百合根のコロッケ
北海道の特産品に百合根が有るのをご存じだろうか?10月~12月に掛けてが旬である。私の故郷、那須でも百合根を食していた。あの何とも言えぬ香りと食感。そしてうまみともいえる甘み、子供の頃の私でもわかる美味しさである。それを贅沢にもコロッケにしてしまった。甘さを抑え、風味を残し、これぞコロッケのクイーンである。
何故にコロッケは美味いのであろうか?いやそれを言うのならフライは何故美味いのか?だろう。
ポテトコロッケにカニクリームコロッケ、そして、海老フライ、牡蠣フライ、白身のフライにメンチカツ。
そして、お待ちかねのトンカツである。
考えただけで、お腹が空くではないか。
こんな時はガツーンといきたい。
さればカツ丼であろう。
豚肉は薄すぎず、されど厚くなく、私の好みは9㎜である。
パン粉は二度付けせず、カラッと揚げる。
ちなみに私は、「ナインカツ」と呼んでいる。
しかし、巷では通用しない。
玉ねぎのざく切りに味醂と醤油で味をつけ、揚げたてのトンカツをエスコートするのだ。
程よく煮えたころ合いに溶き卵の定量を半分入れ込む。
カツの領域を邪魔せず、箸でかき混ぜる。
玉ねぎと甘汁が卵で一体になる。
まさにJAXAのHTVを思わせる。
仕上げに溶き卵を遊泳してコンプリート、完成である。
しかし・・・人には好みというのが有るものだと、つくづく教えられた。
遡ること30年、母が元気で食堂を経営していた時だった。教師をしていた母が結婚をして那須温泉で食堂を営むとは思いもしなかっただろう。しかし、母の周りには人種、地位の隔たりがなく人が溢れていた。ハンディーを持った者や外国人(フィルピン、台湾人‥)が何時も食堂に集っていた。
それは、私が手伝いをしていたある日のカツ丼の注文の時だった。
フィリピン人のいつものメンバーが訪れた。
「ママさんいるか~」
「今ちょっといないけど何でもつくれるよ~」と私が答えた。
するとチョット躊躇したそぶりを見せたが、
「カツドン、ヒトツ、クダサイ」と注文した。
「オイオイ!5人で来て何で一つ?」私は一人つぶやいた。
私はカツ丼に自信があった、若いとはいえ、幼きころからとんかつには執念があた。
夜中厨房に忍び込んでまで食べ続けたのだ。
「サー、自慢のカツ丼よー!とくとご賞味あれー」客にさしだした。
5人のフィリピン人の一人が一口、口に運んだ。
「コレ、ダメヨ」・・・!あっけなく撃沈。
全員でまた来るねーと帰ってしまった。
最後に「ママ、イルトキ、クルネー」と言い残して。
私はがっかりして器を下げにいった。
「あれ?」
不思議なことに、カツ丼は一粒も残さず食べきっていたのだった。
数日後・・・
いつものフィリピン人が母のカツ丼を食べている。
「ママサン、カツドン、セカイイチ」
オイオイ、世界中にないじゃないかと私はうそぶく。
なんか「サランラップ、サランラップ」て言ってるし、お持ち帰りなのか?
とにかく大うけなのである。
しかし「一度食べてみたい」と思うのは自然である。
ある日彼たちが注文した時に私の分も作ってもらった。
まったく同じものをだ。
「ハイよ!」と母は差し出してくれた。
そして一言「お前も、もの好きだねー」と付け加えた。
???「なんで?」???
私は一口食べてビックリした!
「ショッパイ!!!」
なんて濃い味なのだろう。
あまりの味の濃さに咽てしまった。
謎が謎を呼んでしまった。どうして彼たちはこれを好むのであろう・・・
不思議そうな顔をしている私に、パートのおばちゃんが教えてくれた。
「若さん、あの人たちはね、カツ丼は一つしか頼まないんだよ。あとの人たちはライスだけか、自分の持ってきたパンなんだよ。日本に出稼ぎに来て贅沢は出来ないでしょ。でも日本のカツ丼はたべたいよねー、だからさ、女将さんはわざと味を濃くして、みんなのオカズになるようにしてるんだよ。まったく儲からないのにねー」と教えてくれた。
身近なことで外国人とのコミニケーションが生まれる。
それは相手を思いやる事からだと私の心の奥深く刻み込まれた。
素晴らしき「カツ丼」?
いや訂正、母だった。
☆豆知識:フィリピン語で美味しいは「サラップ」というそうです。☆
絵・文 君島龍輝
★ことぶき屋女将 ほう子


