、カメラがまわる。
私は徐に冷蔵庫から大根を取り出し皮をむく。
皮は2cm角に切、酢醤油に漬け込む。
ハリ張り漬けである。
大根の輪切りを鍋に入れ、醤油、味醂で煮汁を作る。
ここまで自分では手際よく出来ていると思った。
問題はここからであった。
カマを入れようとしたら、鍋に入らない。
三度やったが入らない。
いつもより見栄を張って大きめのカマを選んでしまったようだ。
深さを優先してしまい、体積は有るが表面積が無い。
いまさら鍋を替えるわけにいかない。
ディレクターの顔を見た。
目と目があった。
真剣である。
撮影を止めるわけにもいかず、カマを包丁で切ることにした。
「ふ、ふ、ふーん」とはな唄をうたい。
包丁を入れてみた・・・切れない。
悔しいが、とても素人では太刀打ちできない。
私は裏技を披露した。
技の名前は「ミスリード!」最強である。
「え!」という顔をしてディレクターのやや左後方をみた。
「おや?」という顔をして、ディレクターが振り返った。
「何?」という顔をして、音声が振り返る。
「?」無言でカメラマンが、後方を向いた時、チャンス!
私の手は魔法か神技としか例えようがない奇跡を起こした。
素早く切れない鰤カマ達を鍋の中に満員電車のごとく、
縦に上手に入れてしまったのだ。
首をかしげて私を見直すスタッフ。
全員が私の手元を見ていないうちに料理は進んでしまったのだ。
「わ、は、は、は・・・」心の声が聞こえた。
「さてと、後は火を入れるだけです」と、私。
その時、衝撃が走った。
スタッフ全員が後ろを向いていたのに、カメラは固定されていた。
青ざめる私と不思議がるスタッフ。
何とも言えない異様な空気がしばらく続いた。
しかし後日の放映は素晴らしい番組だった。
知人友人から、すごいねーと絶賛された。
スタッフの皆さんありがとうございました。
KIMIJIMA
PS: 料理場面はカットされていた。すみません・・・龍
